CYZO ONLINE > 社会ニュース > さらに消滅危機が迫る地方大学
教育ジャーナリスト・後藤健夫の「Fランクから消滅大学になる日」教育ビジネス論#5

出生数70万人割れ×シンギュラリティでさらに消滅危機が迫る地方大学

出生数70万人割れ×シンギュラリティでさらに消滅危機が迫る地方大学の画像1
2025年生まれの子が大学入試を受ける2043年ごろはどうなっているか(写真:GettyImagesより)

 2023年に全国で72万7288人となった出生数が、2024年には70万人を下回ったとの推計がある。このまま減り続けると、仮に大学進学率が100%になっても、現状の大学全体の入学定員である約63万人を下回ってしまう。それほどまでに少子化の進行度は激しく、それを受けて、大学全体として入学定員を減らすことは必然であろう。

文科省のツッコミどころ

 さらに、出生数の3割が首都圏である。大学進学による都市圏への若者の流入も止めることはできない。若者が夢と期待に満ちて都会を目指すのは今も昔も変わらないのだ。地方の大学はこのままで生き残れるのだろうか。

 大学を取り巻く環境の変化から生じる課題は、この少子化と地方だけではない。

 最近の生成AI(人工知能)の急激な進化には、目を見張るものがある。AIが人間の知能を超えて社会が大きく変わる転換点「シンギュラリティ」が2045年に起きると言われていたが、実際には大幅に早くなるのだろう。現状でもAIを使えば、業務報告や授業のレポートなどを簡単に書いてくれるだけでなく、東京大学の入試問題も解けてしまう。的確に指示を出せば論文も書いてくれるだろう。

 大学入試の『志望理由書』は、これまでも高校教員が手を加えることがあり、本人が書いたか疑わしいものも存在した。今後、それを生成AIに書かせるケースが出てくることは、大学側は織り込み済みだろう。しかし、その結果、志望理由書の評価はより難しくなる。

 大学の定期考査で提出を求めるレポートもそうだ。学生と教員の「いたちごっこ」を繰り返してきた。誰かが書いたレポートを丸写しして提出するような学生は、昔から変わらずいるだろうが、このチェックが大変だ。ここに生成AIの登場だ。大学の中には生成AIを使用してのレポートの提出を禁じるところもある。この対応が学生たちの混乱を招く。学生は、日常的にAIを活用して調べ物をしているのに、レポートに使ってはいけないとなると、どこまでAIに頼って良いのかわからない。従来の丸写し同様、大学側も対策が取りにくい。そもそも大学は学生のレポートに何を求めているのだろうか。もっと言えば、AIが進化する中で、大学は学生になにを教えるのだろうか。

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)と言われる、デジタル化による業務転換が求められている。AIはホワイトカラーの仕事を奪うとも言われている。人海戦術をとってきた「営業」も、いずれ「電子」に置き換わるだろう。なにしろ、人間は疲れるが、電子は疲れないのである。そして、瞬時に大量の作業をこなすことができる。

 日本の大学は、私立大学を中心にホワイトカラーを養成してきた。大学卒業後「営業職」に就く学生も多い。産業構造の転換にともなう人材養成の転換は、喫緊の課題だ。人文・社会科学系を学んだ学生よりも理工系、とりわけ数理情報を学んだ学生が産業界から求められるだろう。

 こうした状況下で、これから大学はなにを教えたら良いのだろうか。そして、地方の大学は、現在の学部構成で若者を育てるとともに、地域振興に貢献できるだろうか。

 大学の再編は差し迫った課題なのである。

 ここで再び、前回取り上げた中央教育審議会大学分科会の資料をもう一度見てみると、文部科学省は、地方大学の問題、大学の再編にあたり「地域コーディネータ」を置くと示している。

「中央教育審議会大学分科会「我が国の「知の総和」向上の未来像 ~高等教育システムの再構築~ (答申案)要旨③」(参考:https://www.mext.go.jp/content/20250128-mxt_koutou02-000039883_5.pdf

 この「地域コーディネーター」の役割は広範にわたるとともに、高度な能力を求められる。地方の問題となると、大学だけの問題ではない。自治体、地方議会、そして、経済産業省、厚生労働省など他省庁との調整も必要になるだろう。どのような「スーパーパーソン」を雇うつもりなのだろうか。

 筆者は、地方の大学創設や法科大学院の設立に関わった経験からすると、そう簡単に担える役回りではないと考えるが、いかがなものか。「ポンチ絵」を書いて済ませるような話ではないのだが。

(文=後藤健夫)

●●大学、教員はお年寄りばかり
悠仁さまのお受験事情

後藤 健夫

コラムニスト/教育ジャーナリスト/大学コンサルタント
南山大学を卒業後、学校法人河合塾、早稲田大学、東京工科大学等に勤務。現在、大学の募集戦略支援や高校の大学進学支援、「探究学習」のカリキュラム・教材開発、授業改善等に従事。日本経済新聞に「受験のリアル<大学編>」を連載するなど、コラムや記事を執筆。

FACEBOOK gototakeo
mixi2 OKETA
Instagram oketa

後藤 健夫
最終更新:2025/02/24 18:00