ハリウッドスターは「ジャンキー」だった!? トム・クルーズ主演作『MI フォールアウト』

コナン祭り、ジブリ祭りに続き、『金ロー』で絶賛放映中なのが、トムクル祭りです。
シリーズ史上最大の大掛かりなスタントに挑んだ『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』の公開を記念して、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)ではシリーズ第6弾となった『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年)を5月30日(金)にオンエアします。放送枠を拡大しての本編ノーカット放映です。
トム・クルーズ演じるイーサン・ハントは、『フォールアウト』でも不可能なミッションを次々とクリアしていきます。なぜゆえ、人気スターであるトムは、みずから危険なスタントに挑み続けるのでしょうか? 『フォールアウト』の見どころと共に、その謎について考察します。
『ルパン三世』を思わせるチーム編成に
イーサン・ハント(トム・クルーズ)は米国の諜報機関「IMF」に所属するベテラン諜報員です。先週放映された『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年)では、犯罪組織「シンジケート」のリーダーであるソロモン・レーン(ショーン・ハリス)をイーサンらの活躍によって逮捕したものの、残党たちが「神の使徒」を名乗り、世界各地でテロを起こします。
プルトニウムを入手し、核爆弾をつくろうとする「神の使徒」の野望を潰すため、イーサンは立ち上がります。相棒のベンジー(サイモン・ペッグ)、いつもクールなルーサー(ヴィング・レイムス)、そして紅一点となるイルサ(レベッカ・ファーガソン)も加わります。人気アニメ『ルパン三世』(日本テレビ系)を思わせる4人編成のチームで、不可能なミッションに臨みます。
今回は、さらに『ミッション:インポッシブル3』(2006年)でイーサンと結婚していた元妻のジュリア(ミシェル・モナハン)も登場し、事件に巻き込まれるはめになります。危険な匂いを放つ男・イーサンは、いつも女性にモテモテです。
骨折しても、カメラを回し続ける主演俳優たち
トム・クルーズ自身が体を張る超絶スタントが、『フォールアウト』は目白押しです。大きな話題となったのは、物語序盤で見せる「ヘイロージャンプ」でしょう。敵のレーダーにキャッチされないよう、成層圏に近い超高度な上空から垂直降下し、地上近くギリギリのタイミングでパラシュートを開くというものです。
米軍が開発したこの特殊なスカイダイビングに、トムは長時間にわたるトレーニングを重ねて挑戦しています。いくら練習しても本番では何が起きるか分かりませんし、ひとつでも手順を誤ると死に直結するデススタントです。地上に落下していく姿を見ているだけに、下腹部がキューンとなってしまいます。
トムの役者バカぶりを感じさせるのは、映画後半の市街地での追跡シーンです。ビル街の屋上を、「トム走り」で敵を追いかけます。ロッククライミングの要領で駆け抜けていくのですが、ビルからビルへと飛び移る際に、トムは足首を骨折します。
それでもトムはカメラを止めずに、撮影を続行させています。しかも、そのカットをしっかりと本編に使用。ジャッキー・チェンが『サンダーアーム 龍兄虎弟』(1987年)の撮影中に頭蓋骨陥没の大怪我を負ったことを彷彿させます。全治9カ月と病院で診断されたトムは6週間で現場復帰したそうですが、周囲はハラハラドキドキの連続でしょう。
さらにクライマックスは、トム本人が操縦するヘリコプターでのドッグファイト。ただでさえ事故の多いヘリコプターを使って、ド派手なスカイアクションが繰り広げられます。相当なシミュレーションを繰り返したのでしょうが、それをきっちりやり切るトムの揺るぎなさには脱帽です。
でも、なんでトムは人気スターでありながら、ここまで危険なスタントに挑み続けるのでしょうか?
トム・クルーズは重度な「依存症」だった
ジャッキー・チェンの場合、香港時代は『プロジェクトA』(1983年)や『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(1985年)などで、次々と体当たりスタントに挑んで映画ファンを狂喜させましたが、ハリウッドに進出してからはスタントができなくなっています。これはジャッキー自身の問題ではなく、米国の保険会社が危険性のあるスタントに反対するからだそうです。主演俳優が大怪我をして撮影がストップすれば、億単位でお金が無駄になるからです。
その点、トムは「ミッション:インポッシブル」(以下『MI』)シリーズではプロデューサーを兼任しています。プロデューサー自身がOKしていることで、過激なスタントが可能になったわけです。超絶的なスタントができるアクション俳優でありながら、数々の大ヒットを飛ばしたプロデューサーとしての実績もあって、初めて「MI」シリーズのスタントは可能になったのです。
もうひとつ、トムが過激なスタントに走っている現実的な理由があるようです。スタントマン経験者によると、アクションシーンの撮影中は全身にアドレナリンが溢れ出し、通常以上の能力を発揮する上に、多少の怪我を負っても本番中は痛みを感じないそうです。そして、危険なスタントの撮影を無事に撮り終えると、ものすごい至福感を覚えるそうです。スタントマンたちはみんな「アドレナリンジャンキー」だと言われています。
トム本人も「アドレナリンジャンキー」だと笑って公言しています。世界で最も大金と時間を費やして、ジャンキー状態であることを楽しんでいるのがアクション俳優トム・クルーズだということになります。トム・クルーズ=合法的なジャンキーだったのです。「サイエントロジー」の礼拝に参加しているより、ずっと気持ちいいのでしょう。
シリーズ第7弾『ミッション:インポッシブル デッドレコニング』(2023年)では崖からバイクで跳び、その続編となる最新作『ファイナル・レコニング』ではパンツ一丁で北極海を泳ぎ、複葉機上での格闘シーンにも挑戦しています。現在62歳となるトムの年齢を考えると、さすがにここらへんが潮時になってもおかしくありません。
人間の肌感覚にこだわり続ける稀有な存在
配信全盛の時代にあらがうように劇場公開にこだわることで、トム・クルーズは今やハリウッドにおけるレジェンドな存在となっています。ブレイク作『トップガン』(1986年)の36年ぶりとなる続編『トップガン マーヴェリック』(2022年)はコロナ禍明けに劇場公開され、メガヒットしました。廃業寸前だった多くの映画館を救ったと、トムは賞賛されました。
「これからはドローンの時代。パイロットは不要になる」と上官に言われ、「でも、今日じゃない」とマーヴェリックが返すシーンは、映画史に残る名台詞となっています。もはやトムは劇中のキャラクターと一体化しちゃっています。人間が持つ肌感覚に徹底してこだわることで、現代のハリウッドでトムは神格化されたと言えるんじゃないでしょうか。
最新作『ファイナル・レコニング』では、イーサンは全知全能のAIと闘うことになります。ハリウッド俳優&脚本家の長期ストライキによって完成が遅れた『ファイナル・レコニング』ですが、そのストライキの要望のひとつが「AIの使用制限」でした。劇中のイーサンと現実世界とが、やはり重なって感じられます。
今夜放送の『フォールアウト』も充分にすごいスタントの数々に挑んでいるのですが、現在公開中の『ファイナル・レコニング』の空中スタントは、トム・クルーズ神話の極みでしょう。
29年間にわたる「MI」シリーズは、不可能を可能にする男の物語です。それって、やっぱりトム自身の物語なんだと思います。60歳を過ぎても、全力で体を張り続けるトムの姿を、ぜひ劇場で楽しんでください。
(文=映画ゾンビ・バブ)