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映画『国宝』は横浜流星に注目!“イケメン枠”脱皮のヒストリー 識者が期待する「下半身」と「嫉妬顔」

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横浜流星(写真:Getty Imagesより)

 6月6日、上半期最注目の邦画ともいえる『国宝』(李相日監督)が公開される。本作は作家・吉田修一氏が3年間、歌舞伎の楽屋に入っていた経験から生まれた同名小説を原作に “歌舞伎の裏側”を描いた意欲作。その出来は、カンヌ国際映画祭で6分間ものスタンディングオベーションを受けたほどだ。

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 主役となる稀代の女形・立花喜久雄を演じるのは吉沢亮(31)。ライバルである上方歌舞伎の名門の御曹司・大垣俊介役には、現在NHK大河ドラマ『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』で主演を務める横浜流星(28)が起用された。共演陣も渡辺謙(65)、高畑充希(33)、寺島しのぶ(52)ら豪華俳優陣が勢揃いすることも話題だが、なかでも注目したいのは流星だ。

 というのも流星はもともとスターダストの男性タレント集団・EBiDANに所属し、メンズモデルとしても活躍した。“イケメン枠”として女性人気を獲得したイメージが強いが、近年は骨太な社会派作品で存在感を示し、男性からの支持を含め、着実にファン層を広げている。

『オオカミ少女と黒王子』(2016)、『虹色デイズ』(2018)、ドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS系、2019)など少女漫画原作の実写に多く出演していた流星の転機となったのは『流浪の月』(2022)。それからの流星について「悪役、ヴィランの“悦び”といった独特な方向で光を放つ」というドラマ評論家の吉田潮氏が、『ヴィレッジ』(2023)、『正体』(2024)と深みが増していく横浜の “ヴィラン”風味を振り返る。

『流浪の月』(2022)“寸止めの殺意”、本能から迫りくる狂気を見せた「転機」

【凪良ゆう氏の同名小説が原作で、李相日氏と流星の初タッグ作品。19歳の大学生・文(松坂桃李)は、雨が降る公園で家に帰りたくない10歳の少女・更紗(広瀬すず)と出会い、自宅で共同生活を開始。互いに心を許すが、ある日文は誘拐犯として逮捕される。社会的に“加害者”と“被害者”となった2人は15年後偶然再会し、止まっていた運命が一気に動き始め……。流星は支配欲をむき出しにする更紗のDV彼氏・亮役を演じた】

――流星の役どころは表向きはエリート社員。裏では、更紗への愛情が嫉妬と束縛へ変わるDV彼氏という2面性がありました。

吉田氏(以下吉田):陽キャで「正しさ」のある役が多かった流星が、初めて負の感情をむき出しにし、ダークな一面を見せた。この作品で、「こんな顔もできるんだ」と驚いた人は多かったのでは。

——印象的だったシーン、演技は。

吉田:亮は、社会の代弁者なんですよね。更紗を「かわいそうな被害者」として扱うエゴイズムは、それこそが世間の目であることを視聴者に突きつける。同時に嫉妬により暴力をふるい、支配欲が全面に出る。

 流星は深層に潜む負の感情を、肉体すべてを使って具現化するバランス感覚が絶妙なんだと思います。たとえばDVシーン。いくらでも暴力的になれるのに、狂ったようにクッションで叩くだけにとどめる。でも、その投げつけ方に憎しみが本当に宿る炎を感じるんですよね。体にキレがあるから、本能から迫りくる狂気があふれ、芯を食った感情を揺さぶるんだと思います。

——そんな亮が、最後は更紗の目の前で自身の腹を刺して救急車で運ばれながらも「もう、いいから」と更紗を解放する瞬間がありました。

吉田:狂気の気配を一切消し、自分自身が世間に踊らされていたことをにおわせるシーンでした。流星は空手経験者だからか、動物的な動きに無駄がなく、殺す寸前の闘志と、“敗北”を自覚したときの気配の消し方に美しさがあるように思えます。

※中学3年生の時には極真空手の国際大会で優勝し、世界一になった経歴もある。

『ヴィレッジ』(2023)観る人を引きずり込む、絶望の闇から光のグラデーション

【能の演目『邯鄲』にインスパイアされたサスペンス映画。監督は藤井道人。舞台は山あいの小さな集落・霞門村。山の上には巨大なゴミの最終処分場があり、流星演じる主人公・片山優はその職員。実の父が殺人犯、母の借金苦という希望のない生活を送るなか、幼馴染の美咲(黒木華)が帰ってきたことで、優の人生に光が灯るように見えるが……。同調圧力の強い閉鎖的な村の闇と光を描き、流星の見せた演技の振り幅が評判になった】

吉田:絶望している人の役って、実は難しい。ただ黙って雰囲気を暗くするだけではだめで、目の光を失わされるわけで。その、自ら失うんじゃなくて、どうしようもない力によって“失わされる”という違いを、流星は演じ分けられる。

 黄色い歓声を浴びたことがある人って、真の仄暗さを目に宿らせるのが難しいと思うんだけど、この時の流星の瞳は、底知れぬ穴に視聴者を吸い込むような闇深さがあった。

 途中、美咲によって“闇”から村のPR役として光が当たるようになり、地面ばかり見つめていた目線も上向いていく。でも、かたや医療廃棄物の違法処分に加担していて、グレーな一面も併せ持つ。

 日本社会の閉鎖的なリアルと表面的なにこやかさを行ったり来たりする、複雑な多面性がある役でしたが、流星はその瞬間瞬間の切り替えが自然で、グラデーションのある感情を表現するのがうまい。

――終盤、村長(古田新太)が、優に「村を守るためには犠牲が必要」と、父の犯した殺人事件の真相を告げる。それを聞いた優の爆発っぷりも圧巻でした。

吉田:最終的には怒りと憎しみのままに暴走する。絶望から暴走までの人間の心の多彩さを、繊細に演じ分けた。私が、流星が覚醒したなと思った作品です。

『正体』(2024)5つの顔を演じ分けた「透明さ」が秘める“得体の知れなさ”

【ミステリ作家・染井為人氏の同名小説の映画化。監督は流星とのタッグ3度目の藤井道人。流星は一家惨殺事件を起こし、死刑判決を受けるも刑務所から脱走し、真相解明に奔走する青年・鏑木役。名を変え、容姿を変え、職を転々としながら逃亡を続ける鏑木の“5つの顔”を見事に演じ分け、第48回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した】

吉田:正体がバレそうになったときに豹変してトンズラする姿や、時折感情の揺らぎをみせるギャップの切り替えが素晴らしかった。生来の運動能力はもちろん、俳優としての動体視力がいいんだと思いますね。

「捕まったら死刑」というのは、格闘でいう「負けたら終了」に通じるものもある。計画性とスリルを感じさせるギリギリの戦い方に、視聴者は釘付けになるんだと思います。

『国宝』 歌舞伎役者・女形という新たな飛躍への期待感

――『国宝』で、流星の期待できそうな部分は?

吉田:ズバリ下半身です。

――下半身!?

吉田:歌舞伎含め日本の伝統芸能は常に中腰で演じるので、足腰が大事。流星は『べらぼう』でも和装なのにしゅたたたって走ったりして、所作が美しいんです。低い重心でなめらかに動ける人だと思うので、まず動きには期待できそうです。

 演技面では、やはり「負」の感情、ライバルへの「嫉妬」をどう表現するかに注目したい。流星って、“透明”な感じがするんですよね。芯がありつつ目の前のものを受け止めて、いろんな色を見せてくれる。そうそう、私は流星のまつ毛が好きなんですよ。目力が幅をもってきたなと。女形の目にも注目したいと思います!

『かくかくしかじか』、「泣いた」

(聞き手/吉河未布 構成・文/町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/06/06 22:00