『ライオンの隠れ家』坂東龍汰がすごすぎた! どらまっ子AKIちゃん2024年秋ドラマ総ざらい
20日に『ライオンの隠れ家』(TBS系)が最終回を迎え、今年の秋ドラマ担当分も幕を閉じました。
今期、筆者がレビューを担当したのは、以下の7本。
日曜『若草物語 ─恋する姉妹と恋せぬ私─』(日本テレビ系)
月曜『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)
火曜『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)
水曜『全領域異常解決室』(フジテレビ系)
木曜『わたしの宝物』(フジテレビ系)
金曜『ライオンの隠れ家』(TBS系)
土曜『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)
今回も、この7本に絞って独断と偏見に満ちた「アカデミー賞」風の表彰をしてみたいと思います。
それでは、いきましょう。
作品賞/『嘘解きレトリック』
迷うなぁ……。候補は『嘘解き』と『全領域』、『わたしの宝物』の3本。原作コミックの世界観を丁寧に具現化して愛らしくも切実なメッセージを描いて見せた『嘘解き』と、ダイナミックなシナリオの領域展開で度肝を抜いてきた『全領域』、配置と時制コントロールの妙で完璧な地獄絵図を浮かび上がらせた『わたしの宝物』、それぞれ個性の際立った作品でしたが、鈴鹿央士と松本穂香が2人そろってかわゆかったので『嘘解き』にします。
まずもって「嘘を見抜ける」という、ミステリーにおいて無双しそうなチート能力を探偵助手に授けるという設定からして興味を引きますし、その異能者である鹿乃子(松本穂香)が能力ゆえにコミュニケーションに悩み、やがて能力を受け入れていく過程は普遍性を獲得していたように思います。
それと、昭和初期という舞台によってキャラクターたちの衣装やヘアメイクにバリエーションが出ていたし、北乃きい、片岡凜、坂東希、加藤小夏というゲスト陣のキャスティングも的確だし、シンプルに、とっても目に楽しい作品だったのよね。
ミステリーとしての質というか出来栄えは、全体的には『全領域』のほうが強いと感じたんですが、やっぱり質の話になると第1話の「モザイクスプレー」が引っかかるのですよ。しつこくてごめん。
主演男優賞/藤原竜也
ここも『全領域』の藤原竜也と『ライオンの隠れ家』の柳楽優弥で迷ったんですが、最終回に流した涙のピュアっぷりで藤原竜也にしたいと思います。
絶叫が代名詞の藤原竜也が全話を通じて抑制の効いた芝居をしつつ、アクションもやりつつ、最後であんな少年みたいな顔を見せてくるなんて、もう卑怯(?)だと思います。なんであんな顔ができるんだ、42歳なのに。27年前に舞台『身毒丸』のオーディションで蜷川幸雄も、15歳の藤原竜也にあの顔を見たんだろうな、なんてそんなことまで考えてしまいました。この人、おじいちゃんになったらどんな芝居するんでしょう。長生きしていただきたいものです。
そういえば柳楽優弥も14歳で『誰も知らない』の是枝裕和に見出された天才子役でしたね。やっぱり一流の演出家というのは役者を見る目があるのですなぁ。そんな感じで。
『あのクズ』の玉森裕太(実質、主演だよね)の妖艶なセクシークズもよかったです。
主演女優賞/堀田真由
『若草』の堀田真由か『あのクズ』の奈緒か。リアリティというところで堀田真由にしましょう。
今回のリョウという役は、見る人によってはかなり嫌悪感を覚える役どころだったと思うんですよね。主張が強くて、身勝手で、傲慢にも映る。物語の進行ととに成長して丸くなっていくわけですが、この役の芯にある「我」の部分、その無邪気さだけは最後までキープしきったと思います。
役柄への理解というところで、相当ちゃんと咀嚼していたと思うし、時間をかけて脚本家と話をしたんだと思うんですよ。逆に、なりでやってこれだったら、それはそれですごい。
『あのクズ』の奈緒はラストの試合のシーンでの右アッパーは今クールのすべての瞬間の中でも特筆でしたが、そこに至るまでの振り幅というところで恵まれなかった感じ。
『わたしの宝物』の松本若菜は、まあこれくらいやるでしょうねえ。信頼ゆえの選外です。
助演男優賞/坂東龍汰
はい、坂東龍汰くん。和製トム・ハンクス爆誕ということでいいんじゃないでしょうか。この人以外にみっくん演れるやついるの? いたら連れてきてよ、という感じ。
『ライオンの隠れ家』というドラマの複雑怪奇なストーリーテリングを、お芝居一本で凌駕してしまった感じすらします。もう「話はどうでもいいから、みっくん見せろ」と思っちゃう瞬間がたくさんありました。
たくさん当事者に取材をしたことは伝わってきています。でも、ASDの青年が成長し、変化していく様子は取材できないんですよね。レビューにも書いたけど、取材期間中にその対象の方がこんなに劇的に変化することは考えにくいわけです。だから坂東くん自身が、一度作り上げた「みっくん」像を芝居の中で主体的に成長させていく必要があった。そこにはモデルがない。それなのに、第1話と最終話で全然違う顔をしているみっくんは、それでも確かに同じみっくんだった。すんごい仕事をしたと思います。
次点は同じ『ライオンの隠れ家』から子役の佐藤大空くん、次々点は『潜入兄妹』の櫛田ことフェルナンデス直行さんです。櫛田ラブ。
助演女優賞/福本莉子
前半と後半でまったく別のドラマになっちゃった『全領域異常解決室』の中で、当初はラスボス「ヒルコ」としてほのめかされ、後半には愛らしくも頼れる味方として魅力を振りまいた福本さんに助演女優賞です。
このドラマは途中でリアリティラインを引き直すという珍しいことをしているわけですが、その前半、リアリズムパートの中で、オカルトっぽい雰囲気をひとりで背負う難しい役だったと思います。
その前半でちゃんとすごく怖い人だったからこそ、第5話で「仲間です」「しかも神です」という事実が明かされたときのギャップが活きていたし、めちゃんこ好きになっちゃったもんね。
『ライオン』の尾野真千子もペンションの食事シーンとかすごかったけど、よりドラマ全体の魅力に寄与したその割合というところで福本さんにしました。
脚本賞/『わたしの宝物』
ここも『全領域』にしたいところだったんですが、『わたしの宝物』のテクニカルな部分を評価します。
シナリオ的には、ダイナミズムに特化した『全領域』とミニマリズムを極めた『わたしの宝物』といった感じかと思いますが、後者はほとんど5人の登場人物だけで1クールの10時間を濃密に埋めてみせました。
これもレビューで何度も言っていますが、人物をここに配置する、このタイミングでこう動かすという作業を丁寧に積み重ねることでドラマってできちゃうんだなという、変な言い方ですけど、応用の効く脚本だったという印象なんですよね。テキストになりうるというか。
そういう堅実で周到な作劇をしておいて、モチーフはとことんエキセントリックなメロドラマであるというギャップもまた、本作を楽しめる要素だったと思います。
撮影賞/『潜入兄妹』
緑がかった空、雨のネオン街、中華鍋から立ち上がる炎の向こうで骨肉をしゃぶる悪党たち。20年ほど前に栄華を極めた香港ノワールの世界を完璧にトレースして見せた『潜入兄妹』に撮影賞です。最終回でイスに座った黒谷友香と地べたの吹越満が銃を向け合うシーンなんて、カッコよすぎて死ぬかと思ったね。
これを作ったのが『大病院占拠』『新空港占拠』のチームだったことからして、今回の『潜入兄妹』は撮影こそが主役だったともいえると思います。
そりゃ実際にジョニー・トーがデカいフィルムカメラをブン回してた時代に比べれば、普通に撮ってエフェクトをかけてやれば簡単に作れちゃう映像なのかもしれないけれども、あくまで「画面そのもので、まずスタイルを提示する」というやり方はドラマというメディアの根源的な魅力を引き出そうとする作業だと思いますし、省略の美学であるノワール的な脚本を補完して余りあるカメラだったと思いますよ。
もちろん『嘘解き』の熟練を極めた照明術も撮影賞に値するものだと思いますが、すみません今回は『潜入兄妹』が好みにブッ刺さりすぎました。
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今クールは全体的に楽しい作品を担当させていただいたという感じです。
なんだかんだで一番興奮したし、今後のドラマ界でエポックになっていくのは『全領域異常解決室』だと思いますが、『若草物語』の最初のほうのリョウちゃんのイタいトガリっぷりも印象的だったよなあ。作家の魂が乗ってる感じ、大好きです。『あのクズ』はこっちがボクシングファンすぎて評価軸がズレちゃいましたね。
そういうわけで、年明けからも楽しいドラマをお願いしますよ、テレビ局さん!
(文=どらまっ子AKIちゃん)