「昭和100年」の万博イヤーに劇場版爆誕! “タローマン”藤井亮監督インタビュー
いまは亡き昭和の大芸術家・岡本太郎と特撮を掛け合わせた奇跡の怪作。深夜の5分枠から誕生したデタラメすぎる特撮ドラマ『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』が、“昭和100年”の節目を迎えたこの夏、まさかの劇場版として帰ってきた。広告業界で名を馳せた気鋭の映像作家にして、今作が商業映画デビューともなる藤井亮監督に、“タローマン”に懸ける思いを聞いた。

<プロフィール>
藤井 亮(ふじい・りょう)
1979年生まれ。愛知県出身。武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科卒。電通関西オフィスでクリエイティブディレクター、アートディレクターとして活躍後、フリーランスを経て、2020年にGOSAY studios(豪勢スタジオ)を設立。細部まで作り込まれた“でたらめでくだらない映像”を得意とする。今作でも、監督・脚本だけでなく、アニメーションやキャラクターデザイン、背景制作など多くのパートを自ら担い、独自の世界を構築している。

でたらめを維持して 物語を紡ぐ難しさ
──ファンにとっては待望の劇場版なわけですが、尺だけで考えても、1話5分×全10話のミニシリーズだったドラマ版のほぼ2倍。ドラマとはまた別の労苦があったのでは、と想像しますが…。
藤井 実験映像やミュージックビデオなんかでもそうですけど、やっぱりヘンな映像って、耐えられるのはせいぜい5分、10分。それが1時間とかになったら、たぶん誰も見ませんからね。そういう意味でも、でたらめはしっかり維持しながら、でもちゃんと観られるストーリーのあるものをつくるっていうのが、今回はすごく難しくて。つくりはじめてから、身をもって思い知らされましたよね。5分のでたらめがいかにラクだったか、っていうことに(苦笑)。
──ただでさえ、「なんだこれは♪」が頭のなかでリフレインするキテレツな世界観。監督の思い描くビジョンを落とし込んでいくだけでも、一般的な実写作品の比ではない作業量ですよね?
藤井 僕は絵コンテでつくっていくタイプなので、流れとしては、描いたそれらを紙芝居的に並べてビデオコンテにして、そこに軽く自分たちで声を入れてっていうのをまずやって、そこから撮っていくという形。ただ、自分たちで見すぎているせいもあって、やっている間はもう何がなんだかわからなくなってもきていて、本当にもう手探りで…。「ちょっとでも面白くしたい、しなきゃ」っていう思いと、「でもやりすぎると意味がわからない映像になってしまう」っていう思いのせめぎあいを、ずっとしながら作業をしていた感じですね。
──特撮シーンのつくり込みはもちろんのこと、いかにも70年代っぽいキャスティングもまた絶妙で。超能力少年の北村隊員なんて、ぽっちゃりなあのフォルムからしてもう完璧でした。
藤井 (笑)。そこは全編をアフレコにしたことで、“顔採用”に徹することができた、というのがまずひとつ。あとは、大阪制作だったっていうのも、逆によかったというのはありますね。もしこれが東京だったら、仮に「この人の顔、味があっていいな」と思っても、たいていはすでにCMやドラマに出ちゃっている。どんなに架空の70年代の映像としてつくり込んでも、そこで「なんか見たことのある映像」になってしまっては、元も子もないですからね。

──とは言え、劇場版ともなれば、予算も規模も深夜枠のドラマとは段違い。製作サイドからも「一人ぐらいは知名度のある俳優を」といった要望などもあったのでは?
藤井 実際、戦隊ヒーロー出身の若手俳優を入れたい、みたいな話も当初はあったんです。ただ、やっぱり世界観は大事にしたかったし、この作品に関しては、70年代の架空の映画ということで、とことん振り切ったほうがいいのかな、と。なのでそこは僕のほうで押し切らせてもらって、結果的にはそれもナシでいこうってところに落ちつきましたね。
──それでいて、いわゆる単館系・ミニシアターでの公開かと思いきや、TOHOシネマズなど大手シネコンでもかかる想像以上のスケール感。期待値の高さがうかがえます。
藤井 そうなんですよ。僕自身も、単館系からスタートして『カメラを止めるな!』みたいな感じで徐々に広がっていけばいいな、ぐらいに思っていたんですけど、最初からけっこうな館数で上映していただけることになり…。しかも、製作委員会に東急さんが入ってくださったおかげで、川崎の『岡本太郎美術館』にも近い田園都市線でのトレインジャックのような、作品の規模感からは考えられないPRもやっていただけて、それは本当にありがたかったですね。

敬意があればこそ ふざけるのも真剣に
──ところで、芸術分野における岡本太郎と言えば、漫画における手塚治虫、映画における黒澤明のようなビッグネーム。その存在を知れば知るほど、おいそれとは触れない、といったある種の怖さもある気がします。監督自身、そのあたりの向き合い方はどのように?
藤井 岡本太郎も特撮も、すごい本気のファンの方がいるジャンルなので、映像自体はふざけていても、あり方やつくり方に関してはいっさいふざけない、と言いますか。個々の作品なんかについても、変なイジり方をしないっていうのは、かなり気にしてやっていました。「なんちゃって」的な見え方をした瞬間に、好きな人はイラッとくると思いますし、つくる以上は、本気のファンにもちゃんと面白がってもらえるものをつくりたい。そこは常にありましたね。

──ちなみに、監督が小学生だった80年代は、仮面ライダーやウルトラマンがリアルタイムでは放送されていなかった、言わば“特撮冬の時代”でもありますよね?
藤井 スーパー戦隊シリーズや『宇宙刑事ギャバン』に始まる“メタルヒーロー”シリーズこそやっていましたけど、仮面ライダーなんかは、『仮面ライダーBLACK』が始まったときには、すでに小学校4年生。なので、ライダーやウルトラマンに関しては、動く映像では観たことがないけど、本とかソフビ人形とかを通して、その存在は知っている。当時はそんな感じでしたよね。
──しかも当時はレンタルビデオもまだ普及前。その代わりに巷にあふれていたのが、“ケイブンシャの大百科シリーズ”に代表される、でたらめな子ども向けの書籍の数々でした。
藤井 そうなんですよね。編集者がノリで書いたような文章が、さも本当のことのように書いてあるから、嘘のディティールにばかり詳しくなって…(笑)。ああいうノリを子どもながらに面白がっていたことが、いまに活かされているのは間違いないですね。
──23年に発売された『タローマンなんだこれは入門』(小学館)などはまさに、かの“大百科シリーズ”のノリ。タローマンに関しては、そもそもすべてが架空=嘘なわけですしね。
藤井 気持ちを込めてつくってはいるけど、それを「研究作品です」「アートです」みたいな大げさものじゃなく、あくまで“バカの体裁”で出す、と言うのかな。「なんかバカなことしてるな」って思われる、その“労力の無駄づかい”な感じが、自分としても気持ちいいんだと思います。
──いま振り返っても、ビックリマンシールには当たり前のように「ロッチ」の偽物が出回っていましたし、もっと遡れば胡散臭い“ガンプラ”のパチモンも我がもの顔で売られていた。法的にはアウトでも、そこには大人が放っておいても安心なでたらめさもあったような気がします。
藤井 YouTubeなんかには、いまもそういうものはあるのかもしれないけど、一方では陰謀論のような危うさとも紙一重なところもあったりしますからね。ヘンなものを売ってるおじさんがいたり、駄菓子屋に売ってる怪しいおもちゃだったり、僕らの子どもの頃にはたくさんあった、子どもが気楽に受け入れても大丈夫な、本当の意味でのでたらめ。そういうものを、このタローマンで供給できたらいいな、っていうのはありますよね。

現代にはない“70年万博”の懐の深さ
──一方、今年は「昭和100年」の節目。奇しくも太陽の塔が建つ大阪では、かの70年万博以来となる『大阪・関西万博』も開催中です。劇中でも言及されている岡本太郎の「人類は進歩なんかしていない」という言葉は、そういった世相への皮肉にも聞こえます。
藤井 「人類の進歩と調和」をコンセプトに、みんながキラキラした未来を見据えているなか、太陽の塔というアンチテーゼそのものみたいな存在が、そのド真ん中に屋根をブチ抜いて建っている。70年万博の他にはないよさ、素晴らしさって、やっぱりそこだと思うんですよね。国威発揚的な万博本来の目的からすれば、いいことをだけをどんどん見せていきたかったはずなのに、真逆の主張をしていた岡本太郎をも許容した。そこをちゃんと描きたいなっていうのはありましたね。
──マスコットのミャクミャクや、会場の大屋根リングもシンボリックではあるにせよ、「いのち輝く未来社会のデザイン」というコンセプトにはきちんと則ったものですしね。
藤井 ミャクミャクもビジュアルはすごく個性的だけど、決してアンチではないですからね。それが悪いことだとも思いませんけど、「うまくあって、きれいであって、心地よい」万博みたいになっちゃってるところはあるのかな、って気はします。「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。心地よくあってはならない」と、岡本太郎もそう言っていますから。
──では最後に、これから映画館で『大長編 タローマン 万博大爆発』と出会うであろう読者に向けて、作り手として伝えたいメッセージなどがありましたら。
藤井 でたらめでべらぼうなものを観たな、という気持ちで帰ってもらって、そのなかにちょっとだけでも、岡本太郎の言葉とかそういうものが1%でも残っていれば、僕としては満足。基本はでたらめを面白がってもらえたら、それでいいのかなって気はします。
──何度も観に行って、細部にまで凝らされたつくり込みを発見するのも楽しそうです。
藤井 細かい小ネタみたいなのは、時間の許すかぎりとにかくたくさん入れ続けたので、そういう意味でも、一度観ただけでは咀嚼できないような量にはなっているとは思います。ただ、以前発売した『タローマン・クロニクル』(2023年/玄光社)のような副読本を今後また出すことになっても、書いてある内容はおそらくぜんぶ嘘なので…。入れた小ネタについて、僕のほうから細かく解説するようなことは、今後もないと思いますけどね(笑)。
(文=鈴木長月/写真=荻原大志)

<インフォメーション>
『大長編 タローマン 万博大爆発』
2025年8月22日(金)より、全国ロードショー。現在、大ヒット公開中。
時は 1970 年。反万博集団“原始同盟”が差し向けたでたらめな奇獣の襲来に、万博会場は大パニック。CBG(地球防衛軍)は、味方の未来人と協力し、万博を守るべくでたらめな力を求めて“昭和100年”の未来へと向かうのだが…。NHK Eテレの深夜放送枠からSNSでも話題沸騰。数多の賞も受賞した、あのでたらめすぎる特撮ヒーローが、今度は映画館で大暴れ!! 傍若無人な巨人のべらぼうな活躍を、“すべての根源”岡本太郎の色褪せない数多の名言とともに、令和のいまこそ味わうべし!!
公式サイト:https://taroman-movie.asmik-ace.co.jp
X:https://x.com/eiga_taroman
出演
タローマン
太陽の塔 地底の太陽 水差し男爵 縄文人 明日の神話
/解説:山口一郎(サカナクション)
監督・脚本:藤井 亮
製作:『大長編 タローマン 万博大爆発』製作委員会
制作プロダクション:NHKエデュケーショナル 豪勢スタジオ
配給:アスミック・エース
協力:公益財団法人岡本太郎記念現代芸術振興財団
協賛:キタンクラブ 三井住友海上 アルインコ 日本建設工業