岐阜のご当地映画『怪獣ヤロウ!』NY進出の快挙 八木順一朗監督インタビュー&映画紹介人が解説する「世界に通用する魅力」

岐阜県関市のご当地映画『怪獣ヤロウ!』(1月31日全国公開)がじわじわと話題を呼び、ついに世界に羽ばたくという快進撃を飛ばしている。
主人公・山田を演じたのは、かつて街頭インタビューにて「バキバキ童貞です」とコメントしたことで“バキ童”というニックネームがつき、一躍有名となったお笑いコンビ・春とヒコーキのぐんぴぃ(35)。関市役所に勤務する冴えない青年・山田がご当地映画の撮影を任命され、紆余曲折とともに少年時代に封印した怪獣映画への情熱を爆発させる物語だ。
地元愛と怪獣愛が詰まった本作は、人口約8.3万人という小さな市のご当地映画ながら海を越え、独フランクフルトで開催された日本映画祭『ニッポン・コネクション』にて観客賞を受賞。7月には米ニューヨークで開かれる日本映画祭『ジャパン・カッツ』への出品も決まった。
監督を務めたのは、関市出身で春とヒコーキのマネージャーも担当する八木順一朗氏。欧米が注目するという、“ご当地映画”の概念を覆す変革と真意について話を聞いた。
岐阜と何の関係もない、ぐんぴぃが主演だったワケ

──ドイツでの反応はいかがでしたか。
八木:凄かったです! 大爆発やぐんぴぃが裸になる場面では拍手笑いも起きて。感情表現がオープンなので、楽しんでもらえていることがダイレクトに伝わってきて、嬉しかったですね。
──最初から海外進出を狙っていたのでしょうか。
八木:まさか、全然です。ただご当地映画って、地元だけが満足する作品では本質的に作る意味がない。映画として単純に面白く、全国で見てもらえるものにしたいという思いはありました。とはいえ、想像以上の反響で。
──ぐんぴぃさんを主演に起用した理由は?
八木:ぐんぴぃの魅力をもっと広めたかったんです。実はお芝居が上手だし、単純にキャラクターとしてもかわいい。僕は前から「ぐんぴぃ=ちいかわ」論を唱えているんですけど、かわいいものが頑張っていると応援したくなるじゃないですか。映画として、頑張っている主人公を応援したくなるというのは大事な要素だと思うので、是非にと。
──「ちいかわ」ですか。監督が思うぐんぴぃさんの“かわいさ”とは……?
八木:表情や仕草など、子供っぽさが残っている感じが。彼の無垢、無邪気な雰囲気が大好きなんですよ、僕。
──終盤では、パンツ一丁のぐんぴぃさんが「怪獣」として大暴れします。あのアイデアにはどういう意味が?
八木:ぐんぴぃは、あのぽっちゃりとしたフォルムの体も“武器”。新作映画の使命は「誰も見たことがない映像を届ける」ことだと思うんですけど、ああいう裸の男が暴れ回る映像って、なかなかないじゃないですか。
ぐんぴぃの豊満な体がスローモーションで揺れる画は、着ぐるみ怪獣映画の特徴の一つでもある、重力で皮膚がたるんだり筋肉が動いたりする画ともシンクロする。そこで思い切って裸で暴れてもらいました。どこにもいない、唯一無二の怪獣です。

『怪獣ヤロウ!』が問いかける“夢”と“故郷”
──物語は、監督自身の経験がベースだとか。本作を通して、最も伝えたい思いは。
八木:「何歳になっても夢は叶えられる」ということに尽きます。子供の頃に見た夢って、成長とともに頭の隅に追いやったり、諦める理由をくっつけたりしていく。僕自身も一度は映画監督の夢を“保留”にしましたが、アクションを起こせば夢が歩き出すことを実感しました。
……僕は、夢には“人格”があると思っていて。
──人格?
八木:作中で、空中にプカプカ浮かぶ肉の塊みたいなものが登場しますが、あれは夢の化身なんです。夢は時間とともに育っていくものでも、腐っていくものでもある。山田は子供の頃、手作りの映画を上映して笑われた経験から、そのまま夢を閉じ込めていたので、腐って醜い形になっていたわけです。
――でも山田は、今度は映画を上映して「笑わせる」側になりました。笑った他者を見返したかったのか、自分の夢へのリベンジだったのか。
八木:他者へのリベンジと自分へのリベンジと、どっちもありますけど、やっぱり自分に対してはでかいと思いますね。
僕も中学生の頃、「いまだに怪獣好きなのかよ」と笑われたものです。それでも諦められず、心のどこかで夢が息をしていたんですよね。昔の自分に会えたら、頑張って続けていればきっといいことがあるから、好きなものを好きでい続けてくれと願いますね。

小さなご当地映画が、海外の“日本文化”紹介枠で注目される理由
『シン・ウルトラマン』(2022年)や『ゴジラ-1.0』(23年)など、特撮映画が次々と供給される日本人にとっては、本作を「怪獣映画」だと思って見ると物足りなさを感じるかもしれないが、欧米の“日本文化”紹介枠でピックアップされる秘密は何か。
豊富な知識と鋭い切り口の映画評が支持を得る映画紹介人/お笑いコンビ・ジャガモンドの斉藤正伸さんは、「そもそも“怪獣”は、日本ならではの特殊な文化」だと指摘しつつ、本作ならではの魅力を語る。
「海外では、怪獣は元々ドラゴンや吸血鬼などと一緒くたに“Monster”と呼ばれていたのですが、『パシフィック・リム』(2013)監督のギレルモ・デル・トロが“Kaiju”と呼んだことで日本独自の文化として認知されました。侍、忍者、天ぷらといった“日本ならではのもの”の並びに怪獣がある。そのうえで、怪獣の精神性をちゃんと映像化しているのが『怪獣ヤロウ!』なんです」(斉藤さん、以下「」内同)
日本ならではの“怪獣”、および“怪獣の精神性”とは?
「海外では、怪獣は人を襲う“脅威”として描かれることが多いんですよね。特撮の怪獣を、感情を有する“生き物”として見立てられるのは日本人の特殊能力なんです。日常、常識を覆す姿に感情移入して応援したくなるのが怪獣。本作は山田が街をぶち壊しながら“常識”も壊していく姿が、怪獣そのものというわけです」

斉藤さんは本作を「怪獣映画というより“怪獣についての映画”であり、主人公が奮闘する“お仕事映画”」と定義づける。
「怪獣映画というと特撮で人類との対峙を描くイメージだけど、本作は『怪獣とは“怒り”である』と概念的に捉えていて、自分が胸の内に抱えている怪獣の正体に向き合っている映画だなと。だから、怪獣自体の映画ではなく『怪獣についての映画』。とはいえ最後はまさに怪獣映画的な大暴れシーンもあって、監督ならではの“怪獣”を映画としてきちんと昇華させたなと思いました」
「夢」が本作のキーワードだが、それは「呪い」でもある。
「今回はある種“夢を叶えた”けど、夢は呪いとニアリーイコールでもあって。夢を実現したことが山田を幸せにしたかどうかは答えがないし、続編が匂わせられているということは、呪いは解かれないままだという気もする。僕も映画監督を諦めて芸人になったんですけど、10年経って、結局今映画の仕事をしているのは、結局最初に好きだったものにとり憑かれているというか。呪いの解き方がもうわからないんですよね」
夢には人格があり、人生の時間とともにその寄り添い方も変わっていく。いつしか遠くにやった自分の夢の声をもう一度聴かせてくれる本作が、言語や文化を超えてどこまで人々を熱くさせるのか、楽しみにしたい。
『怪獣ヤロウ!』
2024年製作/80分/配給:彩プロ
劇場公開日:2025年1月31日
監督、脚本:八木順一朗
製作総指揮:太田光代
出演:ぐんぴぃ、菅井友香、手塚とおる、三戸なつめ、平山浩行、田中要次、麿赤兒、清水ミチコ、武井壮ほか
https://www.kaijuyaro.com/
Prime Videoにて独占配信中
(C)チーム「怪獣ヤロウ」
(取材・文/町田シブヤ)