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負傷離脱の巨人・岡本和真と「第92代4番」吉川尚輝――メジャー挑戦の可能性も!? 名門球団を背負う新時代のリーダーたち

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チームの連敗を止める活躍を果たした吉川尚輝(写真:Getty Images)

 2025年、読売ジャイアンツは大きな転換期を迎えている。チームの象徴であった坂本勇人がキャリア晩年を迎え、長年続いた“坂本の時代”に一区切りがつきつつある。

 そんな中、新たなリーダー像を求めて模索するジャイアンツにおいて、攻守の両輪として名が挙がるのが岡本和真と吉川尚輝の2人だ。

 プレースタイルも性格も対照的な2人。だがその存在は、いまの巨人にとって欠かすことのできない両翼であり、それぞれが新時代のリーダーとしての責任と期待を背負っている。

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岡本和真が“主将の4番”として君臨する理由

 岡本和真は、長らくジャイアンツの4番を任されてきた絶対的な主砲である。毎年のように30本塁打以上を記録し、本塁打王・打点王など数々の打撃タイトルを獲得してきた。

 その打撃は単なる長距離砲にとどまらない。ブレイクした2018〜24年にかけてはOPS.800以上をキープ。出塁しても良し、打っても良しという“完成度の高いスラッガー”へと進化を遂げた。

 さらには不調時でも打球角度を保ち、ゴロを避けて結果につなげる“凡退の質”すら高い。チームの勝敗を左右する意味で、岡本は「一年を通して勝てる4番」として確立された存在となった。2023年のWBCを見ても、打球を上げる技術は通用していたと言えるだろう。

 キャプテン就任後は、無口ながらも実直で、背中で引っ張る姿勢は、かつての阿部慎之助や坂本勇人の系譜を思わせる。声でチームを引っ張るタイプではないが、姿勢と実力で仲間を導く。まさに「主将の4番」だ。特に今年に関してはチームの勝利のために打席に立っていたのも伝わるぐらいだ。

 しかし、その岡本に試練が訪れる。2025年の5月6日の阪神戦の守備で走者と交錯し、左肘の靱帯を損傷したことが発表された。当初は軽傷と見られていたが、再検査により重傷と判明し、長期離脱を余儀なくされた。攻撃の柱、精神的支柱を同時に失ったことで、チームは戦術的にも精神的にも再編を迫られている。

 それでも岡本はリハビリに黙々と取り組み、チームのために何ができるかを模索し続けた。

 2025年オフには、メジャー挑戦の噂も絶えない。本人は多くを語らないが、仮に海を渡る決断を下すならば、リーグ優勝はもちろん自身が経験していない日本一を「置き土産」にしてチームを去るという理想的な形を描いているはずだ。

 岡本は、巨人という伝統ある球団において、数字・実績・人格すべてを兼ね備えた象徴的な存在になった。彼がグラウンドに戻る日を、ファンもチームも待ち望んでいる。

岡本不在で真価が問われる吉川尚輝

 そんな岡本がグラウンドを離れた今、もっとも注目を集めているのが吉川尚輝だ。

 これまでの吉川は、派手さはないがチームに欠かせない“潤滑油”としての役割を果たしてきた。だが今は、それだけでは足りない。岡本という“柱”が不在となった今、吉川には「もうひとりのリーダー」としての進化と覚悟が求められている。

 プロ入り後は、度重なるケガに苦しみながらも地道にキャリアを築いてきた。近年は故障も減り、2020年代からはチームの主軸となる。昨年はシーズン途中から3番に座り、打率.287という成績を残し、リーグ優勝に貢献した。

 そして特筆すべきは、いまの吉川の守備は、名実ともに国内トップクラスであるということだ。セカンドとしての守備範囲は圧倒的で、単なる身体能力だけでなく、打者傾向の読み、配球との連動、予測力、瞬時の反応といった高度な判断力と技術が凝縮されている。守備だけで試合の流れを変えられる希少な選手であり、12球団でも屈指の「守備で得点を防げる選手」として確固たる評価を得ている。

 だが今、吉川に求められているのは、“地味で確実な仕事”にとどまらない。岡本が離脱した今こそ、彼がチームの先頭に立って引っ張る「スペシャルな存在」になるべきときなのだ。単なる「いないと困る存在」から、「いることで勝てる存在」へ。リーダーシップを分担し、攻撃面でも“怖さ”を増していくことが、これからの彼のテーマになる。

 もちろん、吉川はもともと口数の多いタイプではない。だが、日々のプレーの積み重ねと、確実な結果でチームに安心感を与えることができる存在だ。そんな彼が、一歩前に出て、若手や投手陣を支える姿は、見えないキャプテンシーそのものといっていい。

 岡本が戻ってくるまでの間、そして仮に海を渡ることになったその後も、吉川がどれだけ「スペシャルなリーダー」へと脱皮できるかが、巨人の未来を左右するのは間違いない。

 岡本和真と吉川尚輝。この2人は、まったく異なるタイプのリーダーである。岡本は試合を一撃で決める「主砲」であり、静かに背中で導くキャプテンタイプ。吉川は試合を整え、守り、つなぎ、流れを作る「制御装置」であり、地道に仲間を支える安定のリーダーだ。

 だが、2人の価値に優劣はない。むしろ、この対照的な2人が共にグラウンドに立ち、リーダーとしてチームを導くことが、今の巨人にとっての最大の理想である。

 坂本勇人が長年体現してきた“強く、美しく、勝てる野球”。そのメンタリティは、確かに今、岡本和真と吉川尚輝という2人の中に受け継がれている。

 2025年は、岡本がいない時間をどう戦い抜くか、そして吉川がどう変わっていくかが問われる1年となる。

 この2人が再び肩を並べてグラウンドに立つ日こそ、巨人の「新時代」が本当の意味で始まる瞬間だ。

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(文=ゴジキ)

ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

X:@godziki_55

ゴジキ
最終更新:2025/05/19 18:29