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年齢と登板スケジュールに苦しむ最中ドジャースへのトレード説も浮上中!? 菅野智之の挑戦から考える「MLB適応の条件」

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ボルチモア・オリオールズで活躍する菅野智之(写真:Getty Images)

長年、巨人のエースとして活躍してきた菅野智之が、キャリアの集大成として選んだメジャーリーグという舞台。

その挑戦は、単なる移籍劇ではなく、日米の野球文化や環境の違いにどう適応するかという“本質的な課題”に向き合う試みでもある。

彼の投球スタイルは、NPBで通用する完成された技術であると同時に、MLBという異質な環境において新たな可能性を模索する素材にもなり得る。

“原政権の遺産”か“阿部巨人”の創造か?

投球スタイルの進化とメジャーでの展望

 かつての菅野は、スライダーを中心に組み立てるタイプであり、フォークを中心としたタイプではなかった。コースの出し入れと緩急、そして打者との駆け引き、間合いをずらす技術などを駆使して打ち取る、極めて完成度の高い投球術で勝負する投手だった。

 だがここ数年、確実にスタイルを変化させてきた。特に、フォークやスプリットといった“落ちるボール”の使用頻度を高めた点は、明確な分岐点といえる。

 この変化は、MLBへの挑戦を見据えた意識の表れだったのだろう。現代のメジャーリーグでは、フォーシームとフォークを縦に使い分けることが投手の成功条件となっている。空振りを奪える球種を持ち、それを制御できるかどうかが、通用するか否かを分ける。そうした意味で、菅野の投球スタイルは、メジャーで求められる要素を徐々に備えてきたといえる。

 NPBで長年結果を出してきた投手は、フォームやリズムに一定の完成形を持っているが、菅野はその完成度を維持しながらも、環境の変化に適応する柔軟性を併せ持っている。実際、彼の投球内容がハマる形になれば、先発ローテーションの一角として二桁勝利を収めることも現実的だ。もちろん、MLBでは相手打者の対応力も高く、一筋縄ではいかないが、それでも菅野には確かな武器と経験がある。

 特に、試合の流れを読む力や配球の組み立て、打者の狙いを逆手に取る投球センスは、メジャーでも通用し得る。球速頼みの投手とは異なり、投球術とメンタルの強さで勝負するスタイルは、一定の評価を得るはずだ。そして、何よりも大切なのは、年齢や衰えとどう向き合い、フィジカルの状態をどう維持するかという“長期戦”における戦略的な視点である。

年齢とローテーションの現実……そして適応の難しさ

 そうした前向きな展望がある一方で、厳しい現実があるのもまた事実だ。とくに問題となるのが、年齢と登板スケジュールへの適応である。菅野はすでに30代半ばに差し掛かっており、若手時代のような爆発力や柔軟な回復力には頼れない。つまり、どれだけ自分のスタイルが通用しても、身体がそれに耐えられなければ意味を成さない。

 このフィジカルにおける「耐久性」が、MLBでは非常に重要なファクターとなる。なぜなら、メジャーリーグでは中4日での登板が基本だからだ。NPBのような中6日ローテーションではない。MLBではシーズンの移動距離も長く、日程もタイトになる。そうした環境で週2回に近いペースで登板するには、コンディション管理の精度とリカバリー能力が不可欠になる。

 その適応の難しさを象徴するかのような場面が、6月9日のアスレチックス戦で表れた。この試合で菅野は、中3.5日という極端に短い間隔での登板を強いられたが、結果は5回途中4失点での降板。疲労の蓄積、身体のキレの低下、あるいは準備期間の不足がもたらした象徴的な失敗といえる。

 しかも、この試合を境に、疲れが見え始め打ち込まれる場面が目立ち始めた。15日のエンゼルス戦、21日のヤンキース戦はいずれも5回をもたずにマウンドを降りており、28日のレイズ戦は勝利投手にはなったものの、自責点7を記録した。5月まで安定していたピッチングを見せていたが、6月の月間防御率は6.20にまでなっている。

 本来の投球術であればかわし切れていた打者に対し、甘く入った球を痛打されるケースが増え、フォームも微妙に崩れがちになった。これはコンディションそのものの問題であり、単なるスランプとは異なる“年齢の壁”の表れだといえる。

 年齢を重ねた投手がMLBで生き残るには、技術だけでなく、身体を持続的に保つノウハウが求められる。栄養、休養、トレーニング、そして登板間隔の調整など、すべてを自分でコントロールしながら結果を出す必要がある。菅野のようなキャリアを重ねた投手にとって、それは精神的にも肉体的にも極めてハードな作業となる。

 それでも、彼の挑戦には意味がある。日本球界で完成された投手が、キャリア後半においてどこまで適応し、変化し続けられるか。そのリアルな記録は、今後同様の道を目指す投手たちにとって、大きな示唆を与えることになるだろう。結果以上に、“その過程”が後に続く者たちの道を照らすことになる。

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(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

X:@godziki_55

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最終更新:2025/07/03 22:00