『コードファントム』誕生前史…“遅刻ゼロ”だった作家が女子高生を描いたら…!?

今年もあとわずか。毎年、毎年、同じことを口にしているが、早いものである。
先日のことだ。人生で初めて遅刻をしてしまった。私は記憶上において、遅刻したことも寝過ごしてしまったということもない。それなのにその日、午前8時30分の新幹線に乗らなければならなかったのだが、パッと目を覚ますと8時20分だったのである。
出かける用意も何もしていなかった。新幹線に乗るまでどれだけ急いでも、車で30分はかかる……。
言い訳してもいいだろうか。「見苦しい!」と言ってもらってもノープロブレム、問題ない。
3日間ほとんど寝ていなかったのだ。8時30分の新幹線に乗るために、用意を含めて5時半に起きる予定だったが、気がつくと朝の4時。考えた。そして、このまま寝ずにシャワーを浴びてゆっくり用意しようと思い、こたつに入り寝ながら原稿を書いていた。瞬きしかしていないはずだったのに、再び目を開けたときには、8時20分だったのである。
もしかして、オレはタイムトリップしてしまったのか……と。折れそうになる心にムチ打ちながら、急いで用意した。急いだぐらいで間に合わないことくらい、百も承知だった。
「オレってヤツはこんなときに何をやっているんだ……」
と、自分を責めに責めた。恐ろしいものである。自分を責め続けていると、その怒りは他者へと向かって行き、気がつくと新大阪駅から京都駅までの区間、ずっとパートナーを責め立ていたのである。正気の沙汰ではないとは、まさにこのことなのかもしれない。
間の悪いことに、その時の仕事は某YouTubeチャンネルの撮影だったのだが、共演者のほとんどが初めて顔を合わす人たちであった。ブレイキングダウンで有名な瓜田純士氏と溝口勇児氏との初仕事だったのだ。
ただ当初は、一度は引き受けたものの丁重に辞退するつもりだった。私の仕事は裏方である。裏方の仕事に誇りを持っている。だからと言うわけではないが、「出たがり」「目立ちたがり」と思われるのが、本当に嫌なのだ。よくいるだろう。目立ちたいくせに、有名になりたいくせに、それでチヤホヤされたいくせに、「オレはさ〜目立つのが嫌いなんだよ」って、本当は目立ちたくて仕方ないのに、そんな言葉をすぐ吐いてみせる人種。心配するな。だいたいそんなヤツに限って、誰にも興味を持たれていないものである。
私は逆にドラマや映画に「出たい!」と素直に言える人間が清々しくて好きだ。そんな人たちには、私で力になれることがあれば、力になろうと考えたりだってする。
でも私自身でいえば、物語の作り手として、もう十分なくらいテレビやメディアにも出てきたし、何だったら映画やドラマにだって出演してきた。勘違いされるかもしれないが、出たくて出てきたわけではない。ある程度、認知されなくてはならないので出てきただけだ。望むならば、目立たずに物語を作り、印税だけで優雅に暮らしていきたい。ただ現実はいつも私に手厳しいのである。
基本的には番宣以外ずっと露出をさけてきたのだが、あることがあって、RIZINファイターの皇治選手が主催する「皇治の虎」と「NARIAGARI」に出演することになった。
で、だ。出演してしまうとサービス精神が旺盛な私は、しっかり爪痕を残してきてしまうのである。すると、どうしても出演のオファーがきてしまうのだ。
某YouTubeチャンネルの仕事も勢いで受けてしまったが、すぐに思いとどまって丁重に「辞退します」と連絡を入れたものの、進行状況上、もう辞退できなかった。だから遅刻した言い訳にしたいわけではない。なぜならば、楽しみもあったからだ。
それ以前に、友人の猫組長や300万人登録者の人気YouTuber「たっくーTV」、それにプロデューサーのジョニー、ABEMAの橋尾プロデューサーと会食する機会があったのだが、その際、某YouTubeチャンネルに猫組長も出演することがわかったのだ。友人とならば楽しいではないか。それに瓜田氏や溝口氏とも会ってみたかった。なのに遅刻することになり、みんなを待たせてしまったのだ。
流石の私でもそんな状態では、番組内で横柄なことなんて言えない。爪痕を残すべく無理なことをするなんてこともできない。だって「なんだ、こいつ遅れてきやがったくせに」って思われるじゃん。
結果、目立たないように、つつがなく無事に収録を終えたのだった。番組が終わり、猫組長と瓜田氏、それに私の付き人でスタジオに来ていた俳優部の室田のマサやんたちと会食してきたのだが、瓜田氏はすごく良い男だったのである。
本当はみんなにサイン本を手渡したかったのだが、遅刻したお陰で手渡せず、トホホホとなってしまった。
既成概念を吹き飛ばす新ヒロインの誕生
サイン本ということで、そろそろ本題へと入って良いだろうか。去年の今頃から歳月をかけて小説を3冊書いていた。40代最後ということもあって、書きまくった。すまないが今年出版する小説は、3作とも映像化が決まっていたりする。私の中ではジャンルも設定もすべて異なるのだが、2025年小説出版3部作なのだ。
そしてついに、3部作最後となる物語『コードファントム』が発売される。
今度の主人公は女子高生である。私の場合、登場人物の名前に特別なこだわりがあって、逆に言えばその名前がうまくハマらなければ、物語の中でキャラクターが躍動してくれないのである。
その点で言えば、『コードファントム』の主人公、沢北樹緑(きみどり)は、めちゃくちゃピタリとハマった。その他にもコードネーム「地獄に花咲くブラックローズ」もお気に入りである。
当初『コードファントム』は 『クリスマス・ローズ』という仮タイトルで書いていたのだが、一緒にレスポンスを繰り返し、物語を作り上げた映画監督の藤井道人監督から「コードファントムの方が良くないですか!?」と屈託ない笑顔で提案してもらい、正式タイトルを変更したのであった。
ちなみに言っていいだろうか。現在、上映中の藤井道人監督作品『港のひかり』(主演・舘ひろし)では、監修・所作指導で参加しているのが、私である。そして、「湊のひかり」から字面的やさまざまな背景から「港のひかり」の方が良いと思うと提案したのは、この私めだったりする……聞き流してくれ。ついつい自慢したくなるのだ。悪気はない。聞き流してほしい。
それだけ物作りにおいて、作り手は時に一字一字の戦いを繰り広げるのである。それは私たちが特別ではなくて、物語を生み出すということは、誰しもがそれだけの情熱を作品へと注ぎ込むのである。
もうそろそろ良いのではないだろうか。今年だけで、小説『木漏れ陽』、小説『ブラザーズ』(文庫版)、小説『インフォーマ〈3〉最終章―幻影遊戯』、『ビッグマウス』(著・皇治)、小説『コードファントム』、マンガ『インフォーマ』③巻、マンガ『ムショぼけ』④巻⑤巻……これだけ出版してきたのだ。
誰にももう出版祝いなんてしてもらえる隙すら見せずに、世に放ってきた。もうそろそろ「えっ? 一生、遊んで暮らせる金は稼ぎましたよ〜」と言わせてもらえないだろうか。だが仮にそうなったとしても、私は物語を書き続けていると思う。なぜならば、それが私のプロとしての仕事だからだ。それに筆を握る以上は、誰にも負けるわけにはいかないのである。
気がつけばデビューして10年が過ぎた。小説家になろうと筆を握り、25年になる。
初の女子高生を主人公にした物語だ。ただしである。『インフォーマ』で情報屋のイメージを覆したように、私が生み出す世界線である。主人公・沢北樹緑もまた、これまでの女子高生の概念も吹き飛ばしてくれるだろう。
すべての物語は活字から始まる。2024年の最後はドラマ『インフォーマ−闇を生きる獣たち−』で締めくくったのだが、2025年最後はさまざま期待を持って、『コードファントム』を堪能してもらいたい。
(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)
『コードファントム』
(著者:沖田臥竜/発行:アンバウンド・レーベル)

幼い頃からキックボクシングを学び常人離れした強さを誇る高校3年生の沢北樹緑。彼女の父であり刑事の沢北秀虎は、ファミリーレストランで落ち合ったコカインの売人・安から、「なぜ未成年の女の子にコカインを渡したのか」の告白を受ける。それは、日本屈指のフィクサーとして君臨する山村剛の息子、タレントの有岡将来の指示によるもの、という情報だった。芸能界で活躍する一方、有岡の私生活は犯罪まみれだった。その有岡を逮捕できる証拠を前に逸る秀虎。だがいち早く情報を掴んだ山村は秀虎を陥れ、命まで奪った。父を殺された樹緑が進んだ道とは……。
