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「現役引退後は恋愛小説家になります」プロレスラー竹下幸之介、飛行機で号泣する読書家の告白

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竹下幸之介

過去に何度も「サイゾー」に登場している、お馴染みDDTプロレスリング兼米AEW兼新日本プロレス所属レスラー・竹下幸之介が、この5月に自伝的エッセイ『ALONE -孤高の挑戦-』(KADOKAWA)を刊行した。

現在アメリカで大活躍中の竹下は、今年さらに新日本プロレスとも所属契約を結び、前代未聞のトリプル所属レスラーとなった。3団体のリングを横断する多忙な日々でも竹下にとって欠かせないのが、読書の時間だという。

試合と本のプロモーションを終え、飛行機に乗る直前の竹下を直撃。エッセイの感想もそこそこに、幼少期からの読書歴と、本との深い関わりについて話を聞いた。

「本屋で泣き止む子供だった」——三冊持ち歩きの積読マニア誕生秘話

――5月に刊行された『ALONE -孤高の挑戦-』、一気読みしました。面白かったです。

竹下 ありがとうございます。

――プロレスラーになるために実践されたこと、実際の行動や出来事がひたすら具体で描かれていて、竹下さんの人生の濃密さを感じさせる1冊でした。個人的に一番好きなのが、唐揚げのエピソードです。

竹下 上京初日、三茶のアパートで鶏肉を前にホームシックに陥ったときの話ですね。

――あのシーンは、なんかもう坂本裕二のドラマみたいだなと思って。人生の意義とか意味の隙間に生まれるふとした余白を感じさせるというか。全編を通してロジカルに書かれていますが、あのエピソードはどこか文学性を感じて……菅田将暉さんの芝居が浮かぶような……。

竹下 実写化、いいっすね(笑)。

――以前からインタビューさせていただく中で思っていましたが、言語化能力が高いですよね。リング上ではもちろんめちゃくちゃ強いけど、リングを降りても言語化という武器を持っていて強い。

竹下 今は日本語を話す機会がだいぶ減ってるんで、ぱっと言葉が出てこないことが増えました。単語は出てくるんですが、「なんか具体例をあげて説明したいのに…出てこない!」みたいなことが増えて。

――プロレスはやっぱり言葉も大事な要素なんでしょうか?

竹下 せっかく痛い思いして頑張って試合するなら、より多くの人に注目して見てほしいですから。そのために言葉を尽くす必要はあると思っています。僕は試合後の余韻まで楽しんでほしいタイプなので、そうなるとやっぱり試合前の煽りVTRや、試合後のインタビューで発する言葉にこだわりはある。本好きとしても、そこは大切にしている部分です。

――本の中でも小さい頃から本を読まれていたと書かれていましたが、きっかけはありますか?

竹下 今思い返すと母がいつも寝る前に読み聞かせをしていました。当時は『おひさま』(小学館/現在は休刊)という読み聞かせ向け月刊誌があって、よく読んでもらっていました。

――お母様の英才教育!

竹下 でも僕、読書というより「趣味:積読」なんですよね。とにかく本を買うのが好きで。小さい頃なんて、泣いている時も本屋に連れて行かれれば泣き止んだぐらい、本があると安心するタイプでした。

――本のジャンルでいうと、どんなものが多いですか?

竹下 なんでも読みますが、8割くらいは小説です。小説にハマるきっかけは、小学生のときにミステリー作家の我孫子武丸先生の作品に出会って、そこから一気に読むようになりましたね。

「同じ本を4冊買う小学生」——我孫子武丸で始まった布教人生

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昔から大ファンだというダイアンに駅で遭遇したときの話をする竹下氏。「声はかけられませんでした」とのこと。

――我孫子武丸先生との出会いのきっかけは?

竹下 当時、親父のお下がりのスーパーファミコンで「かまいたちの夜」というゲームをやっていたんです。このゲームの脚本を担当していたのが我孫子先生だったんです。

「かまいたちの夜の人が書いた本だ!」と思って手にとったのが『ぼくの推理研究』(集英社)という小説で、これが大当たりでした。

 当時、クラスの教室に自分の好きな本を持ち寄ってシェアする用の本棚があったんです。好きな本を置いておけば、誰かがそれを読んで、また本棚に戻してっていう。僕は「ぼくの推理研究」をこの本棚に置きました。そしたら、面白すぎて誰かにパクられたんですよ。それがうれしくて、毎回買っては本棚に置いてパクられてを繰り返して、結局同じ本を4冊買いました。

――身銭を切ってでも本棚に置きたかったと。

竹下 とにかく面白いから、一人でも多くのクラスメイトに読んでほしかったんです。僕はもともと自分の好きなコンテンツを人に紹介したい欲が強くて。

――いわゆる布教活動ですね。

竹下 まさしく、布教です。僕が面白いと思ったものは友達と共有したいし、逆に共有もされたいタイプです。プロレスも僕がハマっていた時期は、すでに世間的には下火になっていたけど、この面白さを多くの人に布教したいという気持ちが強くありました。

――『ぼくの推理研究』シリーズのどこに惹かれていたんですか?

竹下 僕が好きな小説は、とにかく一気読みしたくなるもの。じっくり読み進めて胸にじんわり響いてくるものとか、考えさせられる作品もいいですが、もう徹夜で読み進めたくなるようなテンポ感やストーリー展開があるものが好きです。「一気読みしたい!」と思った最初の小説が『ぼくの推理研究』でした。

 これは自分のプロレスにも通じています。プロレスにもいろんな見せ方があるとは思うけど、僕の場合は「とにかく面白い」「時間があっという間にすぎた」と言われるような試合がしたい。

――『ぼくの推理研究』の読後感をプロレスでも再現したいと。

竹下 はい。『ぼくの推理研究』を読んだときに、自分が好きな作風の傾向を初めて自覚しましたね。とにかく没入感があるものが好きなんだなと。

――我孫子先生の他に、作家買いをする人はいますか?

竹下 最近は宮島未奈先生推しです。「成瀬」シリーズ(新潮社)で大ブレイクしましたが、いまだに発売日に買うくらいにはファンです。

 あとは五十嵐貴久先生。ドラマ化もされた「リカ」シリーズ(幻冬舎)にハマりました。「ギンイチ消防士・神谷夏美」シリーズ(祥伝社)もよかったですね。五十嵐先生もまさに没入感のある一気読み系です。そもそも僕、本を読んで何か学びを得ようとかは思わないタイプで。

――エンタメとして楽しむ?

竹下 そうです。読書が苦手な人って「何かを感じ取らないといけない」「読書で学びを得なきゃいけない」という義務感で嫌になるパターンがあると思うんですよ。でももっと純粋に、時間を忘れるぐらい面白かったらそれでいいじゃないですか。

――身構えず、映画やドラマと同じように楽しめばいいってことですね。

竹下 僕は映画やドラマより、小説でハマれるものを見つけた時のほうがより高揚感を得ますね。映画は2時間で終わっちゃうけど、小説だったら一冊読むのに時間がかかる分、楽しい時間も長く過ごせる。

――なるほど。心理的コスパがいい的な。

竹下 積読が好きなのも、楽しい時間をストックできる感覚があるからかもしれないですね。

「知ってるよ」と嘘ついた初恋——小学校6年間で喋れたのはたった2回

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「掟ポルシェさんの本も好きで、自分が文章を書く上でも影響を受けてます」(竹下)

――サイゾーオンラインの編集長から「胸キュンした一冊」を聞いてこいと言われていまして。ギャップ萌えを狙いたいそうです。すみません。

竹下 胸キュンは大事ですからね。実は少女マンガも好きだし、恋愛映画も恋愛小説も大好きなんですよ。

――よかったです。しゃばい質問するなと言われないか心配でした。

竹下 誰しも胸キュンしたい時ってあるものですからね。僕が最初に胸キュン小説に触れたのは、小学生の時にガラケーで読んだ恋愛小説。いわゆる携帯小説と呼ばれるものをめっちゃ読んでたんですよ。「野いちご」という小説投稿サイトで読んでました。

 初恋が小学校の時だったんですが、その女の子が読書の時間に『みずたま』(スターツ出版)という携帯小説が書籍化されたものを読んでいて。その子と話したいがためだけに、本屋で『みずたま』を買って猛スピードで読みました。

 3日で読み終えて、翌日何食わぬ顔で「え?『みずたま』読んでるん?これ面白いよな〜」って声をかけました(笑)。まあ、その子とはこの会話を含めて2回しか喋れなかったんですけど。

――奥手すぎる!

竹下 奥手すぎましたねぇ。今でも初対面の人と話すときは、映画とか小説の話題で突破口を開く傾向にあります。例えば「趣味なんですか?」って聞いて、「休みの日は映画を見てます」と言われたとして、「最近なんか見ました?」「何が好きなんですか?」って聞いて、その時に聞いた作品名は基本網羅しておきたい。そうすると次会ったときに、その話ができますから。そういう距離の縮め方しか、僕、やり方知らないんですよ。奥手の唯一の武器ですね(笑)。

CAも驚いた飛行機内大号泣事件——「人の優しさに触れると泣きます」

――今読んでいる本はありますか?

竹下 今は、今村翔吾先生の『火喰鳥』から始まる「羽州ぼろ鳶組」シリーズ(祥伝社)を読んでます。これは消防士の友人が「消防士小説の中で一番面白い!」と言っていたので、シリーズ全部買って読み始めています。あとは『カフネ』(阿部暁子/講談社)ですね。

――「2025年本屋大賞を受賞」した話題作ですね。

竹下 これはもう飛行機の中で読んでボロ泣き。泣きすぎてCAさんが「大丈夫?」って言いながら、ランチョンマットみたいなやつを差し出してくれました。

――竹下さんは大きいからティッシュじゃ足りないと思われたんでしょうか。

竹下 ありがたく受け取って、涙を拭いながら嗚咽してしまいました。

――何がそんなに涙を誘ったんですか?

竹下 主人公の女性の弟が亡くなるところから始まるんですが、この人物がもう優しさの塊のような人だったというのが、話を読み進めていくうちにどんどん解き明かされていくんです。それまでの行動や、彼が残したものが、すべて純粋な優しさ由来のもので、それがもうラストの方で一気に押し寄せてきて涙が止まらなかった。

――優しさに触れると泣いてしまう?

竹下 そうですね。僕が感動する時は、人の優しさに触れた時が多いかもしれない。思い返してみると好きな本や映画は、登場人物がみんないいやつ。いわゆる悪者があんまり出てこない、みんながいいやつでみんなが優しい話が好きなんです。

 プロレスって一見優しさからかけ離れてそうで、実はかけ離れてなくて。試合中は思いっきり技をかけるし、相手の技を思いっきり受ける。これって信頼の受け渡しだし、そこには愛とか優しさがある。これがプロレスの面白さなんです。

「胸キュン大事ですからねぇ」——現役プロレスラーが夢見る恋愛小説家

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――これだけ本を読んでいると、自分で書いてみたくなりませんか?

竹下 なりますね。僕、文庫が夢なんですよ。自分で本を書いて、なおかつそれが文庫化される。いいですよね、文庫。持ち歩けるし。

――文章を書くときは悩むタイプですか? 産みの苦しみ的な。

竹下 ぜんぜんないです。文章を書くこと自体がまったく苦じゃない。小学校四年生からライブドアブログを使っていたし、コロナ禍にはじめたnoteは今も続けてます。SNSで流れていく短文ではなくて、しっかりコラムとして書いて読まれるほうが僕には合っているなと。

――小説を書いてみようとは思いませんか?

竹下 考えないことはないですけど、それはプロレスを引退してからですね。プロレスラーはやっぱり自分が主人公じゃなきゃいけないので、自分以外の主人公を作るのはかなり難しい。

――なるほど。なかなか先の話になりそうですが、もし小説を書くとしたら、どういうジャンルでいきましょうか?

竹下 やっぱり恋愛小説ですかね。

――意外です! 確かにプロレスラーが書く恋愛小説は今までなかったかもしれません。

竹下 胸キュン大事ですからねぇ。

――もし本気で書きたくなったら、ぜひサイゾーにご一報ください。では最後に、読者に向けて本の宣伝をお願いします。

竹下 普段あんまり本を読まない人にも、読書の入り口として読みやすい一冊になっていると思います。理想を言うと、小学生や中学生の人にも届いてほしいなと思います。別にプロレスラーになりたい子じゃなくても、夢の叶え方というとちょっと大げさですけど、目標の達成の仕方みたいなもののヒントになれるんじゃないかと。

 やっぱりこれだけ本が好きな僕が初めて出せた本なんで、愛情はたくさんこもってると思います。編集者さんたちも細かいところまで本当に頑張ってくれたし、ぜひ手にとって読んでもらえたらうれしいです。

(インタビュー・構成=竹田磨央)

竹下幸之介・ファーストフォトエッセイ
『ALONE -孤高の挑戦-』(KADOKAWA)

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■竹下幸之介(たけした・こうのすけ) 

1995年5月29日、大阪府大阪市西成区生まれ。プロレスラー。日本体育大学卒業。卒業論文のテーマは「ジャーマンスープレックスのバイオメカニクス」。12年DDT日本武道館大会でプロレスラーデビュー。現在はDDT、AEW、新日本プロレスの三団体に所属。著書に『ALONE -孤高の挑戦-』(KADOKAWA)。

竹田磨央

編集者・ライター。編集担当書籍に『HiGH&LOW THE FAN BOOK』(サイゾー)など。『日刊サイゾー』『QJWeb』『Forbes JAPAN』等で編集・執筆を担当。

最終更新:2025/06/03 13:00