CYZO ONLINE > カルチャーの記事一覧 > 現役引退・中田翔、勝負強さと巨人での復活劇
ゴジキの野球戦術ちゃんねる

さらば悪童! 中田翔今季限りで現役引退 高校時代は“二刀流”の怪物…勝負強さと巨人での復活劇を振り返ろう

文=
さらば悪童! 中田翔今季限りで現役引退 高校時代は二刀流の怪物…勝負強さと巨人での復活劇を振り返ろうの画像1
WBC日本代表としても活躍した中田翔。(写真:Getty Images)
この記事の画像(2枚)

甲子園で「怪物」と呼ばれた高校球児たちのなかで、中田翔はまさに象徴的な存在だった。

彼のように甲子園で伝説となった選手の中には、プロで第一線に立ち続ける者もいれば、高校時代ほどの成果を残せずに去っていった者もいる。

その分岐点はどこにあるのか? 『データで読む甲子園の怪物たち』(集英社)で話題の著者が、著作とは別視点で中田翔について、高校時代からプロ入り後を振り返る。

高卒野手のスター選手はなぜ生まれるのか?

“二刀流”の萌芽と清原和博級の衝撃を与えた高校時代

 中田は度重なる怪我や不調を乗り越え、3度の打点王を獲得。さらに侍ジャパンでも中軸を任され、国際大会でチームトップの打点を稼ぐなど「勝負強さ」を証明してきた。

 高校時代に夢見た「二刀流」の道は肘の故障で断たれたものの、打者一本に絞ったことでNPBを代表するスラッガーへと成長した。甲子園で「怪物」と呼ばれたその名にふさわしく、中田はプロの世界でも存在感を放ち続けたのである。

 2005年の大阪桐蔭入学時点で「大阪桐蔭史上最高の才能」と言っていいほどのポテンシャルがあった。投手としては当時最速147km/hを計測し、1年夏から一塁手としてレギュラーに。投打ともに活躍するほどだった。

 甲子園デビュー戦では豪快なアーチを放ち、リリーフでは140km台後半のストレートとキレのあるスライダーで三振を奪い、好投を見せたのだ。甲子園という大舞台で圧倒していた中田は「スーパー1年生」と騒がれた。

 特に打撃面では「清原和博の再来」と呼ばれるほどの長打力を発揮。松坂大輔が“平成の怪物”と投手として脚光を浴びたのに対し、中田は打者として“怪物”と称された。後にプロでも活躍することを約束されたような衝撃を残し、高校通算87本塁打は当時、メディアでも大きく注目された。

 高校時代に思い描いた「投打二刀流」の夢は右肘の故障で絶たれたが、打者として唯一無二の成果を残した点で、中田翔は間違いなく“二刀流の先駆者”と呼ぶにふさわしい存在である。

 こうして中田は、「二刀流」という言葉が定着する前から、投打両方で注目され、怪物と呼ばれた存在だった。

 もし右肘を故障せず投手としての道を歩んでいたら、プロで「二刀流」として成功していた可能性もあった。しかし、打者一本に絞ったからこそ、NPBを代表するスラッガーとなり、日本ハム、巨人、中日と渡り歩き、通算300本塁打を超える大打者に成長したのだ。

「勝負強さ」の象徴──日本ハム・日本代表の主軸

 2007年ドラフトで北海道日本ハムファイターズに1位指名され入団。キャリア序盤は苦しんだものの、侍ジャパンでも4番を務めるなど国際舞台でも存在感を発揮し、名実ともに日本を代表するスラッガーへと成長した。

 若い段階で日本ハムで頭角を現し、やがて不動の4番に。特筆すべきはその勝負強さだった。キャリアでは3度の打点王を獲得。走者がいる場面での集中力は抜群で、「ここで打ってほしい」という期待に応える姿が、チームメイトやファンからの信頼を集めた。

 これはシーズンだけではなく、国際大会にも結果として現れている。2015年のプレミア12では15打点、2017年のWBCでは8打点を記録。いずれもチームトップの成績であり、しかも2017年のWBC は4番筒香嘉智の後ろを打つ5番打者としての数字だった。打撃成績そのもの以上に「打点を生み出す力」が突出していたのが中田の真骨頂である。

 具体例を挙げれば、2016年の日本シリーズ第3戦。劣勢で迎えた試合で3打点を叩き出した。特に8回、大谷翔平が敬遠された直後に放った逆転タイムリーは「意地の一打」としてファンの記憶に残る。最終的には大谷のサヨナラ打で幕を閉じたものの、この試合を勝利に繋げた原動力は中田の勝負強さだった。

 さらに2017年WBCのオランダ戦も忘れられない。大会を通して成績は際立たなかったが、この試合で中田は3回に3ランホームラン、延長11回には決勝打となる勝ち越しタイムリーを放ち、両チーム最多の5打点を記録。死闘と呼ばれたこの試合で、中田の存在は「大舞台に強い勝負師」であることを改めて証明した。

 打席に立つたびに「中田ならやってくれる」という期待感を背負っていたのは、中田が積み重ねてきた実績と勝負強さの象徴であった。

復活を告げた2022年──巨人への電撃移籍

 2021年、電撃的なトレードで巨人へ移籍した中田。当時は周囲から「かつての怪物も終わったのではないか」と冷ややかな視線を向けられることも少なくなかった。というのも、不祥事などがあり、ファンや評論家の間では復活を疑問視する声があがっていたからだ。

 しかし、中田は、そうした雑音を打ち消すように、東京ドームの大観衆を前に豪快なスイングを披露した。

 勝負強い打撃や突き刺さるようなホームランで、「やはり中田翔は特別な打者だ」という印象を一気に取り戻した。ベンチで迎える仲間の笑顔と、観客のどよめきが重なり合う光景は、巨人ファンにとっても新たな希望の象徴だった。

 中田が加わったことで打線に厚みが増し、相手投手にとっては「逃げ場のない打順」となった。特に得点圏での集中力は健在で、凡退しても「次は必ず打ってくれる」という期待感を呼び起こす存在感は、ベテランならではのものだった。

 そして2022年、ついに中田は巨人の4番に座る試合も経験する。豪快な本塁打はもちろん、勝負所での適時打など、「結果を出すための打席の作り方」を熟知した姿は、若手時代の豪快さに加えて経験値が積み重なった証でもあった。巨人打線は中田をはじめとし、岡本和真、丸佳浩、アダム・ウォーカー、グレゴリー・ポランコの「20本塁打クインテット」を結成した。

 中田が放った一打が試合の流れを変える瞬間は数多く、ファンの間では「やっぱりここぞでは中田」と口にされるようになった。巨人ファンにとっては「中田なら決めてくれる」という安心感が蘇り、かつてファイターズで見せていた勝負強さを東京ドームの舞台で再び証明し続けた。

中日での挑戦、そして引退……“もしも”と“現実”

 新天地・中日では怪我や身体の衰えなどに苦しみながらも、最後まで“勝負強さ”を武器にバットを振り抜いた。

 そして2025年、プロ18年目で現役を引退表明。通算300本を超える本塁打、複数の打点王タイトル、国際大会での実績は、“勝負強い打者”としてのキャリアを何よりも物語っている。

 大谷翔平が世界に示した「二刀流」の姿を見たとき、多くの野球ファンが「もし中田が……」と想像したに違いない。

 中田は「投打二刀流」の可能性と限界、そして打者としての頂点と圧倒的な勝負強さを体現した、怪物のひとりだった。

佐々木朗希の“現在地”

(文=ゴジキ)

さらば悪童! 中田翔今季限りで現役引退 高校時代は二刀流の怪物…勝負強さと巨人での復活劇を振り返ろうの画像2

ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

公式TikTok

公式facebook

X:@godziki_55

Instagram:@godziki_55

ゴジキ
最終更新:2025/08/21 22:00