人気声優・山寺宏一が語る『ルパン三世』、声優業、そして人工知能(AI)について

人気アニメのキャラクター、洋画の吹き替え、ナレーター、ドラマやバラエティーへの出演……。声優・山寺宏一の声を聞かない日はないのではないだろうか。そう思わせるほどの売れっ子ぶりだ。40年ものキャリアを誇りながらも、「やまちゃん」の愛称で共演者やスタッフ、ファンから広く愛され続けている。
出演作は多岐にわたるが、アニメシリーズ『ルパン三世』は代表作のひとつと言っていいだろう。2011年から二代目・銭形警部を演じ、現在は銭形警部を主人公にした新作アニメ『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』がPrime Videoほかにて配信中だ。さらに6月27日からは2Dアニメとしては約30年ぶりとなる劇場アニメ『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』の公開がスタートしている。
サイゾーオンライン初登場となる山寺に、『ルパン三世』のこと、声優業のこと、そしてエンタメの世界にも浸透しつつある人工知能(AI)について語ってもらった。

銭形を主人公にしたハードボイルドな新作
――爆破テロを重ねる偽ルパンと銭形が対決する『銭形と2人のルパン』は、原点回帰したような面白さがあります。偽ルパンの正体がよく分からない、危険な魅力を感じます。
山寺 かなり大人向きの内容ですね。小池健監督の「LUPIN THE IIIRD」シリーズは、『次元大介の墓標』(2014年)、『血煙の石川五ェ門』(2017年)、『峰不二子の嘘』(2019年)が作られてきました。「銭形はまだかな? ルパンファミリーしかないのかな」とずっと待ち続け、2021年にようやく今回の収録があったんです。なかなかお披露目されず心配していたので、よかった。「ありがとうございます」というのが今の気持ちですね。
――銭形警部がタイトルを飾る主演作となっていますが、意識の違いなどはありました?
山寺 作品を録っているときは、「自分が主人公」ということはあまり関係ありませんね。もちろん、今回は出番が多かったのでうれしかったですよ。収録の際の意気込みは、いつもと同じように常に緊張感を持って挑むということ。監督を中心に作っていく作品の中の銭形をしっかり演じて、視聴者にちゃんと届けようということだけです。
――小池監督の「LUPIN THE IIIRD」シリーズは、ルパンたちの若き日を描いています。今回の銭形警部はまだ国際警察(インターポール)ではなく、警視庁所属の刑事という設定です。
山寺 そうなんです。銭形は警視庁の公安刑事という立場なんです。ルパンとのいつもの関係性になる前を描いているというふうに観ることもできます。でも、銭形やルパンがそう若いかと言えばそうでもない。観る人によって、いろんな楽しみ方できるようになっています。作り手によって、いろんなルパンを描くことができるのが、モンキー・パンチ先生が生み出した『ルパン三世』の面白さでもあると思うんです。今回の銭形は「青さ」はそれほど意識していませんが、正義感の強さはより感じられると思います。悪に向かっていく真っ直ぐさ、職務に対する誠実さ、それに執念深さが色濃く出ていると思います。

魅力的な敵役、危険な偽ルパン
――本物のルパン(CV:栗田貫一)と偽ルパン(CV:堀内賢雄)、2人のルパンと銭形とのやり取りが見ものです。
山寺 最初、銭形は偽ルパンのことをよく分かっていなかったんです。ルパンのことは自分なりに分かっていたつもりだったのに、そこに顔がまったく同じ偽ルパンが登場する。ルパンなりの犯罪美学を理解しつつあった銭形は、振り回されることになる。収録時は、偽ルパンを堀内賢雄さんが演じることを知らなかったんです。「誰がやるんだろう?」と思っていました。もしかして栗田さんが二役を演じ分けるのかな? 他の人が栗田さんのモノマネをするのかな? いずれにしても大変だなぁ……と。録り終わってから、偽ルパンは賢雄さんだと知りました。でも、完成した作品を観ても、最初は賢雄さんの声だと分からなかった。「あれ、賢雄さん外されたのかな?」と思ったくらいです。僕の知らない賢雄さんの声だった。
――共演の多かった堀内賢雄さんの声だと気づかなかった。
山寺 そうなんです。そのくらい不気味で、怖い偽ルパンでした。しかも、ナチュラルだしね。賢雄さんの偽ルパンの声を聞いて、「あぁ、こんな作品だったんだ」と気づかされたんです。偽ルパン、本当にやべぇヤツだなと。
――2人のルパンが登場しますが、どっちが本当のルパンなのか分からないところも本来の『ルパン三世』ぽいなと思いました。
山寺 偽ルパンの正体については言及されないんです。まだ多くの謎が残されている。小池監督の「LUPIN THE IIIRD」シリーズは劇場版『不死身の血族』で完結するはずなんですが、すべての謎が回収されるのか、それとも今後に続くのか。小池監督か浄園祐プロデューサーに聞かないと分からないし、聞いても分からないかもしれない(笑)。小池監督の壮大な「LUPIN THE IIIRD」の世界においても、偽ルパンは不思議なキャラクターだなと思います。やっぱり敵役は魅力的でないとね。
――2Dアニメとしては約30年ぶりとなる劇場公開作『不死身の血族』も公開されます。
山寺 完全新作の2D版としては久々ですが、山崎貴監督が撮った3D版『ルパン三世 THE FIRST』(2019年)などもあったので、そう久しぶりだなとは感じていないんです。でも、テレビや配信と違って、宣伝をがんばらないとお客さんに劇場に足を運んでもらえないということはありますよね(笑)。やっぱり大きなスクリーンで、ファンのみなさんに楽しんでもらえるのはうれしいですよ。

栗田ルパンとは週1で飲みに行く関係
――アニメ『ルパン三世』は1971年に始まり、50年以上にわたって新作が制作され続けています。『ルパン三世』の魅力をどう感じていますか?
山寺 僕が10歳のときにテレビシリーズが始まった。原作コミックはそれよりも早い(1967年から連載開始)。それがいまだにシリーズ化され、新しい展開が次々と生み出されている。スタッフの努力もあり、応援してくれているファンもいるからだし、やはり抜群に面白いキャラクターと世界観を生み出したモンキー・パンチ先生のすごさですよね。古びることなく、いろんな監督たちがそれぞれの演出で、新しいルパンを登場させている。僕が参加するようになってからも、フランス、イタリア、イギリス、架空の国など、いろんな舞台でワールドワイルドに多彩なシリーズが作られています。どんな設定でも、ルパンはルパンなんだというところが面白さじゃないですか。
――ルパンたちは普段は一匹狼だけど、大仕事のときに集結するというのがテレビアニメ第1シリーズ(ルパン三世 PART1)の基本設定でした。プロフェッショナルたちが収録の際に集まるという声優業にも通じるものを感じます。
山寺 確かに、それはあるかもしれない。普段はそれぞれ別々に活動してて、『ルパン三世』のときだけみんな集まるわけですよね。ルパンファミリーに僕らは近いものがあるかもしれない(笑)。初代ルパンの山田康雄さん、初代銭形の納谷悟朗さんらレジェンド俳優たちはどんな関係性だったんでしょうね。山田さん、納谷さんは同じ劇団「テアトルエコー」だったけど、どんな付き合いをしていたのか、気になります。テレビシリーズの収録のときは、僕は栗田さんと毎週飲みに行ってました。堀内賢雄さんとはデビュー時から共演することが多く、週2~3回ペースで一緒に飲んでました(笑)。でも、それぞれが声優としての技を磨き、アフレコの際に磨いた技をドンと披露するという雰囲気は今もあります。それぞれが活躍しているから面白いし、それぞれのキャラクターが独自の美学、信念を持っているところも『ルパン三世』の魅力でしょう。
――コンプライアンスやポリコレがうるさい現代社会だからこそ、アウトローであるルパン三世たちに魅了されるのかもしれません。
山寺 モンキー・パンチ先生の描いたキャラクターたちは、ルールに縛られずに自由な生き方を貫いていますからね。今の時代、ここまでぶっ飛んだキャラクターはそういないでしょう。小池監督がその世界観を、さらに際立たせているわけです。

自分の弱点を武器に変える
――声優業についてもお尋ねします。『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)では名犬チーズだけでなく、カバ夫、ジャムおじさんなど多くの役を演じ分けている山寺さんですが、いろんな声を出せることがコンプレックスだった時期もあったそうですね。
山寺 僕の声は特徴的でもないし、美声でもないんです。子どものころからいろんな声を出すことを面白がってやっていたんですが、声優としてのハマり役はなかった。それは僕の弱点でしたが、声優の世界で生き残っていくためにはその弱点を武器にしていくしかないと考え、追求するようにしたんです。
――初代ルパン役の山田康雄さん、銭形役の納谷悟朗さんらは個性的な声の持ち主でした。
山寺 山田康雄さんや納谷悟朗さんは演技の幅も広かったと思うんです。いろんな役を演じられる俳優だったからこそ、ルパンや銭形を魅力的に演じられたんじゃないかな。豊かな表現力ができることが、声優にいちばん求められていることだと僕は思っています。『ルパン三世』の銭形みたいなメインキャラの場合は物語を引っ張っていく立場にありますが、ちょこっとした役の場合は自分の中で細工して作った声で演じることもありました。でも、あるとき「山寺はキャラを全部作っている。何かしっくりこない」と指摘されたことがあり、「あぁ、負けたな」と思いました。銭形は納谷さんに合わせたダミ声にしたんですが、そのことにも悩みました。スタッフから「納谷さんの声に寄せてほしい」と言われていたんですが、それは本来の僕の声ではないわけです。お断りしようかとも考えたんですが、他の声優が演じているのを聞くのももどかしいし、僕に決まったからにはしっかりやろうと思いましたけど、自分の中でせめぎ合いはありました。納谷さんとあまり違わないと思われたい、でも無理に声を作っているとは思われたくないと。『峰不二子という女』(2012年)からハードボイルドタッチになって、「コメディチックなのはなしでやってください」と言われてから、ようやく開き直ることができました。自分のやり方でいいんだと思えるようになったんです。
――最近ではNHKのニュースをAI(人工知能)による音声合成が伝えるようになりました。AIの普及によって、声優の世界はどうなっていくと思いますか?
山寺 非常に難しい問題ですね。少し前までは、AIが我々を超える表現を持つにはかなりの時間がかかるだろうと思われていたから、自分が仕事をしている間は大丈夫かなとタカを括っていたんです。でも、日常生活でも自分が分からないことは、AIに尋ねたりするようになったでしょ? 想像以上にAIは現実世界に浸透している。声優業界の組合では、声優の声を無断でAIに使うことには反対しています。でも、エンターテイメントの世界で、AIの使用は全部ダメとはもう言えないのかなとも感じています。
――AIと人間が共存する時代が来ていると。
山寺 膨大な量のある本を読み上げるなんて作業は、AIなら嫌がらずにやってくれるわけです。AIに任せたほうが便利なことはあると思います。でも、芝居そのものをAIがやるようになるのは、まだ難しいでしょうね。人の心を動かす、みんなを感動させるということは、すごく難しいことです。とは言っても、観る側と使う側が何を求めているかという問題もあります。下手な芝居をしていたら、「そのくらいの演技なら、AIのほうが安いし、文句も言わないからいいよ」と言われかねません。他人事ではないですね。僕もまだまだ精進しないといけないなと思います。
(取材・文=長野辰次)
配信アニメ『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』
原作/モンキー・パンチ 監督/小池健 脚本/高橋悠也
音楽/ジェイムス下地 クリエイティブ・アドバイザー/石井克人
キャスト/栗田貫一、大塚明夫、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一、堀内賢雄
Prime Videoほかにて配信中
原作:モンキー・パンチ ©TMS
https://www.lupin-3rd.net/zenigata-twolupins/
劇場アニメ『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』
原作/モンキー・パンチ 監督/小池健 脚本/高橋悠也
音楽/ジェイムス下地 クリエイティブ・アドバイザー/石井克人
キャスト/栗田貫一、大塚明夫、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一、片岡愛之助、森川葵、空気階段
配給/TOHO NEXT 6月27日より全国公開中
https://lupinthe3rd.com/
山寺宏一(やまでら・こういち)
1961年宮城県塩竈市生まれ。東北学院大学時代は落語研究会に所属。俳優、タレント、ナレーター、ラジオDJなど幅広いジャンルで活躍。2011年に放映されたTVスペシャル『ルパン三世 血の刻印』(日本テレビ系)から銭形警部を演じている他、『新世紀エヴァンゲリオン』の加持リョウジや『カウボーイビバップ』のスパイク、またジム・キャリー、ウィル・スミス、エディ・マフィーなど洋画の吹き替えでも知られている。