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『金ロー』を独自視点でチェック!【30】

見世物で大成功『グレイテスト・ショーマン』 バーナムは地上最大のペテン師か慈善家か?

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『グレイテスト・ショーマン』の主演を演じるヒュー・ジャックマン(写真:Getty Imagesより)

「バーナム効果」という言葉をご存知でしょうか。「本当のあなたはロマンチストですが、抑えているもうひとりの自分がいます」などと占い師に言われれば、「そうかも」とつい思ってしまいます。でも、これは誰にでも当てはまることであって、占いでも心理分析でもないわけです。このような認知バイアスのことを「バーナム効果」と呼んでいます。

ディズニー社が抱える深刻な問題

 この「バーナム効果」の由来となったのが、19世紀の米国に実在した興行師、P・T・バーナムでした。言葉巧みな宣伝術で大衆心理を操り、世界初となる「サーカス」の興行を始め、各地を巡業したことが知られています。

 そんなバーナムの半生を映画化したのが、新作『BETTER MAN/ベター・マン』の公開が始まったマイケル・グレイシー監督の大ヒット作『グレイテスト・ショーマン』(2017年)です。こびと、ひげ女、結合双生児……と、最近のテレビ番組ではすっかり見ることのできなくなった人気者たちが次々と登場します。

 3月29日(金)放送の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、『グレイテスト・ショーマン』を本編ノーカットで地上波初放映します。無難なラインナップの『金ロー』にしては、かなりアグレッシブな内容です。

19世紀のNYにオープンした「秘宝館」

 ヒュー・ジャックマンが主演し、日本でも興収52.2億円を稼ぎ出した『グレイテスト・ショーマン』。貧しい家に生まれ育ったバーナム(ヒュー・ジャックマン)は良家の娘・チャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚し、世間の嘲笑にめげることなくショービジネスの世界で挑戦を重ねていく姿が描かれます。

 本編の上映時間は105分とミュージカル映画にしてはかなり短く、またバーナムの生涯も思いっきり美化されているので、バーナムの実人生を少し補足しながら映画の見どころに触れていきたいと思います。

 職を転々としたバーナムはニューヨークにあった地味な博物館「アメリカ博物館」を買い取り、「バーナムのアメリカ博物館」としてリニューアルオープンさせます。米国にある珍しい物を集めた博物館だったのですが、バーナムは子どもも楽しめるショーステージのあるエンタメ系の施設に変えたのです。日本のリゾート地にある「秘宝館」がマンハッタンにできたような感じでしょうか。

最初の大ヒットは、自称162歳の「ワシントンの乳母」

 映画では省かれていますが、バーナムが初めて注目を集めるようになったのは、「ワシントンの乳母」でした。米国の初代大統領ジョージ・ワシントンの乳母だったという自称161歳の黒人女性、ジョイス・ヘスを見世物にして大成功を収めたのです。真偽のほどを確かめるために、長い長い行列ができたそうです。

 騒ぎがひと段落すると、バーナムは「ジョイス・ヘスは実は人間ではない。巧妙に作られたロボットだ」という匿名の投書を新聞社に送りつけ、新聞紙上で討論になる騒ぎを起こしています。今でいう炎上商法です。このおかげで、客足が再び増えたそうです。

 さらにジョイス・ヘスが亡くなった際には検死解剖の様子を有料公開しています。検死の結果、ジョイス・ヘスは80歳未満だったことが判明しています。この「ワシントンの乳母」で儲けたお金で、バーナムは「アメリカ博物館」を買い取ったそうです。

英国女王に謁見した「親指トム将軍」

 バーナムの快進撃は続きます。小人症の男性チャールズ・ストラットン(サム・ハンフリー)を「親指トム将軍」と名付け、ゴージャスな服装を着せて有名人の物まね芸をやらせます。結合双生児はかつて「シャム双生児」と呼ばれていましたが、それは「アメリカ博物館」で大人気だったタイ出身のチャン&エン兄弟(小森悠冊、ダニエル・ソン)が由来でした。

 バーナムの悪名は欧州にまで届き、バーナムは仲間たちを連れて、英国のヴィクトリア女王に謁見しています。さらには「北欧の歌姫」こと人気オペラ歌手のジェニー・リンド(レベッカ・ファガーソン)とお近づきになり、彼女の全米ツアーをプロデュースしています。娯楽の少なかった時代、バーナムのネームバリューは相当に高かったようです。

 ひげ女ことレティ・ルッツ(キアラ・セトル)を中心にしたミュージカルパートで歌われる「ディス・イズ・ミー」は、迫力あるシーンとなっています。見世物の世界で生きるマイノリティーたちの心の叫びが力強く伝わってきます。

結合双生児たちのその後の人生

 映画の公開時、酷評する新聞記事さえも宣伝に利用するバーナムの興行師魂と『ラ・ラ・ランド』(2017年)の音楽スタッフによるドラマチックなミュージカルナンバーが話題になる一方、バーナムを美化し過ぎていることが批判もされています。

 バーナムは一流のビジネスマンだったのか、それとも子ども騙しのペテン師だったのかは、人によって評価が分かれるところでしょう。小人症や結合双生児ら障害を持つ人たちを見世物にして大金を稼いだのは事実ですが、バーナムに誘われなければ親指トム将軍もチャン&エン兄弟も、ずっと家の中に閉じこもっただけの生涯を送っていたはずです。

 チャン&エン兄弟はショービジネス界を引退した後は、それまでに貯めたお金でノースカロライナ州の農場を買い、それぞれ結婚もし、穏やかな余生を送っています。親指トム将軍は、バーナムのビジネスパートナーとなり、サーカスを共同経営することになります。どちらも「障害者は不幸」という健常者側が陥りやすい認知バイアスを見事に打ち砕いています。

ミゼットプロレスをテレビから消したのは誰?

 バーナムと仲間たちを描いた『グレイテスト・ショーマン』を観ていると、全日本女子プロレスの興行で前座試合に登場していたミゼットプロレスのことが思い出されます。フジテレビでの中継ではカットされていたミゼットプロレスですが、一時期は大人気番組『8時だよ!全員集合』(TBS系)にレギュラー出演していました。

 ドリフターズのメンバーとのコミカルなやりとりで視聴者を楽しませていたミゼットレスラーですが、数週間でミゼットレスラーの出演はなくなりました。ノンフィクション『君は小人プロレスを見たか』(幻冬舎アウトロー文庫)を読むと、ミゼットレスラーをテレビに出すと【ある方面から「ああいうものをテレビに出すな!」という投書がくる】というテレビ局スタッフの談話が紹介されています。良識ある大人たちのクレームによって、ミゼットレスラーは活躍の場を奪われていたようです。

 ミゼットレスラーたちのコミカルな芸に笑っていた子どもたちと、「障害を笑いものにするなんてけしからん」とクレームをつける大人たちは、一体どちらが残酷だったのでしょうか。『グレイテスト・ショーマン』を観ていると、全女の会場を盛り上げていたミゼットプロレスのことが思い出されるのです。

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(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2025/03/28 14:16