令和ロマンくるまが自粛、波紋広げるオンラインカジノとスポーツ界での「解禁待望論」

吉本興業所属芸人の間で広がるオンラインカジノ問題。2月19日にはお笑いコンビ・令和ロマンの高比良くるまが、当面の間芸能活動を自粛すると発表した。
騒動のきっかけは2月5日、吉本興業所属のお笑いコンビ・ダイタクの吉本大と9番街レトロのなかむら★しゅんが、オンラインカジノで賭博をした疑いで警視庁から事情徴収を受けたと報じられたことだ。吉本興業は同日、所属タレントにコンプライアンス違反の疑いがあるとして、外部弁護士などを交えて調査中であることを発表。さらに、大となかむら以外の芸人も事情徴収されているとの報道があった。
そして2月14日、高比良くるまとお笑いコンビ・とろサーモンの久保田かずのぶが事情徴収されていると報じられた。報道の内容は、久保田は関与を否定し、くるまは大筋で関与を認めているというものだった。
この報道を受けて令和ロマンは2月15日、公式YouTubeにて「オンラインカジノ報道について」という動画を公開。くるまは騒動をオンラインカジノで賭博をしたことを認めて謝罪するとともに、経緯を説明した。くるまによると、2019年末に大学時代の知人から誘いを受け、海外の口座から送金する形で1年ほどの期間、オンラインカジノをやっていたとのこと。知人から海外の口座からの送金であれば違法ではないとの説明を受けたことと、当時インターネット上でオンラインカジノの広告も出ていたことから、違法ではないと認識していたという。
オンラインカジノに関する事件は近年増加傾向で、今年1月には、東京五輪卓球銅メダリストである丹羽孝希が、海外のオンラインカジノで賭博を行ったとして千葉県警に書類送検されている。現地では合法となされているオンラインカジノだが、日本国内から利用すると違法だ。山岸純法律事務所・山岸純弁護士が説明する。
「日本国内での賭け事は、競馬、競輪などの政策的例外を除き、全て違法です。日本国内にいる以上、海外の会社が運営するオンラインカジノでお金を賭けることも違法です。
賭博罪は、『日本国内で真面目に働こうとする勤労意欲を失わせないこと』を法律の目的として成立しています。“日本国内”というくくりがある以上、海外のオンラインカジノであっても罪になります。なお、単純賭博罪の場合、ほとんどの場合、罰金刑ですが、これが繰り返し行われている場合、常習賭博罪となり、懲役刑が科される場合もあります」
ややこしい「無料版」のCM ニッポン放送は慌てて過去投稿を削除
ややこしいのは、くるまが言及したように、日本国内でもオンラインカジノの広告が流れていることだ。インターネット上だけでなく、“無料版”についてはラジオや動画配信サービスなどでもCMが頻繁に流れていたという現実がある。
たとえば、スポーツ専門配信サービスDAZNでは、スポーツベッティング・オンラインカジノのBeeBetやマイベットの“無料版”CMが流れている。BeeBetのCMに関しては、元サッカー日本代表の岡崎慎司が出演している。また、同じく元サッカー日本代表の吉田麻也が出演するオンラインカジノ・ベラジョン無料版のCMが流れていたこともあった。
ニッポン放送でも、過去にベラジョン無料版のCMが放送されていた実績があるが、ニッポン放送は今回の騒動を受け、「弊社のCMから『海外の有料オンラインカジノにたどり着いた人もいるかもしれない』等のご指摘をいただいたことから、より万全を期すために、WEBやSNSの過去投稿等を削除しております」と声明を出している。
無料版は実際に金銭を賭けるわけではないため、日本国内からの利用も合法ではあるが、無料版を入口に金銭を賭ける有料版へと進んでいくユーザーも少なくないと目されるうえ、まさにくるまのように、CMを見聞きしてオンラインカジノが違法ではないと考えた人も多く、にわかに問題視されている。
オンラインカジノの経済効果
なお海外ではオンラインカジノとスポーツベッティングを同じサービス内で提供するケースも多く、スポーツベッティングをしながら試合を楽しむことも当たり前だ。欧州サッカーリーグでは多くのスポーツベッティング企業がスタジアムに広告を出し、ユニフォームの胸スポンサーになるケースもある。
あるサッカーライターは「ギャンブルとつながることによる経済効果はかなり大きい」と指摘する。
「チームにしてみれば単純に広告収益も増えますし、スタジアム以外でも楽しむ機会が増える。スポーツベッティングがプロスポーツを支えていると言っても過言ではない。ちなみに、Jリーグなど日本のプロスポーツも海外のスポーツベッティングの対象となっているのですが、ソフトバンクや楽天グループが参画する『スポーツエコシステム推進協議会』の試算によると、年間で5兆円から6兆円ほどが日本のスポーツに賭けられているといいます。そういったお金を日本国内に流入できたら、日本のスポーツもより豊かになるのでは、という見方はあります」
ただし、海外ではすでに脱スポーツベッティングの動きも出てきている。スペインのサッカーリーグ・ラリーガでは2021-22シーズンから、スポーツベッティング企業がユニフォームの胸スポンサーにつくことを禁止。イングランドのプレミアリーグでも、2026-27シーズンからユニフォームの胸部にベッティング企業の広告掲載を禁止することを発表している。
経済的な恩恵と引き換えに、スポーツファンのギャンブル依存を助長しているのも事実で、そういった倫理的問題解消のため、海外では健全化の方向に進み始めているのだ。スポーツベッティングやオンラインカジノの解禁待望論について、山岸弁護士はこう見解を述べる。
「確かにIR導入が推進されている今日、待望論もあるでしょう。聞いたところによると、国内で80億円程度が違法なオンラインカジノで動いているとのことですので、しっかり管理すれば租税して財源にもなると思います。ただ、まだ日本国内ではギャンブルに対する意識も高まっていないし、教育も行き届いていません。いわば酒の飲み方をわからない大学生に度数の高いアルコールを際限なく飲ませるようなものです。これからの議論が大切です」
解禁待望論が盛り上がったとしても、現時点で日本国内からオンラインカジノやスポーツベッティングにお金を賭けることが違法であることは紛れもない事実。法改正はもちろん、ギャンブル依存症対策や八百長防止など、クリアすべき課題も多い。日本国内で合法的にスポーツベッティングやオンラインカジノを楽しめるようになるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。
(取材・文=サイゾーオンライン編集部)