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町中華、純喫茶、立ち食いそば、コロッケ…大量生産のBS「ニッチグルメ」企画と次に狙われるターゲット

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(写真:Getty Imagesより)

 テレビ界で圧倒的な人気ジャンルは「グルメ」。『ぐるぐるナインティナイン』『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(日本テレビ系)『バナナマンのせっかくグルメ!!』(TBS系)ほか、料理がテーマの番組だらけだが、BSはさらにスゴいことになっている。地上波より注目されにくいBSはアイデアが命。細分化が激しいのだ。

「BSではここ数年、狭いジャンルに絞ったグルメ番組が大ブームです。玉袋筋太郎が庶民的な中華料理店を訪ねる『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)は町中華ブームを生み、ずん飯尾和樹がレトロ喫茶店を巡る『ずん喫茶』(BSテレ東)、タイトルそのままの『ドランク塚地のふらっと立ち食いそば』(BS日テレ)、コロッケだけに焦点をあてた『サンド伊達のコロッケあがってます』(BS-TBS)など、重箱の隅をつつくような番組が目白押しになっています。

 BSのグルメブームのさきがけとなったのは『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)。この番組は、多くの人がまだBSになじみがなかった2003年にスタート。吉田類という“ただのおじさん”が、何の変哲もない居酒屋を訪ねて酒を飲むだけのシュールな番組ですが、呑兵衛を中心に絶大な支持を集め、放送は1000回を超えています。このほか、『酒場放浪記』から派生した『おんな酒場放浪記』(同)、『飯島直子の今夜一杯いっちゃう?』(BSフジ)、『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』(BS朝日)といった番組もあり、“困ったら酒”といった感さえあります」(テレビ情報誌記者)

 BSにはこれ以外にも「家呑み」「駅から遠い居酒屋」「昼酒」「郷愁漂うラーメン」「どんぶり」がキーワードの番組も。そして、こういった番組はまだまだ増えそうだという。グルメ通として番組出演経験があり、裏方としても番組制作に携わるベテランフードライターは言う。

「今、町中華の次に来ると言われているのが、高級店ではない街場の寿司、“町寿司”です。町の寿司店はよそ者にはハードルが高いので、興味を持つ人はいるはず。しかも寿司なら海産物、米、海苔、アルコール類、ふるさと納税など、広告も期待できます。

 ファミレスも面白そうです。回転寿司や焼き肉など、ロードサイド型のチェーンまで対象を広げればバリエーションが生まれますし、ローカルチェーンに絞っても良い。全国には変わったサービスを提供する店もあれば、驚くほど安い店もある。地方出身のタレントが地元に帰り、地元のファミレスを訪ねるのも面白いでしょう。

 盲点はファストフードです。牛丼やハンバーガーチェーンなら誰もが訪れたことがありますが、タレントがそれらを食べている姿を見るのは珍しい。エピソードトークを用意してもらい、思い出のファストフード店を訪ねたり、バイト経験を聞いたりすれば視聴者の共感を呼べるでしょう」

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なぜ、BSで“ニッチグルメ”番組が量産されるのか

 しかし、なぜこれほどBSで“ニッチ”なグルメ番組だらけなのか。元テレビ朝日のプロデューサー・鎮目博道氏は、まずBSに集う視聴者層の特徴を挙げる。

「BSの視聴者層は圧倒的に中高年。この世代がBSを見るようになったのはNHK BSの影響が大きいと言われています。NHK BSは、クラシックとか、海外の放送局から買った質の高い、知的好奇心を誘う番組をたくさん流していたんですね。

 視聴率をとり、広告を集めなくてはいけない地上波はトレンドを追いつつ、全世代向けの番組を作るのが宿命になってきますが、どうしてもついていけない層が出てくる。それが中高年以上です。そうした時に、趣味にこだわったり、情報やニュースを深堀りしたりする番組が多いBSに、“自分たちにも何かしら見られるものがある”というイメージを植え付けたのがNHK BSでした」(鎮目氏)

 かくして、BSには“ニッチ”な番組が放送される土台が出来上がる。そして中高年は、散歩とグルメがセットになっている番組を好む――それにも、根拠がある。

「健康を意識する世代なので、外に出て歩くためのきっかけづくりとして、潜在的に街ブラや散歩、旅が気になるんです。さらにそこに食をからめると、出かける目的としてもわかりやすく機能します」(同前)

 制作側の事情もある。鎮目氏が続ける。

「地上波に比べて広告料が安いBSは制作費もかけられない。グルメ番組は、圧倒的に制作費をかけずに済みます。制作費が安いので、番組のつくりも基本的にシンプルで、ガチャガチャとうるさくなく、テンポもゆったり。そうした点も中高年の感覚にフィットするといえます」(同)

 BSの“飯テロの嵐”はまだまだ続きそうだ。

(取材・文=木村之男)

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木村之男

芸能記者、TVウォッチャー。1972年10月15日生まれ、東京都出身。大学時代にライターとして活動し始め、出版社~編集プロダクションを経てフリーに。芸能・カルチャー・テレビ・広告業界などに精通する。趣味はテレビに映った場所を探し出して、そこに行くこと。

最終更新:2025/02/08 18:00