店を球団推しにする功罪とは? 店舗経営者に訊いてみた

コロナ禍が収束し、消費者の意識や行動が変化してきた。自粛生活で抑えられていた外食やイベント参加など、消費行動の拡大が進み、一時期はかなり低迷していたスポーツバーでもイベントの再開に伴い、ファンが集まれる場として顧客ニーズが拡大している。
とある調査では、「身近な人たちとワイワイしながらスポーツ観戦を楽しむタイプ」は、男性が12.5%だったのに対し、女性は倍の23.3%という結果だったらしい。スポーツ観戦を仲間との交流の場として楽しむ女性が増えてきたと言えよう。
しかし近年若い世代のアルコール離れもささやかれている。厚生労働省の調査によると、週に3回以上飲酒する男性は、平成元(1989)年の51.5%に比べ、令和元(2019)年では33.9%に大きく減少している。特に、20代は32.5%から12.7%、30代は55.5%から24.4%に減少しているというのだ。
コロナ禍以降、生活様式の変化により消費者の意識や行動が変化してきたとはいえ、外食産業は楽ではない状況であることには変わりはなさそうだ。
実際のところはどうなのだろうか。
神宮球場のお膝元にある外苑前駅から徒歩1分という好立地に3階建のビル1棟でフロア毎に異なるコンセプトを掲げて飲食店を営むあおやま肉と魚バルファブ (ビル1階、旧Cafe&Bar FAB)がある。 神宮球場もすぐ近くということで、プロ野球で本拠地にしているヤクルトスワローズを全店舗共通で応燕もしているが、色々苦労もあるようだ。
店長であり、会社の代表である山口氏に話を伺ってきた。
――ファブは何年やられているのですか?
山口:今年で12年目ですね。
――12年目……長いですね。最初からスワローズ推しで始めたんですか?
山口:スワローズ推しになったのはコロナがきっかけですね。だからまだ5~6年でしょうか。
――なぜスワローズ推しにしたのですか?
山口:あの当時、非常事態宣言により特に飲食店は営業時間や方法が規制され休業が前提でした。でも休業するとなると、この状況下でも頑張って出社している常連のお客様達の行き場が無くなることや当時のスタッフも状況が許す限り働きたい、と言ったんですよね。周囲の店は殆ど休業していたのですが、ならルールの範囲の中で出来る限り営業していこう、となったんです。
そういう中、ヤクルトスワローズの名将・監督がお亡くなりになり、ファンの方々が神宮球場に献花に来られる方が多数いらっしゃったんです。その流れでヤクルトスワローズの私設応援団長の方がお仲間とたまたま来店いただきました。初めての来店でした。何せ他は休業していてうちだけが営業してましたからね(笑) 接客をしていく中で「神宮球場のお膝元なのに、スワローズ推しの店が一軒もないんだよね。この店がもしスワローズ推し店になったら俺達も沢山のスワローズファンもきっと来るよ!」言われたんです。
その当時はこの状況がいつまで続くのか分からず、来店客も殆ど無く毎日不安しかありませんでした。反面、これを前向きに捉えて何か思い切ったことやりたいな、と考えが巡っていて、コロナ禍が繋いでくれたご縁を感じ、アドバイスに応えてスワローズ推し店として再スタートを切りました。
――方向転換に抵抗はなかったのですか?
山口:スワローズ推しを打ち出すことで、その他のお客様にどういう風に理解され、どんな影響が出るのかの不安はありましたね。
ただ以前よりミーティングの中で神宮球場が近いし、そういう色を付けたほうがよりお店が盛り上がるんじゃないかっていう意見はあったんですよ。でもずっと踏み切れずにいたんです。それがコロナにより全く先の見通しが立たなくなったのでじゃあ「やってやろう!」と踏み切りました。今思えばみんなヤケクソだったかもしれませんね。何せ近代初めて経験する世界的なパンデミックパニックでしたから。
――実際それでスワローズ推しの店に変えて、ビジネス的な変化はあったんですか?
山口:ありました。それ以前よりスワローズのお客様の来店割合、頻度が劇的に上がりスワローズと心中ビジネスになりました(笑)
――スワローズが優勝した時は何かしたのですか?

山口: 2021年、2022年とスワローズがリーグ優勝した際はスワローズファンのお客様の要望で二階を養生してビールかけ会場を臨時で設営してみんなで選手同様にお祝いをしましたね(※ビルの2階3階は系列店「九州馬肉居酒屋 和’s」)。
日常の中てビールかけをすることってまずないですし、前年ダントツ最下位の中でのリーグ優勝でしたからファンのお客様は一体となって本当に喜びを分かち合っていましたね。またそのことで意図せず各メディアから取材依頼が来たりと宣伝効果もあったように思います。ちなみに養生するだけでも経費が20万超はかかってしまいましたけど(苦笑) それも勉強になりました。
――それだけの経費をかけてもペイできるものなのですか?
山口:微妙ですね。でもやっぱりスワローズ推しっていう看板を決めて背負って、コロナ禍中、明けてまだ不安、不安定な時にスワローズファンのお客様中心に勇気をもらって、またスワローズ推し店を掲げて初めてのリーグ優勝だったので感謝と店としての気概を示したかったんです。もちろん新参でしたがヤクルトファンとして久々のリーグ優勝を派手にお祝いしたい、という気持ちもありました。
――お店の売上に球団成績が影響したりするのですか?
山口:正直影響されますね……(苦笑)
――2024年のヤクルトスワローズはセ・リーグで5位でしたが?
山口:優勝した時と比較すると売上的に落ちたと思います。ただそれも推し店の宿命ですし、失われた30年という世相等複合的な要素も最近は大きいと思います。