KIBA(Gargoyle) x でんでけあゆみ(バックドロップシンデレラ)対談 ―― ライブに奇跡を起こしたい

インターネットの技術のおかげで、YouTuberのように自分の企画次第で一流タレントをしのぐ知名度や富を得る人が増えた。かつては小学生の「将来なりたい職業ランキング」1位がYouTuberだったなんてことも起きた。
2025年の現在は、YouTuberが「将来なりたい職業ランキング」1位ということはなくなった。それは、YouTuberが華やかな職業に見える一方で、成功者はほんの一握りであり、かなりの根気と努力、そして運が必要だということが少しずつ世間に浸透したからであろう。
だが、インターネット誕生前に比べて、誰もが自分を表現する場を簡単に得ることができ、その企画次第では商業的に成功することが可能となったのは間違いないだろう。
それはバンドにも言える。
音楽をユーザーに届ける手法はCDから配信と変わり、インターネットのおかげで自己のプロデュース力があれば大手レコード会社との契約がなくとも、それを凌駕するような活動が可能となった。
今回はそんなメジャー契約をしていなくても、ライブハウスシーンを大いに賑わし、人気を獲得、大規模な活動を展開するバックドロップシンデレラのボーカリスト・でんでけあゆみ氏を迎え、KIBAとの対談が実現した。
――正直Gargoyleとバックドロップシンデレラ、ジャンルが全然違うかとは思うんですけど、お二人はどこででお知り合いになられたんでしょうか。
KIBA:当時Gargoyleは年に1~2回、気になる刺激的なバンドを誘ってツアーをやってたんです。そこで、マネージャーから「このバンドすごいんじゃないか」って教えてもらって。それでyoutubeとか動画で観て「すごい面白い、やろうよ」って誘わせてもらったんじゃないかな。初めては仙台で一緒だったんですよね。
でんでけあゆみ(以下あゆみ):ええ。
KIBA:仙台で一緒にやった日に生で観て、衝撃を受けて「このボーカルの子は本物だ!」って思ったのをよく覚えてます。
あゆみ:わぁー、嬉しい。
――それは、あゆみさんのパフォーマンスとかですか?
KIBA:ステージにいるときの存在感っていうんですかね。それぞれボーカリストの魅力ってあるじゃないですか。歌がうまいとか、すごく声がいいとか。
そのなかでぼくは存在感でやれる人に「本物だな」って感じるところがあるんだと思うんです。人間力っていうんですかね。
刺激的なバンドを誘ってやりたい最大の理由は、一緒にやってて、このままじゃ自分がまずいんじゃないかって思いたいんです。
――まずいっていうのは?
KIBA:例えば、ぼくやGargoyleのステージの存在感、そういうのが消されるんじゃないかって感じるバンドとやりたい。普通にやってたら消えちゃうから、もっともっとやらなきゃやばいって自分への刺激になるのが楽しいんです。そういう意味では、バックドロップシンデレラとのライブは自分自身にとって良いツアーになったんじゃないかなと思います。一緒にやったのは何年でしたっけ?
あゆみ:2015年です。もう10年も前ですね。
――バックドロップシンデレラのジャンルというのはパンクとか、どちらかというとそっちに寄っているような印象はあるんですけども、Gargoyleのようなゴリゴリなメタルサウンドのようなバンドっていうのは、好きだったのですか?
あゆみ:いや、自分はあんまりゴリゴリ系とかは聞いてないんですよ。でもギター(豊島“ペリー来航”渉)とか、ドラム(鬼ヶ島一徳)はめちゃくちゃ好きですね。
――じゃあ、その当時は、GargoyleないしKIBAさんのことは知っていたのですか?

あゆみ:正直に言うと、自分は全く知らなかったです。で、実際にお会いしてKIBAさんのステージを観て「わっ!」って驚きました。普通に自分より(キャリア的に)上の方でこんな動いてこんな暴れて「あっ、じゃあ自分もまだまだいける!」って思いました。ぼくは実際に観て感じることが多いタイプなので、上の方が元気にやられていると、全然自分もまだまだ、年齢もそんな考えずにいけるな、みたいな。
KIBA:今、何歳?
あゆみ:41歳になりました。
KIBA:41!? 今年で?
あゆみ:つい最近の1月でなりました。
――バックドロップシンデレラ自体は、メジャーになるんですか?インディーズになるんですか?
あゆみ:インディーズというか、自主レーベルですね。
――自主レーベルであっても、かなり規模の大きな活動をされていますね。バンドのマネージメントは自分たちということですか?
あゆみ:そうですね。ギターがそういうのを全部やってくれて、ぼくはついていくだけです(笑)
――じゃあ、そういった意味では、Gargoyleと運営形態はちょっと近いといえば近いんですかね。
KIBA:うちは「ボス(マネージャー)」いるから(笑)
――ボス(笑)。バックドロップシンデレラはバンドとしてどっかに所属されたことはあったんですか?
あゆみ:ないですね。
――Gargoyleはメジャーに所属していた頃もあったと思うんですけど、インディーズの違いとかはありました?
KIBA:音楽的に教えてもらったことが多かったですね。活動に対しては「こうしろ、あぁしろ」とかは言われたことが全然なくて、もともとメジャーにいくまでの時期も「何かやりたいことがあったら手伝いますよ」みたいな感じの事務所だったんです。
メジャーの期間は3年くらいだったと思うんですけど、音楽を勉強したみたいな感じでしたね。
――それは、こっちのコード進行の方が美しいよとか、そういう話とかですか?
KIBA:そういう理論的な話もあったと思います。このコード進行だとここは単調じゃないかとか。あとは、もっとテイクを録ってみようとか、レコーディングに関してが結構ありました。
当時は今みたいにパソコン上で直す作業がなかったですし。だから歌ったらそれがそのまま発売って感じで。
――ボーカルに対する指摘はなかったんですか?
KIBA:なかったですね。
――曲調は?
メジャーで何枚か出したんだけど、その内の1枚『natural』(※1995年リリース)はちょっとソフトなイメージだったんで、「君たちはこれでいいのかな?」みたいなことを逆に言われましたね。「もっともっと好きにやれば」みたいな。
――そんな感じだったんですね。ライブに対するパフォーマンスで「こうしろ、あぁしろ」とかはあったんですか?
KIBA:ライブは何も無かったです。もう好きにやれって感じで。レコード会社なので、基本的には音源に関することでした。
――バックドロップシンデレラの場合は、どのようにライブとかレコーディングとかの方針を決めてるのですか?
あゆみ:基本的にはギターが先頭に立ってやってる感じですね。
――それはあゆみさんのライブパフォーマンスだとか、レコーディングの声とかも含めてですか?
あゆみ:レコーディングに関してはこういう風に歌うとか、結構ありますね。でもライブに関しては特にありません。
KIBA:ライブは、あれは他の人が考えてできることじゃないよね。
あゆみ:そうですね。とはいえライブでもあんまりやりすぎると、あれってどうなの?って指摘はあったりします。でも基本的にはないです。一応ライブの運びはこうやっていこうかっていうのはバンドとして決めたりはしますよ。でもボーカルとして個人的に「こう!」っていうのはほとんどないです。
こっちの方が面白いんじゃないのか、常にライブ中に1つ奇跡を起こしたいみたいなことを自分で考えながらやって、1本のライブで自分もドキドキワクワクする感覚が失われたライブはやらないっていうのを目標にしているんですよ。それが全部できるかどうかっていうのはまた別ですけど、自分が客観的に見た時に面白くないんだろうな、落ち着いちゃったな、ってなるのは一番つまんないって思ってますね。

KIBA:奇跡を起こすためにどう持っていってる? 自分を。
あゆみ:ここでこういう風なことやる、だとか、予定調和のパフォーマンス、例えば「ここで飛ぶ」だとか、ある程度決めてたりはしますが、それ以外のことで、何かしら考えてます。
自分があんまりやってないことをやるっていうのは不安な部分もあるじゃないですか。でもそこに対して守りに入らないように意識してますね。
KIBA:すごいわかるな。
あゆみ:そこでグッと自分を抑えていつも通りのパフォーマンスをやると、それはどっか逃げてるというか……。
KIBA:すごい近いことをよく思ってる。やってて「あれ、ここでこんなことやってしまった。ここから自分はどうするんだろ。超楽しみ」みたいな感じだよね。
あゆみ:そうそう!
KIBA:絶対ここで今まで一回もこんなことしてない。いったいどうするんだ俺!? みたいなのがすごく楽しいんだよね。
あゆみ:大袈裟に言えば、この曲は動かない、この曲は動くじゃなくて、この曲でも動いてみる、逆に今まで動いていた曲を動かずにやってみるだとか。そういうのも一つは、ミュージシャンとしてありますよね。
KIBA:急にスタンドマイクでこれ歌ってみようとか。
あゆみ:そうですね。
KIBA:全然やったことないから自分から何が出てくるのか。それが楽しい。
――普段やらないことを急にやりだした場合、メンバーから「あれは何だったんだ?」みたいなツッコミが入ったりすることはあるんですか?
KIBA:たぶん、そういう力をメンバーも欲してるんじゃないかな?
あゆみ:可能性ありますね。
KIBA:メンバーもびっくりしたいんだと思う、たぶん。
――バックドロップシンデレラは結成されて何年くらいですか?
あゆみ:2006年に結成なので、19年目ですかね。
――Wikipediaに書かれてあったことですが、一番最初にデモCDを2000枚以上売り上げる、とありました。2006年当時だとまだCDが売れてる時代だったとは思うんですが、デモCDを2000枚以上売るのに何か特別なプロモーションなどはされたのですか?
あゆみ:いや~、自分は全然わかってないですね、何枚売れたとかは全然。ただ、ライブやってるだけな感じです。
――Gargoyleとかは、例えば物販の売上のために、販売戦略を組んだりしていたのですか? 例えばTシャツの売上を上げる戦略とか。
KIBA:バンドTシャツなんて、だいたい黒いTシャツがあって、それに一色とか二色とかで印刷するだけじゃないですか。あとはそのデザインくらいで、条件はすべて一緒。
だから、普段自分が着たいなと思えるデザインにするようはしています。ライブの日以外も自分が着たいか、くらいは考えますね。
――Gargoyleって基本KIBAさんがデザインされてるんですよね。バックドロップシンデレラはどうなんですか?
あゆみ:僕はノータッチなんで(笑) ギターがデザイナーさんに頼んでたりって感じかと。
――本当にギターの豊島さんが司令塔なんですね。
あゆみ:バンドのことに関してはそうです。
KIBA:ぼく、よく思うんです。例えばぼくはすごく歌が上手くてやってるタイプじゃないと思うけど、ライブするのは得意だって。せっかく得意なことがあるんだし、自分が得意なことをやれば良いと思ってるんです。それで十分だと思いますよ。あゆみくんも人よりものすごく得意なことを、ちゃんとやってるから大丈夫。
――ライブをするのは得意……それは確かにそうかもしれないですね。

KIBA:まぁ、バックドロップシンデレラには衝撃受けたからね、仙台で。本当に。
あゆみ:いまでも覚えてますよ。KIBAさんが二階席から観てくれてまいました。
KIBA:ずっと観てたやろ?
あゆみ:すごい観てくれてました(笑) ぼくらも初めてGargoyleとやったんで、ドキドキはしてたんですよ。大御所と聞いてたんで。でもそしたら、ずっと居られる。「おぉ、すごい!」と思って。逆に嬉しいんですよ、ずっと観てくださる。なかなかそういう方がずっと観てくれているって少ないので。だからこっちはテンション上がりましたよ。
でも正直知らないから、とりあえず自分をやればいいんだ、みたいな感じでやっていたんですよね。あんまり周囲に合わせることもできないですし。それってやってたら、ずっと観てくださるから、嬉しいなって。
KIBA:目が離せなかったんだと思う、本当に。「すげー!」って。
――KIBAさんってステージの全てを使うようなパフォーマンススタイルじゃないですか。そういうところにあゆみさんのステージングにシンパシーを感じたんですかね。
KIBA:あゆみくんはステージだけじゃなくて客席も全部使ってるけど(笑) まあもちろん動いてるのもすごいなって思ったけど、ステージの使い方の発想力や、そこに表情とか含めた人間力とか感じられたんですよね。
――ステージとかライブハウス全体使うって怪我とかはしたことないんですか?
あゆみ:いや、何度かあります。一番ひどいのは鎖骨を複雑骨折したやつですかね。頭からダイブして、その時お客さんがあんまりいなかったんですけど、「集まれ、集まれ」して、飛び込んだんですよ。そしたら集まってきたお客さんを飛び越えちゃって。
――プロレスラーみたいですね(笑)
あゆみ:その時はなんかすごい飛びたい! とにかく遠くに飛びたい! って意識だったから。それで飛んだらお客さんがいない所に落ちて、頭を打って、一回意識を失ってたんですよ。で、頭をホッチキスで、パチパチパチパチ4回打ちました。
――かなりの流血だったんじゃないですか?
あゆみ:もう血がバーっと出ましたね。周りが死んだと思うくらい。
――その後ライブはどうしたんですか?
あゆみ:1曲目でやっちゃったんですが、ぼくは気が付いたらステージ袖の楽屋の通路の所にいたんです。ステージに残ったメンバーで1曲だけやったみたいで、またすぐに戻りました。
――戻ったんですか?
あゆみ:はい、ライブ自体は30分だけやりました。ライブが終わった後に頭がボコって「戸愚呂兄弟、弟!」みたいに腫れあがっているし、血がバーってなって割けてるし、とりあえず救急車で運ばれて、病院でレントゲン撮ったら鎖骨も複雑骨折してました。
――複雑骨折したならそれ以降のライブもできなかったんじゃないですか?
あゆみ:いや、その次の日は秋田だったんですけど、頭は四ホッチキスで止めていたし、痛み止め飲んでやりましたよ。鎖骨はどうすることもできなかったですが。
その後、東京戻ってまた病院に行ったんです。鎖骨は手術すればちゃんとくっ付きますよって言われたんですよ。でも手術しなくてもなんとかなるってことで、手術選ばずに放置しました。一応、動いたんで(笑)
――そういう怪我を一度でもされると同じ事をするのが怖くなりませんか?
あゆみ:次の日の秋田でも自分が飛ぼうか迷ったときに、お客さんもちょっと不安がってるのが分かったんですよ。だから自分もそれで躊躇しちゃって。でもそこで逆に「いけ、いけ!」みたいな感じになって、恐怖心はなくなりましたね。通常運転に戻りました。意識失うまでいったんで、逆に何も残ってなかったんです。痛みとかもわかってなかったんで。
――すばらしいですね。KIBAさんそんな怪我したことあります?
KIBA:そんな怪我はないけど、ステージから落ちて、ちょっとヒビいったとか。その程度ですね。
(文・構成=編集部、写真=石川真魚)
※後編に続く