北村優衣インタビュー「相手の良いところを引き出せる俳優になりたい」

ドラマ『女子グルメバーガー部』(20)や映画『ビリーバーズ』(22)などでの演技で注目を集め、今年は出演映画が次々と公開されている北村優衣。ロシアの文豪ドストエフスキーの短編『白夜』に着想を得て、紅葉の美しい秋の日本で撮影した映画『永遠の待ち人』で、帰ってこない恋人を3年も待ち続けるヒロインを演じる彼女に、これまでのキャリアや本作の撮影エピソードなどを中心に話を聞いた。

<インフォメーション>
『永遠の待ち人』
2025年6月6日(金)〜6月12日(木)池袋シネマ・ロサにて公開ほか全国順次公開
出演:永里健太朗 北村優衣 高崎かなみ
釜口恵太 藤岡範子 ジョニー高山
監督・脚本・編集:太田慶
配給:OTAK映画社
2023年/日本/カラー/16:9/83分
©太田慶
仕事中心で家庭を顧みることのなかった泰明(永里健太朗)は、妻の麻美(高崎かなみ)が去ったショックで鬱になり会社を休職しており、唯一の話し相手は、たまに手土産を持って様子を見にやってくる同僚の岡崎(ジョニー高山)と鉢植えである。ある日、ぼんやり道を歩いていた泰明は美沙子(北村優衣)とぶつかり、美沙子がバッグから落としたナイフを拾う。泰明は美沙子の後を追い、ベンチで本を読んでいる美沙子に話し掛けると、美沙子は恋人・慎一(釜口恵太)を3年間毎日そのベンチで待ち続けているという。「彼はもうあなたのことを忘れてるんじゃないですか」と泰明は言うが、美沙子は「愛は信じることです」と強い意志で恋人を待ち続ける。美沙子に心惹かれた泰明は、美沙子のもとに通い始める。泰明は、美沙子が迷いなく話す愛の定義を聞く度、自分と元妻の関係を反省。もし美沙子が想っている人が自分だったら、と考え、「何か変えてみることでこの悪循環から抜け出せるような気がする」と提案してみるが……。
■トークイベント登壇者(予定・敬称略)
2025年6月6日(金)18:15〜上映後
永里健太朗 北村優衣 釜口恵太 藤岡範子 ジョニー高山(以上、出演)太田慶(本作監督)
2025年6月7日(土)17:30〜上映後
永里健太朗 北村優衣 高崎かなみ(以上、出演) 太田慶(本作監督)
公式サイト:https://eien-machibito.com
Instagram:https://www.instagram.com/eienmachibito
公式X:https://x.com/ eien_machibito
<プロフィール>
1999年9月10日生まれ。神奈川県出身。2013年に女優デビュー。2020年に『かくも長き道のり』(屋良朝建監督)で映画初主演。2022年、『ビリーバーズ』(城定秀夫監督)で“副議長”役を演じ、注目を集める。主な映画出演作に『13月の女の子』(20/戸田彬弘監督)、『コーポ・ア・コーポ』(23/仁同正明監督)、『ブルーイマジン』(24/松林麗監督)など。
公式サイト:https://www.knockoutinc.net/artists/?id=1697529300-776290
Instagram:https://www.instagram.com/kitamura_y910/
X:https://x.com/kitamura_y910

良くも悪くも人の空気を読むのが得意なほう
──映画『永遠の待ち人』の出演が決まった経緯を教えてください。
北村 太田慶監督が以前、私が出演した映画『ビリーバーズ』をご覧になって、「美沙子役がぴったりなんじゃないか」と。『ビリーバーズ』で演じたのは、宗教団体の「議長」の教えを信仰する役柄だったのですが、「信じる」というところが、美沙子の「信じる強さ」と通じるものがあると仰っていて、「北村さんならできるんじゃないか」ということでお話をいただき、ぜひやらせてくださいということで受けさせていただきました。
──最初に脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。
北村 最初読んだときは「難しい」と思いました。本当にこの人たちは存在しているのかなという神秘的な部分もあって、『ビリーバーズ』を観て呼んでくださったのも納得でした。初めて太田監督にお会いしたとき、美沙子のセリフにある哲学的な部分を伝えたい気持ちや、心から映画が好きという熱量が強くて、その力を借りて美沙子役を演じようという気持ちになりました。
──美沙子を演じる上で意識したことは?
北村 3年間も待ち人を待っているので、そこの芯がぶれないようにというのを心がけました。美沙子は私生活で何をやっているのか分からない。毎日同じベンチに座っていて、生活感がなくて、ただ本をたくさん読んでいる。だから美沙子の人物像というよりも、主人公の泰明にとって美沙子がどう映っているのか。また脚本のセリフの力が強いなと感じたので、しっかりとクリアーに伝えていくことを意識しました。
──美沙子に共感する部分はありましたか。
北村 私も夢見がちなので(笑)。運命を信じて、「この人が私を変えてくれる」みたいなところはあると思います。

――主人公・泰明の行動は理解できましたか?
北村 現在のシーンでの泰明は優しいので、相手のことを思って行動するんですが、それは仕事中心で家庭を顧みず、妻の麻美が去っていった過去の失敗があるから。だから美沙子に対して、しっかりと過去の失敗を活かそうとしているところがあって、私にも理解できる部分がありました。私も優しい人間ですからね(笑)。良くも悪くも人の空気を読むのが得意なほうなので、そこは主人公に繋がるところがあるなと思いました。
──太田監督の演出はいかがでしたか?
北村 明確に「こういう画(え)が撮りたい」というのが頭の中にあって、シーンごとに資料を用意していて、「このシーンは、この映画の、このカットみたいに」と具体的な指示を出してくださるんです。だったら太田監督のやりたいようにやるのが、この映画が上手くいく一番の方法なんじゃないかと思って、そこに乗っかっていきました。
──たとえば、どのような指示だったのでしょうか。
北村 ある映画の写真を幾つか見せてくださって、「(カメラマンさんに)このアングルで画を作ってほしい」「ここは目をつぶって、相手を見ないでほしい」というような具体的な指示があるんです。それに対して、「目をつぶるとはどういうことなんだろう」と深掘りしていく作業が多かったです。監督の思い描いているものが強かったので、自分でこうと決めるよりは、監督の指示通りにやって見えてくるものがありました。脚本もご自身で書かれているので、私が作った美沙子に対して、「僕の思い描いていた美沙子が出来上がっていて良かった」と言ってくださったので、その監督の言葉に尽きると思います。

──現場の雰囲気はいかがでしたか。
北村 撮影期間がタイトだったこともあって常にバタバタしていたんですが、そんな中でも丁寧に撮ろうという太田監督のこだわりがあったので、みんなが同じ方向に向かえたというか、まとまりは良かったです。
──演じる上で特に苦労したシーンは?
北村 日常会話で使わないような哲学的な言葉がたくさん出てくるので、そのセリフを自分のものにするのが大変でした。あと、待ち人と初めて出会う回想シーンで美沙子はビビッとくる訳ですが、ときめきを感じたときはどんな顔をするんだろう、どこに魅力を感じたのだろうというところは深掘りして考えました。
──泰明を演じた永里健太朗さんは、どんな俳優さんでしたか。
北村 永里さん自身がちょっと変わった方で、何を考えているか読めないところがありました。姿勢がめちゃめちゃ良くて、歩き方も独特で、それが不思議な空気感を醸し出していて、泰明そのものという印象で。「どういう人なんだろう」と考えることが、美沙子を演じる上でも合っている気がして。だから、たくさん話して仲良くなるのではなく、永里さんがぽつぽつ話すことに耳を傾けようとか、あえて距離感を保つことで、楽しく演じさせていただきました。
──完成した作品をご覧になった感想は?
北村 初めて脚本を読んだときよりも、より幻想的になったなと感じました。泰明が住む家には何もないし、愛や人生、生きる意味についてなど、美沙子の喋る内容もすーっと耳に入ってくる言葉ではないので、その存在も含めて幻想的だなと。この映画を観た人はどう思うんだろうと話したくなる映画で、ディスカッションできる作品じゃないかなと思います。

両立していたほうが、どちらも上手くいくタイプ
──この世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
北村 幼稚園の頃に観たミュージカル『美少女戦士セーラームーン』の影響で、セーラームーンになりたくて、この世界に入ったんです(笑)。あと小学4年生のときに学校で劇があって、私は『サウンド・オブ・ミュージック』の主人公・マリア役をやったんですが、そこで初めてお芝居というものに触れて。自分が演じることで親や知っている人たちが楽しんでくれるんだということを肌で感じました。また、みんなで一つのものを作って、その役になりきって演じるというのが楽しくて。こんなに楽しいことを職業にできたら最高だなと。それで女優さんになりたいと思ったのが一番のきっかけですね。
──人前に出ることは昔から好きだったのですか?
北村 最初はただの目立ちたがりでした(笑)。学級委員もやるし、体育祭などでも実行委員会に入るなど、積極的に前に出るタイプでした。
──2013年に受けたオーディションに合格して、中学3年生で芸能事務所に所属、その翌年にドラマデビューを果たします。
北村 いつもテレビで観ていたドラマの中に、自分がいるというのが信じられなかったですし、撮影現場ではそわそわしました。デビュー当時から、ちょこちょこ舞台にも出させていただいたのですが、舞台は生ものですし、小学生の頃は身内だけの発表会でしたが、知らないお客さんの反応を見るのが楽しくて、「生きてる!」という実感がありました。
──大学進学は早くから決めていたのですか?
北村 自分では大学に行くつもりはなかったんです。ただ普段から「自分の好きなようにやっていいよ」と私のやることに口出しをしないお父さんが、「大学は出ておけば」と言ったんです。そのほわっとした言い方が本音なんだろうな、本気で大学に行ってほしいんだなと思って進学を決めました。せっかく大学に行くなら、お芝居のためになるような学科がいいなと、心理学を専攻しました。人を演じる上で、人を学んでおいて損はないなと思ったんですよね。
──実際に、心理学を学んだことは演技に活かされていますか。
北村 ちょこちょこ(笑)。心理学を学んだからといって、「こういうパターンもあるよ」というだけで、そんなに人って単純じゃないんですよね。やっぱり生身の人間は、教科書だけでは語れないところがたくさんあるなと思いましたし、同じ人は誰一人としていないんだなということを知るいい機会でした。
──大学と仕事の両立は大変でしたか?
北村 私は両立していたほうが、どちらも上手くいくんですよね。むしろ、どちらかが暇なときのほうが両方疎かにしてしまいがちで、大学も忙しくて、仕事も忙しいときのほうが結果的に良かったです。今も何もしない時間が苦手で、仕事がない日は映画を観たいし、本を読みたいし、劇場に行きたいしと、何かしらやっています。

今ハマっていることは麻雀とM.LEAGUE観戦
──昔から映画はお好きなんですか?
北村 大好きですね。最初の事務所に入る前からそうで、映画館に通っていました。現実逃避みたいな感覚ですね。現実がつらいとか、そういう訳じゃないんですけど、旅行している気分というか。映画を観ると、いろんな人生を体験できるじゃないですか。自分だけの人生ってつまらないなと思いますし、それがお芝居をやっている一つの要因でもあるんですが、自分の人生一つ生きるよりも、たくさんの役をやることによって、いろんな人の人生を生きられるからお得じゃんと思っています。
──好きな映画を一つ挙げるとすると何でしょうか。
北村 私は大九明子監督の作品が大好きで、中でも『勝手にふるえてろ』(17)は大きな影響を受けました。女性ならではの気持ちがリアルで、もどかしい感じも共感できて、主人公を演じた松岡茉優さんも大好きです。
──ご自身の出演作でターニングポイントとなった作品は何でしょうか。
北村 やっぱり『ビリーバース』ですね。初めてと言っても過言ではないぐらい、しっかりと映画の中で生きているなという実感があって、より一層お芝居を好きになった作品でした。それに磯村勇斗さん、宇野祥平さんとお芝居をさせていただく中で、これが生もののお芝居だよなと感じた瞬間がたくさんあったんです。
──どういうときに感じたのでしょうか。
北村 相手がどう出るんだろうというドキドキ感もありましたし、お二人とも自分自身を度外視して、役と真摯に向き合っている方々だったので、新しい面を引き出してもらったところもありました。そのおかげもあって、自分が思い描いていた以上の役になったなと思いますし、こんな顔をするんだ、こんな声で喋るんだなど、自分自身の発見が幾つもありました。そんな先輩たちを見て、私も年を重ねていく中で、相手のいいところや、相手の考えている役以上の部分を引き出せる俳優になりたいと思いました。
──『ビリーバース』は公開後の反響も大きかったですよね。
北村 今でも撮影現場に行くと、「『ビリーバーズ』観たよ」と仰っていただくことが多いので本当にありがたいことです。
──今ハマっていることはありますか?
北村 麻雀です。雀荘にも行きますし、友達の家に雀卓があるので、その子の家でも打ちます。週に1回はやっていますね。あとM.LEAGUE(Mリーグ)の試合も欠かさず観ています。
──いつ頃から麻雀を始められたんですか?
北村 『咲 Saki 阿知賀編 episode of side-A』(18)という映画に出演したときに覚えたんですが、当時は十代だったので、同年代で麻雀をやっている人がいなくて。二十歳を超えてから、現場で会う人やお酒の席で麻雀の話をすると、「やろうよ」という話になることが多くて、そこからしっかりと麻雀を打ち始めました。ここ2、3年で、しっかり役とか点数を考えて打てるようになって。まだまだ修行中で、そんなに強くないですけどね。
──M.LEAGUEも前から観ていたんですか?
北村 真剣に観始めたのは1年前ぐらいで、観る麻雀も楽しいんだなと知ることができて、麻雀はスポーツだなと思いました。
──推しのチームや選手はいますか?
北村 チームは渋谷ABEMASで、ハコ推しなんですが、あえて一人挙げるとすると多井隆晴さんです。あの毒舌で麻雀を教わりたいです(笑)。
──ちなみに好きな役は?
北村 二盃口(リャンペーコー)の切なさがいいですね。あんなに苦労して作ったのに点数は低くて、「これだけかよ……」みたいな(笑)。
──心理学が麻雀に活かされることはありますか?
北村 それが心理学を学んだくせに、めちゃめちゃ表情を読まれちゃうんですよ。マジで麻雀には向いていないと思います(笑)。ただ麻雀は心理状態が大きく影響するので、相手の癖や表情を見て、判断するようにしています。
──最後に改めて『永遠の待ち人』の見どころや注目ポイントを教えてください
北村 まず、この映画は2年半前に撮ったので、無事に公開が決まって本当にうれしいです。ドストエフスキーの『白夜』をモチーフにしていますが、また違うものになっていて、これは幻想なのか現実なのかなど、考えるポイントがたくさんあります。一人で観に行ってもいいし、二人で観に行った後に語り合うのも楽しいですし、「愛とはなんだろう」「自分だったらどう考えるのか」といった思考を巡らせるのも楽しい映画です。
(取材・文=猪口貴裕)