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ニューヨーク市にカジノ 世界一のビジネス街にさらなる「札びら」

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 ニューヨーク市に本格的なカジノがいよいよ誕生する。経済振興による税収増を目的とした規制緩和の動きにより建設が可能となった。現在11の候補地が名乗りを上げているが、タイムズスクエアなど日本人にもなじみの地域が多い。犯罪の増加や交通混雑への懸念から反対の声は強いが、「金満都市」にさらなる札びらをばらまくカジノ建設地は2025年末に決定する予定だ。

米国のテレビを「占拠」するリアリティショー

税制増を目的にギャンブル規制緩和 「市内枠」3つの凍結解除

 ネバダ州ラスベガスの印象が強く、米国ではどこでもカジノがあると思っている日本人は少なくないが、米国はキリスト教の影響で、そもそもはギャンブルに否定的だった。

 ニューヨーク州は1821年にすべてのギャンブルを禁止。その後、競馬や宝くじなどが合法化されたが、商業カジノだけは規制の対象になっていた。

 しかし、慢性的な財政難に悩まされている州政府は2013年に州憲法を改正し、ラスベガスにあるようなフル規格のカジノの建設を可能にした。商業カジノから多額の税収が期待できるからだ。

 州憲法改正の際に、州内に7カ所のカジノを建設することを決めた。このうちの4つの建設枠については、メトロポリタン地区以外に振り当てられた。

 ニューヨーク州は、南端に米国最大の都市であるニューヨーク市があり、極端に南部に人口が集中している。これに対し「アップステート」と呼ばれる、ニューヨーク市より北の地域には大都市と言えるほどの町はない。

 州政府はニューヨーク市と他の地域との経済格差を少しでも是正するため、ニューヨーク市とその周辺の南部に割り当てた3つの建設枠については、州憲法改正以降の10年間、建設地の選定を含めて計画の推進を凍結していた。

 そのニューヨーク市でのカジノ建設が動き出したが、反対運動などを考慮して、手続きは遅れ気味だ。2024年8月としていた民間業者からの建設計画の提出期限が延期された。現在の日程では建設計画の提出期限が2025年6月27日。業者選定を終えて、建設地が決まるのが2025年末となる。

ホテル集中するタイムズスクエアでは観光客狙い ブロードウェイは反発

 現在、11のカジノ建設計画がある。ニューヨーク市の中心部や、市民のなじみの地区でのカジノ計画は議論の的になっている。

 日本の三井不動産が参加しているマンハッタン中心部西側のハドソン川沿いにある大規模再開発地域「ハドソン・ヤード」では、カジノ運営大手ウィン・リゾートなどが超高級リゾートカジノホテルの建設を計画している。

 「ハドソン・ヤード」は11ヘクタールという広大な土地にオフィスビルや高級ホテル、高層住宅、小売店、レストランが集まる。2019年に本格オープンしたばかりだが、当初、シンボルである大型モニュメントからの飛び降り自殺が相次ぎ、「新たな自殺の名所」と呼ばれて出鼻をくじかれた。地元住民の自治会はカジノを拒否する決議をした。

 タイムズスクエアでは、こちらもカジノ運営大手のシーザーズがブロードウェイの劇場街にホテルを併設したカジノの建設をめざしている。観光ホテルがひしめく地区であり、多くの集客が見込まれる。最近はブロードウェイチケットが高騰し、庶民は購入に二の足を踏む。「カジノでもうけて劇場に行こう」などと軽口をたたく建設推進派もいるが、当の劇場側はミュージカルとカジノは相容れないとして猛反発している。

 ティファニーやグッチなど高級ブランド店が立ち並ぶ5番街では、高級デパート「サックス・フィフス・アベニュー」が最上階から3フロアをカジノに変える計画だ。ニューヨークの象徴ロックフェラーセンターの真正面に位置する超一等地だ。百貨店業界の売上不振が計画の背景にあり、大胆な売り場転換として話題となっているが、隣にはニューヨークを代表するカトリックのセント・パトリック教会があり、富裕層らから宗教的倫理観を指摘する声があがっている。

国連本部の隣接地にも建設計画 「最もミステリアスな不動産王」は大胆提案

 マンハッタンの東側の国連本部に隣接した土地では、49歳のステファン・ソロビエフ氏が率いる開発会社がカジノホテルの建設をめざす。カジノは地下に設置し、建設が許可されれば敷地内に手ごろな家賃の住宅を500棟建設するという大胆な提案をした。ソロビエフ氏は父親から家業を引き継いだが、子どもが22人いるなど私生活は謎が多く、「ニューヨークで最もミステリアスな不動産業王」と呼ばれている。

 大リーグ球団ニューヨーク・メッツのオーナー、スティーブ・コーエン氏はクイーンズにあるメッツの本拠地球場、シティ・フィールドの周辺にカジノを建設する計画だ。球場周辺には現在、店舗はなく、バラックのような自動車修理工場の密集地があるだけ。修理工場を立ち退かせて地域の一新を考えている。近くのフラッシング地区には大きな中国人街があり、中国人の集客も見込んでいる。

 7月4日の米独立記念日にホットドッグ早食いコンテストが開かれるブルックリンの遊園地、コニーアイランドには開発業者のソー・エクイティーがカジノの建設を検討している。大西洋に面したコニーアイランドは、ニューヨーカーなら幼少のころから何度も訪れたことのあるなじみの場所だ。しかし秋から冬にかけては訪れる人もまばらで、ここを通年で遊べるようにすることが狙い。地元の政治家を味方につけているが、周辺には住宅地が多く、治安悪化などを懸念する住民が猛反発している。

 カジノ開発側は「カジノができれば独自の治安組織ができて周囲の治安もよくなる」と説明しているが、ギャングが社交界を仕切った歴史のあるニューヨーク市内では、住民のギャンブルへの抵抗感は強い。

 2024年6月には、ニューヨーク市を拠点に活動する5大マフィアの1つである「ガンビーノ一家」のメンバーら17人が違法賭博などの容疑で逮捕された。ギャンブルとマフィアの関係は脈々と続いている。カジノ運営会社がいかに犯罪組織を排除しようと、市民の不安はぬぐい切れない。カジノ構想がすんなり進むと考える市民は少ない。

(文=言問通)

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言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/02/09 09:00