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名門ヤンキースが49年続いたルールを変更した理由は…

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ニューヨーク・ヤンキースが選手のひげ解禁 49年ぶりルール改定 の画像1
Yankee Stadium(写真:Getty Imagesより)

 米プロ野球メジャーリーグの名門、ニューヨーク・ヤンキースが1976年から選手らに課してきた「ひげ禁止」のルールを撤回した。チームに規律を持たせるために前オーナーが導入したが「時代遅れで不合理」だとして、前オーナーの長男である現オーナーが2月21日に発表した。ワールドシリーズでの優勝が27回という圧倒的な記録を持つヤンキースは、2009年以降、優勝から遠ざかっている。「ひげ禁止」が原因で優秀な選手が獲得できなくなっていることが成績不振の要因の1つとされており、チーム強化のために規律を緩めたとの見方が有力だ。

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軍隊出身オーナーの命令を息子が撤回 「見直す適切な時期」

 オーナーのハル・スタインブレナーの発表は、スプリングトレーニングでのオープン戦初戦の直前に行われた。

「熟慮した結果、今後、選手や球団スタッフは、きちんと整えられていれば、ひげをはやしてもいいようにする」と述べ、多数の元選手や現役選手とも相談したうえでの判断だと強調した。「これまでの方針を見直す適切な時期だ」とも語り、「ひげ禁止」が時代にそぐわない不合理なものだ、との認識を示した。

 ルールの撤回が発表されたのは金曜日で、その週の月曜日の時点では、ヤンキースのクラブハウスの椅子には、写真撮影にはきれいにひげをそって来るようにとの選手にあてた注意喚起のメモが貼られていたとされ、急な発表だったことがうかがえる。

 「ひげ禁止」は前オーナーであるジョージ・スタインブレナーが1976年のスプリングトレーニング中に発表した。口ひげを除くひげと、シャツのえりに達するような長髪を禁止した。

 空軍兵士だったジョージ・スタインブレナーは1973年にヤンキースを買収し、厳格な球団運営で知られた。ついたあだ名は「ザ・ボス」。勝つためには選手に規律を守らせることが重要だと考え、「ひげ禁止」を導入した。

 「オーナー自身が法律」と関係者が評するほどのワンマンぶりで、ヤンキースの入団と同時に選手はひげをそった。マリアノ・リベラ、バーニー・ウィリアムズ、デレク・ジータ、アレックス・ロドリゲスら球団史に残る大選手も当然のようにルールに従い、短髪、ひげなしスタイルでプレーした。

反発する選手には罰金 試合にも出さず

 しかし、時にはこのルールに反発する選手もいた。代表的な確執は1991年にチームのキャプテンだったドン・マッティングリーのケースだ。後ろ髪が肩に軽くかかるぐらいまで伸ばしていたため、オーナーから切ることを命じられたが、マッティングリーは拒否した。このため罰金250ドルを科せられたうえに、出場メンバーから外された。

 観客席には、マッティングリーの長髪姿を支持するファンがプラカードを掲げるなどしていたが、結局、マッティングリーが折れて髪の毛を切った。

 この騒動は翌年、人気風刺アニメ『ザ・シンプソンズ』でもパロディー化され、マッティングリーは野球チームで身だしなみを注意される登場人物の声を担当し、「スタインブレナーよりもましだ」という台詞を任された。

 ヤンキースで選手として活躍し、監督も務めたルー・ピネラは「イエス・キリストは長髪でひげをはやしているのに、なぜ、我々はだめなのか」と語りかけて、ジョージ・スタインブレナーにひげ解禁を迫ったこともある。

選手獲得の足かせに 成績不振で球団運営に疑問感じるファン

 しかし、この厳しいルールが最近では有力選手の獲得の足かせになっているようだ。ヤンキースの「ピンストライプ」のユニホームは全米の野球選手の憧れで、これまではヤンキースでプレーできるなら厳格なルールもいとわないという考えが強かったので、有力選手がヤンキースに集まった。最近ではヤンキースへの憧れは薄れる傾向にあり、選手の獲得が以前より困難になっている。

 21日の発表の席で、ハル・スタインブレナーは「ひげ禁止」によって選手争奪戦で他球団に敗れる可能性について「それは、本当に心配なことである」と話している。

 今回、ひげを全面的に認めたものの、「きれいに整える」ことを条件に付けた。さらに長髪については、引き続き禁止している。「中途半端な自由化」で、選手獲得に大きな効果は期待できないかもしれないとの声もあがっている。

 また、決定を機にハル・スタインブレナーの球団運営への批判も強まっている。2008年に父親からオーナーを引き継いだが、2009年にチャンピオンになって以来、ヤンキースはワールドシリーズでの勝利はない。

 2024年のシーズンは15年ぶりにワールドシリーズに進出したが、大谷翔平がいるロサンゼルス・ドジャースに1勝4敗の大敗を食らった。しかも本拠地ヤンキースタジアムでドジャースに優勝を決められ、ファンを失望させた。シーズン後には主力選手のフアン・ソトが同じニューヨークのメッツに移籍した。15年総額7億6500万ドル(約1170億5000万円)という大型契約で、ヤンキースの面目は丸つぶれとなった。

 49年続いた「ひげ禁止」の撤廃は、名門球団の「おおいなる変身」だが、これだけで厳しい現実を跳ね返すのは容易ではなさそうだ。(敬称略)

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/03/07 09:00