【2025上半期興収ランキング】『グランメゾン・パリ』実写邦画2位 評価されるキムタクの「安心感」

2025年上半期の映画業界は、シリーズ最大規模522館で封切られ、興行収入140億円超えとなった『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』(4月18日公開)や、シリーズ8作目の『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』(5月23日公開)が公開20日で興収30億円を突破するなど、注目作が続いた。
興収ランキングでは前出『コナン』のほか『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』(興収45億円)、『はたらく細胞』(同63億円)等といったアニメや漫画原作のものが上位を占めるなか、実写オリジナル脚本での強さを見せつけたのが、2024年12月30日に全国公開された『グランメゾン・パリ』だ。
上半期興収ランキングで邦画実写2位、『グランメゾン』の強さ
本作は、これまで20本以上のドラマで主演を飾ってきた木村拓哉(52)の新たな代表作ともいえるドラマ『グランメゾン東京』(TBS系、2019年10月期)の続編。ドラマは平均世帯視聴率12.9%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)と、10%以上なら高視聴率といわれる昨今においても“キムタクパワー”は健在で、配信でもTVerの2019年10-12月期で累計1363万回再生、2位の『俺の話は長い』(日本テレビ系、1100万回)に大差で1位だった。
パリでの大規模ロケも敢行した本作は興収41.5億円を記録。上半期(6月末時点)の国内興収ランキング(国外作品含む)では6位、国内実写作品では『はたらく細胞』に次いで2位。テレビドラマの映画化としては唯一のトップ10入りを果たした。
本シリーズを牽引するのは、なんといっても主人公・尾花夏樹役の木村である。腕と舌と類まれなセンスを持つ、天才フランス料理シェフ・尾花。ドラマ版ではとある事件でパリでの座を追われ、どん底から三つ星レストラン『グランメゾン東京』をつくりあげるまでの物語が描かれた。劇場版ではその後、今度は本場フランス・パリで三つ星を得るために奮闘する姿を見せている。
木村は元来、料理に向き合う真摯さに定評があり、『グランメゾン・パリ番外編 LE MARIAGE~フランスの食文化を巡る旅~』(TBS系)では、「本当に美味いと思うものを食べた時、悔しい」と語るほど。劇中で使用した福井県の伝統工芸『越前打刃物』はオーダーしてプライベートでも使っているというから、そのこだわりは筋金入りだ。
また、尾花が異物混入問題や風評被害などに打ちのめされながらも、幾度も立ち上がり信頼を取り戻していく“リアリティ”も見どころのひとつ。数々の挫折や困難を乗り越え、悲願達成へ向けて挑む尾花に木村の姿を重ね合わせるファンも多く、Xでは
〈負け続けても挑戦を続けるキムタクからしか得られない栄養がある〉
〈徹底的に追い詰められていくキムタクが、諦めずに泥臭く立ち上がる姿が色気あってよかった!〉
など絶賛の声が相次いでいる。
なぜ、これほどまでに木村は人々を惹きつけるのか。『マルモのおきて』『コンフィデンスマンJP』(ともにフジテレビ系)など、人気テレビドラマのノベライズ版も数多く手がけてきたドラマ評論家の木俣冬氏が、木村がもつ吸引力の源を探る。
「何をやってもブレない」リズムをキープできる精神力
元SMAPの木村は、俳優としての出世作となる『あすなろ白書』(フジテレビ系、1993年)に出演して以来、『ロングバケーション』(同、1996年)や『ラブジェネレーション』(同、1997年)など数々のドラマで主演を務めては、高視聴率をマーク。
出るドラマすべてで旋風を巻き起こし、瞬間最高視聴率43.8%を記録した『ロンバケ』では“街から人が消えた”と言われたし、ドラマで着用したファッションアイテムがブームとなるなど、常に木村は社会現象の中心だった。「ちょ、待てよ」が誕生したのは『ラブジェネ』だ。
キャラクターの立った存在感の強さゆえか、「何を演じても木村拓哉」と揶揄気味に言われることもあったが、2000年代以降も人気は衰えることなく、ドラマ『教場』シリーズ(フジテレビ系)や映画『マスカレード』シリーズ(東宝)など、骨太な社会派ドラマや時代劇などへの出演も重ねながら、そのキャリアを積んできた。
好き・嫌い以上に、木村が関心の的となり続ける理由を、木俣氏は、「揺らがない『スター性』という安定感」にあると分析する。
「『何をやっても木村拓哉』と言われてしまうのは、ブレないからなのだろうと思うのです。がんとして主人公という王座に君臨できる強さは、選ばれた人しか持つことはできません。どんな時でも求められるリズムをキープできる強い精神力があるのだと思います」(木俣冬氏、以下「」内同)
そんな木村は、ブレない精神性を活かした役を多く演じている。『ロンバケ』ではシャイだが真摯でひたむきなピアニスト・瀬名秀俊を、『GOOD LUCK!!』(TBS系、2003年)では純粋で情熱溢れるパイロット・新海 元を演じた。そして、『HERO』(フジテレビ系、2001年~)で演じた検事・久利生公平は、『グランメゾン―』尾花同様の“型破り”な性格だった。
「揺らがない強靭さという特性を活かした役が多く、確たる技術やポテンシャルのもと、どんな逆境でも信念を貫く強さを持った役が似合います。『グランメゾン―』でも、自分がいいと思ったことに邁進(まいしん)する。新しい料理にも挑んでいきますが、型が破れるのは、基本ができてこそですよね。普通に実直な正義感じゃつまらなくて、斜に構えた実力派。そういう人に観客は憧れます。そして木村さんはそういう役が似合う人なのだと思います」
「料理モノ」で輝くキムタクの魅力
くわえて、料理モノというジャンルの強さが、改めて木村の魅力を引き出した。
“信念のある実力派”という役どころでいえば、木村は『HERO』のほか、『マスカレード』シリーズや『検察側の罪人』(東宝、2018年)など、刑事事件を題材とした犯罪モノにも多く出演している。そうした確固たる正義感を持つ主人公が社会の矛盾に立ち向かっていく作品は、どうしても「悲しさややり切れなさをまとう」(木俣氏)。
一方で料理モノは、料理人が“おいしいものを食べてもらいたい”という一心のもと、知恵をはたらかせ、工夫を凝らし、手を動かし……と、すべては“誰かの幸福感”につながってゆく。さらに『グランメゾン―』は、尾花から伝播する熱量が視聴者に満足度の高い後味を与える。木俣氏は、「料理モノは幸福しか感じない。料理人のかっこよさは、極上のエンターテインメントです」と、木村と料理の相性の良さに着目する。
木村×料理の歴史は長い。SMAPを国民的グループに押し上げた冠番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)内の「BISTRO SMAP」は1996年4月の放送初回から2016年の最終回まで続いた人気コーナーで、首元に赤いタイを巻いたシェフ衣装のクールな木村を記憶する人も多いだろう。
「思えば、スマスマの料理コーナーでも木村さんはいつも新しいメニューの考案に貪欲で、かつ堂々と華麗に料理をしていました。『グランメゾン―』は、その時のかっこよさを彷彿とさせるのかもしれません。木村さんは、最適な題材に出会えたのでは」
何があっても「自分」がブレることなく、幸せを届けようと奮闘する――それはもしかすると、アイドル出身である木村ならではの成し得るポジションだ。不安定な時代だからこそ、尾花とシンクロする木村の芯の通った姿は圧倒的な説得力をもって、パワーをお裾分けしてくれる。
(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)