“原政権の遺産”か“阿部巨人”の創造か? 阿部慎之助監督が本当に評価されるべき時期とは

2024年、読売ジャイアンツはひとつの大きな転換点を迎えた。
長きにわたり球団を率いてきた原辰徳氏が前年に退任し、その後継としてチームの象徴ともいえる阿部慎之助氏が監督に就任したのだ。
現役時代、名捕手として数々の修羅場をくぐり抜け、主将としてもチームを支えた阿部氏。その経験値と求心力に、多くのファンは希望を託した。
継承の1年と、準備された“阿部色”
だが、新体制への期待が膨らむ一方で、冷静に2024年シーズンの戦いぶりを振り返れば、その実態は“新しさ”よりも“継承”が色濃く出た一年だったと言える。
チームの骨格を成すのは、原政権時代に育成・起用された選手たちだ。坂本勇人、岡本和真、大城卓三、戸郷翔征、大勢……。彼らは原監督の下で主力として地位を確立し、チームの屋台骨を支えてきた。さらには門脇誠、赤星優志、山﨑伊織、トレードで移籍したものの秋広優人といった若手も、原政権末期にその才能を見出され、一軍の舞台に引き上げられていた。
つまり、2024年に見られたチームの躍進は、阿部監督のチームというより、原政権が積み上げてきたものの“収穫期”であった。優勝争いに加わっていたチームの姿は、確かに華やかだった。だが、それは原監督が撒いた種が花開いたシーズンだったとも言える。
もっとも、阿部氏の色がまったく出ていなかったわけではない。就任直後からディフェンス力を意識した手堅い野球で勝ち星をもぎ取っていた。その結果、昨シーズンは岡本、吉川尚輝、坂本、門脇の鉄壁な内野陣はもちろん、岸田行倫、小林誠司、大城の捕手運用がハマり、リーグ優勝を成し遂げたのだ。
岡本離脱と“構築の年”としての2025年
そして迎えた2025年。チームはついに、真に“阿部慎之助のチーム”になっていくための、試練の扉を開けることになる。
5月、巨人の主砲・岡本和真が左肘の靱帯損傷により長期離脱することになった。主砲の離脱がチームのバランスを大きく崩した。
中軸に絶対的な安定感をもたらしていた岡本の離脱は、単に一選手の不在にとどまらず、チームの精神的支柱を失うことでもあった。打線は急激に迫力を失い、得点力も目に見えて低下していく。
阿部氏は若手選手を積極的に中軸へ配置し、泉口友汰が一気に台頭したものの、昨シーズンチームを支えた吉川は岡本不在の重圧で調子を落とし、浅野や門脇らの台頭を模索するが、いずれも荷が重く、流れを変えるまでには至っていない。
岡本が抜けたことで、他の選手にも過剰な負荷がかかった。結果としてチーム全体が縮こまり、じりじりと順位を落とし、交流戦は負け越した。
このままいくと、「やはり原監督の遺産がなければ勝てない」「阿部には荷が重かった」といった短絡的な評価が出始めている。継承者としてではなく、構築者として、阿部氏が自らのビジョンと覚悟でチームを動かし始めた1年。岡本の不在という最悪の事態は、言い換えれば「誰にチームを預けるか」「誰を主軸に据えて再起動するか」を迫る絶好の機会でもある。
目に見える成果は少なかったかもしれない。また、岡本自身今年オフにメジャー挑戦の噂もあるため、来年も同じ状況になることが想定される。しかし、このシーズンを経たからこそ、今シーズン以降に本当の意味での「阿部慎之助の野球」が問われるステージに立てるのだ。
そして、今後がより、すべてが“阿部体制”の責任で評価されるフェーズとなるだろう。もはや“原政権の遺産”を使い切り、“継承者”から“創造者”へと歩む段階に入った今、阿部慎之助の本当の勝負は、むしろこれから始まるのだ。
(文=ゴジキ)