CYZO ONLINE > カルチャーの記事一覧 > R60向けキラキラ映画『帰ってきたあぶ刑事』
『金ロー』を独自視点からチェック!【43】

東映唯一のヒット作『帰ってきたあぶ刑事』 R60向けキラキラ映画は新しい鉱脈か?

東映唯一のヒット作『帰ってきたあぶ刑事』 R60向けキラキラ映画は新しい鉱脈か?の画像1
『帰ってきた あぶない刑事』ABOOKLET Ver. [Blu-ray]

 70代になった元港署の名物刑事、タカ&ユージが大活躍する映画『帰ってきた あぶない刑事』(2024年)。舘ひろしと柴田恭兵が共演するおなじみの刑事ものです。興収は16億4千万円を記録し、昨年の東映最大のヒット作となっています。アニメと特撮もの以外のヒット作には乏しい東映にとって、手放せない人気シリーズです。

宮崎駿監督の実らなかった初恋エピソード

 オリジナルとなるTVシリーズは、1986年に日本テレビ系で放映され、視聴率20%をバンバン記録しました。1980年代~90年代に流行したトレンディードラマっぽいテイストと東映ならではのガン&カーアクションを交えた刑事ドラマで、劇場版は本作を含めて8本も制作されています。まさにバブル時代からの「生きた化石」です。

 シニア世代となった元公務員たちが横浜で大暴れするわけですが、オリジナルシリーズを知らない若い世代は高齢ドライバーによる自動車事故や「すぐにキレる老人」を想像するかもしれません。でも、そっちの「危ない」ではありません。タカ&ユージはより円熟味を増し、今まで以上に洗練されたアクションとシャレた台詞のやりとりで楽しませてくれます。

横浜で探偵事務所を開くタカ&ユージ

 前作『さらば あぶない刑事』(2016年)で港署を定年退職した鷹山敏樹(舘ひろし)と大下勇次(柴田恭兵)ですが、移住先のニュージーランドでトラブルを起こし、横浜に帰ってきます。手に職のないタカ&ユージは、横浜で新たに「T&Y探偵事務所」を開きます。

 タカ&ユージにとって初めての顧客となる彩夏(土屋太鳳)が現れ、「20年前に消息を断った母親を探してほしい」と頼みます。彩夏の母・夏子はかつて横浜のクラブで歌う人気歌手でした。タカとユージはそれぞれ夏子と交際した過去があり、もしかすると彩夏は自分の娘ではないかと思うのでした。

 彩夏の母親探しを始めたタカ&ユージの前に立ち塞がったのは、かつて横浜一帯を牛耳っていた暴力団「銀星会」の二代目会長だった前尾(柄本明)の息子・海堂巧(早乙女太一)でした。ベンチャー企業の社長となった海堂は、カジノを横浜に誘致する計画を強引に進めるのと同時に、父親を葬ったタカ&ユージへの復讐を誓います。この因縁の抗争に、彩夏も巻き込まれてしまうのです。

「おじさん転がし」がうまい土屋太鳳

 土屋太鳳のゲスト出演が、今回うまくハマりました。優等生タイプの土屋太鳳は「おじさん転がし」がうまいんですよ。物語序盤は「柴田恭平、ずいぶん痩せちゃったな」と心配だったのですが、土屋太鳳と絡み始めると芝居にテンポが生まれ、ドラマが動き始めるのが感じられます。2人でのアクションシーンでは、ユージのテーマ曲「ランニングショット」も流れます。

 物語の中盤、タカ&ユージが暮らすペントハウスの屋上で、土屋太鳳が自慢のダンスを披露すると、柴田恭兵もこれに応えます。さすがミュージカル劇団「東京キッドブラザース」出身です。

 一方、土屋太鳳との絡みは控えめの舘ひろしですが、ハーレーダビットソンのメンテナンスをする土屋太鳳を優しく後ろから見守ります。少なめの台詞で、雰囲気を醸し出すのが舘ひろしはうまいです。やはり「石原プロ」育ちだなぁと感じさせます。

老後の不安要素を省いた「第二の青春」

 これまでのシリーズは、タカ&ユージの生活臭を感じさせないのが『あぶ刑事』のスタイルでしたが、今回は警察を退職したタカ&ユージがおしゃれなマンションで共同生活を送り、しかも元カノのひとり娘を居候させ、疑似家族になっていく様子を描いています。

 ずっと独身貴族で通してきたタカ&ユージですが、結婚して子どもが生まれていたら、このくらいの年齢になっていたかも……。アクションを売りにした『あぶ刑事』ですが、8年ぶりの新作ではちょっとウェットなドラマを盛り込んでいます。『あぶ刑事』と共に年齢を重ねてきたファンの心情にもマッチしたこのストーリー、悪くはありません。

 言ってみれば『帰ってきた あぶ刑事』は、シニア向けのキラキラ青春映画だと思うんですよ。定年退職した後も、自分たちが必要とされる仕事に打ち込む。気の合う仲間とのシェア生活を満喫しつつ、港署の若い刑事・早瀬(西野七瀬)らとも交流。そして若い世代から、人生の先輩としてリスペクトされます。タカ&ユージの後輩だった町田透(仲村トオル)は、捜査課長に出世しており、先輩たちのアシストに徹します。

 老後の不安要素はいっさい省かれ、バブル時代を謳歌したR60世代のイケイケな「第二の青春」をまぶしく描いたのが『帰ってきた あぶ刑事』です。

浅野温子扮する物語のスパイス「ハマのメリーさん」

 ただシニア世代が好き勝手に暴れ回るだけだと、それこそ「危ない高齢者」になってしまうので、暴力団がフロント企業を装って一般社会に浸透していること、カジノの誘致は一部の関係者が甘い汁を吸うだけであることなど、社会問題も隠し味として加えています。

 かつて『あぶ刑事』のヒロインだった真山薫(浅野温子)は、すっかりコメディリリーフに回っています。今回はインパクトのある衣装&メイクで登場しますが、おそらく「ハマのメリーさん」をオマージュしたものでしょう。ロケ地・横浜へのこだわりを感じさせます。

 ちなみに実在したメリーさんは1990年代前半までは横浜の街頭で目撃されていましたが、その後は中国地方の老人ホームで余生を過ごしたそうです。かつての横浜は「ハマのメリーさん」を許容できた、懐の深い街だったことが分かります。タカ&ユージと、メリーさんは実に対照的な存在です。

お金も時間もあるシニア層狙いのエンタメは大鉱脈

 本作で劇場映画デビューを飾った原廣利監督は、杉咲花主演のミステリー映画『朽ちないサクラ』(2024年)でも冴えのある演出を見せています。ちなみに原廣利監督は、『あぶ刑事』のTVシリーズを撮っていた原隆仁監督の息子です。主演の舘ひろし、柴田恭兵はそのままですが、スタッフは代替わりが進み、人気シリーズのリブートに成功したわけです。

 すでに高齢化社会となっている日本ですが、エンタメ業界はどうしても若者向けの企画を考えがちです。それって、バブル時代にお金を自由に使えたのが20代~30代だったことの名残りだと思うんですよ。今の若い世代はスマホでの動画チェックに忙しいし、お金を持っていて時間もあるのはシニア層なんじゃないですか。

 制作費に10億円以上を投じた東宝映画『国宝』みたいな大作は、今の東映にはムリでしょう。7月18日の『金ロー』で放映される『侍タイムスリッパー』(2024年)も、シニア層がリピーターになってヒットを後押ししています。シニア向けのキラキラ映画の開発に、東映は今後も取り組んだほうがいいように思いますよ。

トム・クルーズ最凶スタント

(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

映画ゾンビ・バブ
最終更新:2025/07/04 17:49