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相撲界の頂点・横綱が背負う“ブラックすぎるシステム” 「降格なし」という地獄の始まりで…

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(写真:Getty Imagesより)

 相撲ファン待望の日本人横綱が誕生する――。

なぜ外国人力士は横綱になれなかったのか?

 春場所を制し、夏場所綱取りに挑む大の里が中日で勝ち越しを決め、取り組み内容も申し分のないものばかり。2場所連続優勝で横綱昇進確実となった。

「大の里は大学時代、2年連続アマチュア横綱(全日本選手権優勝)ほか13のタイトルを獲得し、幕下10枚目格付出でデビュー。入門直後の稽古で幕内上位力士と互角以上に渡り合い、周囲に“将来の横綱間違いなし”と言わしめる期待の星でした。そして期待通りに出世を続け、わずか9場所で大関に昇進。このまま横綱に昇進すれば史上最速での綱取りになります」(週刊誌スポーツ担当記者)

 大の里が横綱になると、日本出身横綱は2017年の稀勢の里(現・二所ノ関親方)以来8年ぶり。大の里は二所ノ関部屋所属で、和製横綱の系譜が師匠から弟子に受け継がれることになる。しかし「横綱」という地位は周囲が考える以上に重く、厳しい。それに直面したのが、3月場所で新横綱となった豊昇龍だ。

「豊昇龍の横綱昇進に関しては、前場所が準優勝だったこと、下位力士への取りこぼしが多いことなどから“早すぎる”という声が少なくありませんでした。甘めの判断の背景には、照ノ富士引退による横綱空位を避けたい思惑があったとの憶測も飛び交い、注がれる目は厳しかった。はたして懸念は現実となり、豊昇龍は新横綱の3月場所で9日目までに4つも星を落とし、10日目から休場。叩かれる羽目になりました」(同上)

横綱には「降格がない」という地獄の始まり

 批判は期待の裏返しだが、加えて横綱には“品位”や“格”も求められる。最も厳しいルールは横綱に降格がないことだ。

「横綱は勝ち続けることが使命であり、存在意義でもある。過去には降格制度の導入が議論されたこともありましたが、導入には至りませんでした。休場を続けても横綱の地位は失いませんが、“ダメなら辞める”というのが相撲界のしきたりです。今の大相撲はガチンコが当たり前で、上位の差は小さい。それなのに序盤で2~3敗すれば休場、2ケタ勝てなければ引退が取り沙汰されるのは、もはや“無理ゲー”です。

 横綱昇進後に苦しんだ代表格が稀勢の里です。稀勢の里は新横綱昇進場所こそ優勝したものの、結果的にはそれが最後の優勝に。その後1年半近くほぼ全場所を休場し、横綱の威厳を見せられないまま引退しました。

 対照的だったのは魁皇(現・浅香山親方)です。魁皇は横綱にはなれませんでしたが、幕内在位107場所(約18年)、通算1000勝超えなど、数々の大記録を樹立。記憶にも記録にも残る力士となりました。魁皇がそれだけ長く現役を続けられたのは大関止まりだったから。魁皇は晩年、毎場所8勝か9勝止まりでしたが、横綱ならとっくに引退だったでしょう」(フリーのスポーツジャーナリスト)

崩壊目前の「横綱の権威」

 番付制度が過渡期を迎えているのは、ここ数年の活躍力士を見ても一目瞭然だ。

 伯桜鵬はわずか3場所、逸ノ城は4場所で幕内まで駆け上がり、尊富士は昨年の3月場所で110年ぶりとなる新入幕優勝の快挙を達成。しかし平幕の力士が活躍すればするほど、「横綱」の権威は崩壊する。西岩親方(元関脇・若の里)は『東京スポーツ』で「横綱大関が優勝する、若手を退けて壁になる。番付の価値をもう一度取り戻してほしい」と、元大関・琴風は『スポーツ報知』で、「私たちは番付を生きがいに相撲人生を送ってきた。番付の崩壊は許されない」と厳しい見方を示す。

 とはいえ、新鋭の台頭は本来喜ばしいことだ。これからの相撲界を支える大の里と豊昇龍は今後、どのような相撲人生を歩むのか。

「大の里はこれまで負け越し経験がなく、1度も壁にぶつかっていませんが、かねてより指摘されているのが稽古不足。同門の親方から再三再四『稽古が足りない』と苦言を呈され、1時間程度の稽古で息が上がる姿も目撃されており、スタミナ不足は大きな課題です。稽古不足はケガのもとですし、体重が急増しているのも大いなる懸念事項。不動の大横綱になるためには1にも2にも稽古でしょう。

 豊昇龍は2つの未来が想像できます。1つは日本人横綱の誕生でプレッシャーから解放され、一気に本領を発揮するパターン。もともと思い切りの良い取り口が身上ですし、稽古量はピカイチですから、横綱に駆け上がった時のような盤石の強さで一時代を築くかもしれません。もう1つは、大の里との対比で完全にヒールになってしまうパターン。実際はとてもマジメなのに、“朝青龍の甥”というだけで暴れん坊に見られており、少しでも負けが込むと、一気に批判のボルテージが上がるでしょう」(前出・スポーツジャーナリスト)

 2横綱による“大豊時代”が来るか。

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(取材・文=石井洋男)

石井洋男

1974年生まれ、東京都出身。10年近いサラリーマン生活を経て、ライターに転身。野球、サッカー、ラグビー、相撲、陸上、水泳、ボクシング、自転車ロードレース、競馬・競輪・ボートレースなど、幅広くスポーツを愛する。趣味は登山、将棋、麻雀。

石井洋男
最終更新:2025/05/27 12:00