9週連続首位『鬼滅の刃』、前作記録「12週」超えなるか 9月以降“対抗馬”となりうる作品は?

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が7月18日に全国公開されて2カ月が経ち、9週連続1位をキープしている。公開60日間で観客動員は2304万2671人、興収330億5606万6300円を突破し、国内歴代興収は『千と千尋の神隠し』の316.8億円(2001年)を抜き、2位にランクイン(興行通信社調べ)。こうなると、現在国内歴代興収1位の前作『鬼滅の刃「無限列車編」』(2020年、407.5億円)を超えるかどうかに注目が集まる。
本作は2024年6月まで放送されたテレビアニメ『柱稽古編』の続きにあたり、最終章となる『無限城編』全3部作の第1作。主人公・竈門炭治郎が所属する鬼殺隊の宿敵・鬼舞辻無惨の本拠地である無限城での最終決戦が描かれる。
物語の面白さはもとより、上下左右や重力の概念を無視して縦横無尽に動くアニメーション表現に、Xでは〈映像がめちゃくちゃリアルで浮遊感まで感じた!〉〈戦闘シーンが大迫力で見ごたえヤバい〉など絶賛の声が絶えず、複数回映画館に足を運ぶ人も多い。週末動員ランキングでは7週連続第1位(現在は9週連続1位)を記録し、8月末までの夏休み商戦の期間中に一度も首位を譲らなかった。
前作劇場版「無限列車編」は12週連続首位
前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、2020年10月16日の公開から2021年1月3日まで12週連続で1位を獲得。これは週末動員第1位の歴代連続記録で、快進撃をストップさせたのは2021年1月8日公開の『銀魂 THE FINAL』だった。しかしその翌週は『鬼滅』が再び1位へ。13週・14週も1位を獲得する強さを見せつけた。
前作が記録を伸ばした理由はコロナ禍であることが理由と目されていたが、本作はコロナ禍にかかわらず大ヒットを叩き出し、子供たちの夏休みシーズンが終わってもその勢いは衰えない。そんな本作が12週連続1位の前作超えをするとなると、9月いっぱいも独走状態ということになるが、はたして『鬼滅』に代わって“覇権”となりうる作品は現れるのか――映画評論家・前田有一氏に見立ててもらった。
メガヒット作の傾向は「話題性」と「映像美」
まず前田氏は、近年のヒット作は「ランキング上位に留まり続ける」傾向にあるという。
「映画館では、需要の高いランキング上位作が多く上映されます。すると、SNSや口コミで評判になり、『なんか話題だから見にいこう』という潜在的な観客にもリーチする。それがさらにランキングを上位に留めるキープ力となり、興収50億〜100億のメガヒットも狙えます」(前田氏、以下同)
映画『国宝』はまさにその典型例だ。そのクオリティの高さが評判を呼び、歌舞伎界という一見難しそうな題材ながら公開14週目も週末観客動員数で3位。9月7日までの興収は133億円を突破し、実写邦画で『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173.5億円、2003年)に次ぐ歴代第2位と絶好調だ。
興収面では、昨今“複数回見る”ファンの存在も大きい。それを支えるのは、高音質が特徴のIMAXや、リアルな音響設備を搭載したDolby Cinema、座席が可動する体感型のMX4Dなど、さまざまなスタイルでの上映だ。
「特に『鬼滅』のように戦闘シーンが多いアニメ作品は、今度はIMAX、次はMX4Dなど、映像を堪能したら次は立体的な音響で臨場感を味わい、その次は体感型アトラクションとして楽しむなど、何度も見たい欲を煽る。ロングヒット作に映像美をうたうものが多い理由のひとつです」
では実際、“鬼滅超え”をする作品は何か。300館以上と全国区で公開されるなかでも、注目の大作を追っていく。
『ヒックとドラゴン』(9/5公開)
『シュレック』(2001)『マダガスカル』(2005)などを世に送り出したアニメーションスタジオ「ドリームワークス・アニメーション」が手がけた、イギリスの同名児童文学を原作とした実写映画。
第3作まで制作されているアニメ版は2010年の第1作が全世界興収4億9487万ドル(約440億円=当時)というメガヒットだったが、日本での興収は9億円にとどまる。実写映画も全世界で約931億円(9月9日現在)と大人気だが、前田氏が「日本では海外ほどのヒットは見込めない」と分析したとおり、初週は興収ランキング6位、2週目は10位にランクを下げている。
『ブラック・ショーマン』(9/12公開)
東野圭吾氏の同名ミステリ小説を、福山雅治主演で実写化。福山は卓越したマジック技術と人間観察力を持つ元マジシャン役で、本職の知識や技術を武器に殺人事件の真相に迫っていく。原作が福山の当て書きであることや、メガホンは『コンフィデンスマンJP』シリーズや『イチケイのカラス』(ともにフジテレビ系)などを手がけた田中亮監督とあって期待され、初週は2位だった。
「9月公開の実写映画の中では、頭ひとつ抜けたヒットになる可能性があります。製作陣も、最終興収40〜50億円を見込んでいるのではないかと。この週もまだまだ『鬼滅』の人気は根強いでしょうが、邦画実写で上位キープを狙える作品です」
『宝島』(9/19公開)
2019年に第160回直木三十五賞を受賞した真藤順丈氏の同名小説が原作。アメリカの統治下にあった1952年の沖縄を舞台に、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちを描いた物語で、監督を『るろうに剣心』(2012)シリーズの大友啓史氏が務める。キャストは妻夫木聡、永山瑛太、広瀬すず、窪田正孝ら。
「骨太の原作に、邦画界を代表する布陣で挑んだ力作。戦後80年の節目とあって今年は戦争をテーマにした映画が注目されますが、上映時間191分という長さはネック。『国宝』『鬼滅』も2時間半~3時間の上映時間ですが、いかんせん題材がマニアックすぎる。大衆受けは厳しいと思います」
『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』(9/19公開)
2024年12月現在、シリーズ累計発行部数3000万部を突破している「週刊少年ジャンプ」(集英社)発(現在は『少年ジャンプ+』で連載中)の人気マンガが原作。2022年に公開されたテレビアニメ版の続きで、ファンの間でも特に人気の高い「レゼ篇」の劇場アニメ版となる。
「鬼滅を超えるなら、もっとも現実的な作品。『第66回小学館漫画賞少年向け部門』受賞や『このマンガがすごい!2021』オトコ編第1位を獲得するなど原作人気も高く、IPが強い。戦闘シーンも大いに描かれるため、MX4D上映が追加され、『鬼滅』同様に“バージョン違い”を楽しむファンも多そうです」
『沈黙の艦隊 北極海大海戦』(9/26公開)
2025年7月時点で累計発行部数3200万部を突破した大ヒットマンガ『沈黙の艦隊』の劇場版第2作。第1作(2023)は興収13.7億円を記録し、年間興収ランキングでは『君たちはどう生きるか』『ゴジラ-1.0』『THE FIRST SLAM DUNK』などの強豪がひしめくなか、邦画24位の成績を収めた。
「第1作から今作に繋がるストーリーとして、Amazonプライムでドラマ版が公開されています。良質なシリーズですが、『鬼滅』のように多くのアニメ作品が劇場版だけを見てもある程度楽しめるのとは違い、過去作の視聴が必須になるので、ハードルが高い」
9月の映画市場は“三つ巴”となるか
9月の映画市場について前田氏は「『鬼滅』『ブラック・ショーマン』『チェンソーマン』の三つ巴」を予想する。
「なかでも期待は『チェンソーマン』です。『ブラック・ショーマン』を複数回鑑賞する人は少ないと思いますが、『チェンソーマン』は“バージョン違い”で楽しむ人や、入場者特典目当てに何度も劇場に足を運ぶ人もたくさん出てくるでしょう」
鬼滅カレンダー的にいえば、『ブラック・ショーマン』は鬼滅公開から9週目、『チェンソーマン』は10週目という計算になる。もしチェンソーマンが鬼滅を抜けば10週にして首位陥落となるが、その後は冬休みシーズンまで目立った大作の公開予定はない。はたして、三つ巴を制するのはどの作品か。
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)