復活の『爆笑レッドカーペット』はTikTok世代にも刺さる? お笑い特番連発するフジテレビの思惑

フジテレビで大型お笑い特番が相次いで放送される。8月2日に10周年の節目となる『ENGEIグランドスラム』、8月11日に約11年ぶりの復活となる『爆笑レッドカーペット』が放送されるのだ。窮地に陥ったフジテレビの再浮上のきっかけになる可能性を秘めた両番組の特徴や注目点などについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
渦中のフジテレビ、系列局はCM復活の兆しも“本体”はいまだに苦境続きか
「お笑いのフジ」の象徴『ENGEIグランドスラム』
『ENGEIグランドスラム』は、2015年に「日本一豪華なネタ番組」をコンセプトにスタート。タイトルロゴにフジテレビの旧社章「8マーク」があしらわれるなど、「バラエティのフジ」を象徴するようなお笑い特番だ。賞レースをにぎわせた旬の芸人はもちろん、テレビで漫才やコントをほとんどしなくなったベテラン勢のネタを見ることができる貴重な場となっている。
今回は10周年を記念し、8月2日の21時から2時間10分にわたって生放送。司会はおなじみのナインティナインと松岡茉優が務める。
出演芸人は、囲碁将棋、ウエストランド、空気階段、ジャルジャル、真空ジェシカ、霜降り明星・粗品、ツートライブ、ナイツ、ニューヨーク、バカリズム、爆笑問題、ハライチ、フットボールアワーらが発表されている。さらに、数組のスペシャルコラボユニットがオリジナルのネタを引っ提げて登場する予定だという。
長寿特番となった同番組の特徴について、田辺氏はこのように指摘する。
「『ENGEIグランドスラム』は良い意味でトレンドに流されていない感じがします。今回の出演者でしたら、爆笑問題、ナイツ、フットボールアワー、バカリズムさんなど、すでにお笑いシーンで権威性を持った芸人から、近年の賞レースの優勝者、もしくはそこで確かな印象を残したファイナリストなどを抜擢しています。
過去の放送回でも、たとえば番組放送日の直前に逝去された今いくよさん(今いくよ・くるよ)の哀悼のメッセージを流すなどし、その後の放送回では中川家が今くるよさんとコラボ漫才を披露するなど、お笑いの歴史を築いてきた方々への多大なリスペクトを表明しています。
また、『R-1グランプリ』と連携して、『R-1』直後に『ENGEIグランドスラム』を放送し、新王者だけではなく審査員のバカリズムさんにまでネタを披露してもらうなど、思い切ったこともやっています。そういう点ではリスペクトとチャレンジ精神が同時に感じられるネタ番組なのではないでしょうか」
今回の出演芸人の中では、なにかと話題の「あの芸人」が最も注目のようだ。田辺氏が言う。
「今回の『ENGEIグランドスラム』で最も注目されているのは、やはり粗品さんではないでしょうか。霜降り明星ではなく、ピンで出演します。粗品さんは3月の『第14回ytv漫才新人賞決定戦』で審査員を務め、的確な審査評と厳しい採点で注目されました。しかも、そのあとのムーブがすごかった。自身のYouTubeチャンネルで持ちネタを披露し、それを自分が審査した同賞のファイナリストたちにジャッジしてもらうという企画をやりました。
ネタを審査するには、お笑い芸人としてフェアでなければならないことを、そこで示したのです。そんなことをやった審査員は今までいませんでした。今回もやはり、先輩芸人らの芸風などについて厳しい意見をぶつけ続けている粗品さんの、ネタでしっかり勝負しようという意思が伝わってきます。その点で、バラエティ特番ではありますが、どこかヒリヒリするものを感じます」
11年ぶり復活『爆笑レッドカーペット』はフジになにをもたらすのか?
8月11日には、約11年ぶりの復活となる『爆笑レッドカーペット ~真夏のオール新ネタ60連発!大復活SP~』が18時半から2時間半にわたって放送される。
同番組は2007年に不定期の特番としてスタート。芸人が赤いベルトコンベアに乗りながら登場し、代わる代わる約1分のショートネタを披露していくという、現代のショート動画文化につながるような斬新なコンセプトが話題となった。2008年から2010年までレギュラー化され、狩野英孝、しずる、フルーツポンチ、柳原可奈子ら新たなスターを輩出。その後のバラエティ界にも多大な影響を与えたが、2014年の正月特番を最後に放送が途絶えていた。
11年ぶりの復活となる今回は、おなじみの高橋克実や今田耕司らが司会を務め、出演芸人としてアキラ100%、相性はいいよね、アンガールズ&阿佐ヶ谷姉妹、えびしゃ、狩野英孝、キンタロー。、クールポコ、ぐろう、しずる、ジョイマン、スクールゾーン、ずん・飯尾和樹、チェリー大作戦、チョコレートプラネット、ツートライブ、友田オレ、なかやまきんに君、ナチョス。、藤崎マーケット、ファンファーレと熱狂、フルーツポンチ、柳原可奈子ら60組が集結する。
田辺氏は同番組の特徴や影響について、このように解説する。
「番組がスタートした当時は斬新さが受け入れられ、ショートネタブームの先駆けにもなりました。とにかく1回の放送で多数のネタを見せなければいけませんから、新鮮な顔ぶれをどんどん番組に起用しました。そのなかで社会現象的なブームを巻き起こす若手芸人らも現れました。
ちなみにフジテレビが『爆笑レッドカーペット』のような革新的な番組を生み出せたのは、爆笑問題、ネプチューン、海砂利水魚(現くりぃむしちゅー)らが全国区になるきっかけとなった、同じショートネタ系のバトル番組『ボキャブラ天国』などが下敷きにあります。そして『爆笑レッドカーペット』に明らかに影響を受けたであろうコンビが、関西の賞レースを席巻しているフースーヤだったりします。現在の多くの若手芸人にとって、同番組は笑いの基盤の一つになっていると思います」
新たなスター発掘が「バラエティのフジ」復活のきっかけに?
今回は11年ぶりの放送となるが、当時のファンに向けた「懐かしの番組の復活」にとどまらない内容が期待できそうだという。田辺氏が続ける。
「短い尺で笑わせる方法は、TikTokなどのショート動画に慣れ親しんだ世代にぴったりでもあります。瞬間的に『おもしろい』と思わせるにはどうすればいいか、その方法論を模索する中で『新鮮な笑い』が生まれるかもしれませんし、ニュースターの誕生も期待できるはずです。
番組を制作する側としては、この『ニュースターの誕生』に期するものが大きいと思います。『フジテレビが見つけ出す若手芸人はやっぱりおもしろい』という印象を視聴者に与えることができれば、万々歳なのではないでしょうか」
フジテレビが「過去の遺産」を持ち出してきた背景には、お笑い界の新たなスターを発掘することで「バラエティのフジ」のイメージを再建し、巻き返しのきっかけにしたいという思惑もありそうだ。実際に新たなスターは生まれそうなのか、田辺氏に注目ポイントを挙げてもらった。
「全国的にはまだそれほど知られていない、相性はいいよね、チェリー大作戦、ファンファーレと熱狂あたりは大抜擢と言えるでしょう。また、着実に階段を上っている感がある、えびしゃ、ぐろうはしっかりと爪痕を残すのではないでしょうか。TikTokで『野球がうますぎる彼女』ネタがよく流れてくるナチョス。や、『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』の常連であるスクールゾーンなんかは、ショートネタで真骨頂を見せるタイプですから、なんとしてでもここでチャンスをつかみたいでしょう」
お笑いファンはもちろん、さまざまな問題で苦境に立たされているフジテレビにとっても両番組は期待するところが大きそうだ。
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。