『おむすび』第59回 スコッチエッグはおいしそうだけど、耐えられない「脚本のイカサマ」
たぶん1週分をまとめてね、15分の放送が5日で75分、それで1回分のドラマとして考えている感じがするんですよね。75分でお話が起承転結すればいいという作り方で、15分ごとの区切りは1分のCMくらいにしか考えてないんだと思う。次話まで1日待たせているという意識が薄い。
「水曜に説明すればいい」「木曜あたりでネタバレすればいい」「金曜にうまくまとめればいい」という考えで週頭に雑な伏線をばらまくから、月曜とか火曜とかの満足感が非常に低くなるし、ツッコミどころが多くなるということが起こっているんでしょう。
そういう脚本づくりのスタンスの問題もあると思う。それ以外の、根本的にアレな部分もたくさんあるんだけど。
そういうわけでNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第59回、振り返りましょう。
ギリセーフかな!
床屋の集客がよくないので、ホームページを作る作らないで大モメした結さんのご両親。勢い、ママ(麻生久美子)が家出してしまい、ひとりで店に立つことになったパパ(北村有起哉)は大わらわです。
集客がよくないからケンカしてママが出て行った。パパひとりになった瞬間に客が大挙して訪れる。因果が変なんだけど、まあ集客がよくないと言っても営業を続けていけるくらいは普段から客が入っていたんだろうから、こういう瞬間もあっても不思議じゃないかな。ギリセーフな感じです。これまで私たちが見てきたヘアサロンヨネダの風景といえば近所の連中がたむろしている場面ばかりで、この日のてんやわんやを受け入れるためには記憶の中からあの近所連中を追い出し、見たこともない一般客の姿を想像しなきゃいけないんだけど、まあいいよ。事実関係としてはそれほどおかしくない。
結さんの勤める社食では、コック長の立川さん(三宅弘城)が結さんに「今日の日替わりを考えろ」と指示していました。前日、自分のレシピを結さんたちが盗み見てメモしていたノートを眺め、何やら物思いに耽っていた立川さん。自分のレシピが書いてあるノートを見たから、日替わりのメニューを考案させるという因果関係もやっぱり変だけど、まあ立川さんはもともと変な人だから、これもギリセーフでいいや。
食材は、冷蔵庫にあるものを使っていい。200円以内で作れ。
飲食店の仕入れなんて、当然、献立ありきで必要なものを発注するわけで、しかも一般の料理屋よりも需要が読みやすい社食なわけだから「自由に使っていい材料」なんて仕入れてたら怒られちゃう気もしますが、これもギリセーフかなー。立川さんが結に試練を与えるために、この日だけ多めに仕入れをしていた、それも自分の裁量で献立をいじれば1、2日中に処理できる程度の量と種類にしていたと解釈すれば、大きな矛盾が生じるわけではない。見る側の想像力を試される展開ではありますが。
11時過ぎ、スコッチエッグの試作が完成。ランチは11時半から? 12時から? いずれにしろ卵を茹でてからひき肉で包んでフライにするメニューを仕込むには時間がなさすぎるし、月曜のランチ前の風景と比べればずいぶんのんびりしているなと感じますが、みんなが結の日替わりのために仕込みを早めに済ませたと想像すれば、なんとかなるかな。
日替わりが時間がかかるスコッチエッグだったせいで、配膳が間に合わなくて11人の社員が昼ごはんを食べられなかった。だから、このメニューは日替わりでは出せないと立川さんは言います。
これについて結さんは謝罪していましたが、そもそも当日に考えて11時過ぎから仕込み始めたのに希望者の大半に配膳できたのだから、ほとんど大成功といっていいでしょう。温野菜が足りなかったとかいう描写もありましたが、蒸し野菜なんて量が増えても調理時間が伸びるわけじゃないし、これだけ大人気だったわけだから、次は10時から仕込めばいいじゃない。今日、結さんと原口は試作をしていた時間があったわけだから、人が足りないわけじゃないし。このへんもおかしいんだけど、スコッチエッグはおいしそうだったのでよしとしましょう。
この「ほとんど成功」だったスコッチエッグを失敗だと断じて、結に「仕事とは金を稼ぐことだ」と説教する立川さん。金を稼ぐのはマネジメント側の仕事であって、新人栄養士の結に与えるべき仕事は顧客満足度の向上や栄養管理の徹底だと思うんですよね。人気メニューが誕生したんだから、それを常時提供できる体制を作るのが立川さんの仕事だと思うけど、ちょっと前に「栄養士なんかいらん!」と言っていた人だからねえ。あんまりいろいろ求めるのも酷な話です。これもセーフかな。
なんだか今日はギリセーフな『おむすび』なのでした!
ウソです
社食パートについては大甘でギリセーフかなと思ったけど、野球部はこれダメだひどい。
昨日は肩より上に腕が上がらないと言っていた翔也(佐野勇斗)、今日はそこそこ投げられるみたいです。日によって痛みが違うというのはわかるとしても、大学ホームラン王の大河内が一打席勝負を挑んでくる展開は、なんだこれ。
いや、これももしかしたら、つじつまを合わせに来たのかもしれない。大学野球ナンバーワン打者が社会人に進んできたことが不思議だったんですが、こいつどこに行ってもチームの和を乱す素行不良が原因でドラフトから漏れたのかもしれませんね。プロチームから所属大学に調査が入って、「大河内はよく打つが、横暴な性格でチームを壊す」という情報を得ていたのかもしれない。
チームに馴染めない素行不良のスーパープレイヤーが部活を辞めて単身メジャーを目指す、なんて話も実際にないわけじゃないし(マック鈴木とか)、そういう類の選手だったのかもしれない。だったら星河が受け入れた理由がなくなってしまうけど、野球部に限らず星河って会社の人事部が機能していないことは結の入社経緯からも明らかですからね。ずさんな調査で「ホームラン王だ! ほしい!」ってなってても不思議じゃないわ。
で、そんな大河内ですが「一打席勝負だ!」と言いながら「ヨンシームを投げろ!」と球種を指定してきます。いや、球種を指定してきたら勝負じゃないのよ。単なるフリーバッティングなのよ。
そして一番ダメなのが、2ストライク後にベンチに入ってきた監督が「四ツ木、投げるな!」と言ったところです。おまえ四ツ木の肩の不調を知ってたのかよ。知ってて放置してたのかよ。なんでなんで?
この「監督が肩壊れてるの知っていた事件」が今日イチのダメエピソードだったけど、いちばん嫌だったのは別のところなんです。
IT会社に就職したけどコピーばっかり取らされてコンプレックスにまみれた陽太(菅生新樹)が、結に「おむすびみたいに、ばり好いとうってこともないし」と言った場面です。「おむすびみたいに、とっても大好きなこともないし」という意味でしょう。
何のこと? 栄養? 彼氏?
ここまで結という人が何かを大好きで、何かに夢中になって、何かに向かって必死に努力しているという描写はひとつもありません。全部、場当たりで対応しているだけです。
「何かが大好きで、全力で夢に向かっている」という人物を描こうとして、それを描けていないのに、そういう人物であるということにしたいから、作中で脇役にそう評価させる。
専門の卒業式の日、別に誰も助けてない結に対して班の仲間が「米田さんは人助けばかりしている」と言ったのと同じ。描いてないのに、評価をさせることで「そういう人」に仕立て上げる。
こういう脚本のイカサマだけはね、本当に嫌なんです。二度とやらないでほしい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)