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なぜ“キャスト変更”は炎上するのか 『ルパン三世』『ドラえもん』『スラムダンク』…「声優交代」に潜むリスクと回避の歴史

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(写真:Getty Imagesより)
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 映画『名探偵コナン』シリーズ第29弾の特報映像が8月31日に公開され、神奈川県警の萩原千速役が、2024年8月に亡くなった田中敦子さん(享年61)から沢城みゆき(40)にバトンタッチされることが発表された。

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 萩原千速がテレビアニメ版で初登場したのは、2023年9月放送の「風の女神・萩原千速(前・後編)」。番外編『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』のメインキャラクター萩原研二の姉で、白バイ隊員の小隊長を務めている。登場回数は多くないものの、圧倒的な美貌ながら、バイクで公道をウィリー走行する豪胆な性格のギャップが人気を集めているキャラクターだ。

 ところでアニメ業界が盛り上がる昨今、声優交代には賛否が付きもの。今回はX上に〈解釈一致すぎる!〉と喜ぶ声が大半を占めたが、批判されることも多い。声優交代劇におけるファンの賛否は一体どういった場合に起きるのか――アニメ産業研究家・大学講師のいしじまえいわ氏が顕著な例をピックアップしながら、その背景を考察する。

声優交代は、「いきなり」すると大ヤケド

 いしじまえいわ氏は、かつて声優交代が「失敗」した顕著な例としてOVA『ルパン三世 風魔一族の陰謀』(1987)を挙げる。同作では、実験的に1971年のTVシリーズからルパン三世役を演じていた山田康雄氏を含むメインキャスト全員を変更したところ、激しいバッシングを受けたという。

「旧キャストに交代の旨が伝わっておらず、作品公開後に交代の件を知った山田さんが大激怒。ファンにとっても、この時点でのキャスト総入れ替えは抵抗が大きすぎたようです。新キャストの演技やアニメーションの出来はけっして悪いものではなく、近年は再評価されているのですが、次作から元のキャストに戻ったことも考えるとアニメ史に残る“失敗例”と言えるでしょう」(いしじまえいわ氏、以下同)

 一方で、山田さん亡きあとを任されたのは、ルパンのモノマネ芸で人気を博したタレント・栗田貫一(67)。声優ではないため、当初は疑問の声もあった。

「栗田さんは代役として映画『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995)の収録に呼ばれて以来、ずっとルパン役を担当しています。栗田さんしかいないという制作側たっての起用でしたが、当時はファンからは“何か違う”という声もあり、長い間苦労されたようです」

『THE FIRST SLAM DUNK』の猛反発が一転、「高評価」になったワケ

 いしじまえいわ氏によれば、声優交代のパターンは主に以下3種類だという。

(1)訃報や病気、高齢化など、やむを得ない事情が声優側にあるもの
(2)新シリーズの開始などにあわせて、制作側が決定するもの
(3)声優の不祥事によるもの

いずれの場合も、炎上するかどうかを左右するのは「納得感」だ。

 まず(1)の「やむを得ない」パターン。訃報や病気など、声優側ののっぴきならない事情の場合、「仕方ない」として代役も受け入れられる。賛否が起こりがちなのは(2)だ。新シリーズやリメイクなど、制作側の都合はあっても声優側に“事情”がないため、炎上を招きやすい。記憶に新しい事例として、『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)がある。

「ファンにとっては過去作から長い間親しんだ声のイメージが強く、それを守りたいもの。そのため訃報や病気、不祥事、引退など納得できる理由がない声優交代は拒絶の対象になりがちです。

『SLAM DUNK』は1993年から1996年にかけてテレビアニメ版が放送され、それから約30年が経過して『THE FIRST SLAM DUNK』の制作が発表されました。完全新作で、メインキャストも一新されましたが、旧キャストは制作時点でほとんどが現役。“あの頃”のSLAM DUNKが蘇ることを期待していたファンからは猛反発が巻き起こりました」

 しかしいざ公開されると高評価の嵐となった。いしじまえいわ氏は、「声優交代の賛否が起こるのは、発表前から直後のこと」に過ぎないと指摘する。

「作品のクオリティが高ければ、そうした炎上も下火になる。また、原作者の井上雄彦先生がキャスティングしたことも説得力になりました。作品全体の質の高さや原作者の関与による『納得感』が批判を黙らせた例です」

コロナ禍以降、「声優の不祥事」アレルギーが増加

 そして昨今厄介なのは、(3)「声優の不祥事」である。

 この場合、作品に罪はないのか、イメージ商売としての責任をとるのかという議論が発生し、「作品ごとの判断になる」(いしじまえいわ氏)。議論が発生する経緯には、声優がタレント化し、視聴者がその不祥事を気にするようになったという社会的な背景が関わっている。

「もともと、声優の私生活は広く関心を集めるようなトピックではありませんでした。ただ2016年に『君の名は。』が興収251億円の大ヒットを記録、2020年には『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が歴代興収1位となったことでアニメの社会的影響力が急拡大し、コロナ禍には声優番組が増加。テレビ番組への出演も増え、一気に声優の大衆的なタレント化が進みました」

 並行して、声優の不祥事もキャッチアップされるようになる。2021年には鈴木達央がファンを自宅に連れ込む不倫&情報漏洩、2022年には櫻井孝宏が既婚を隠して構成作家の女性と約10年間の交際を続けながら、別の女性とも不倫。2024年には古谷徹によるファンとの4年半にわたる不倫が報じられた。

「声優の不祥事による降板や続投は、作品の物語性や役柄、ファンへの影響を総合的に勘案し、制作サイドが決定します。たとえば“イケボ”で知られ、女性ファンも多かった鈴木達央さんは多くの作品を降板。守秘義務違反も犯していたため、しばらくは作品への起用も見送られた時期があります。

 古谷さんの場合、『名探偵コナン』が少年マンガであることから視聴者層への影響を鑑みて安室透役を降板となったようですが、『機動戦士ガンダム』関連ゲームのアムロ・レイ役は続投。櫻井さんも多数の作品を降板になりつつ、『鬼滅』の冨岡義勇役や『呪術廻戦』の夏油傑役は続投しています」

「鬼滅」以降に浮上した声優のタレント化は、アニメ人気を後押しする一方で、不祥事を起こせば“声を聞くと(不貞行為を)思い出してしまう”と拒否反応を起こし、NOを突きつけるファンも多い。そうしたファン心理は、声優のタレント化により私生活や性格が垣間見えるようになったことが遠因なのは否めない。

アニメ業界が積み上げてきた“学び”の歴史

 1963年の『鉄腕アトム』から始まったアニメ業界。特に人気シリーズにおいては声優の高齢化や逝去により交代を避けて通れないが、積み上げてきた“学び”の歴史がある。

「1980年代頃まではアニメ業界もまだ歴史が浅く、声優交代に対するノウハウやファンへの配慮が構築されていなかった。それが1990年代後半から2000年代、大御所声優の高齢化が進み、一気にキャスト変更の波が押し寄せました。

 現に、1995年には『ちびまる子ちゃん』さくら友蔵役の富山敬さんが、2000年には『クレヨンしんちゃん』ぶりぶりざえもん役の塩沢兼人さんが亡くなっています。長寿番組となるアニメが増えるなかで、業界側は、人間の命は有限であることに直面せざるを得なくなり、旧キャストにもファンにも、納得感を得られる形での交代が慎重に進められてきました」

 交代の方法は作品ごとにそれぞれだが、たとえば『ドラえもん』(テレビ朝日系)は放送開始から25周年の2005年にキャストのみならず、キャラデザや主題歌なども一新した。

「一人だけを変えるよりも、いっそキリのいいタイミングで、フルリニューアルのほうが納得感が得られるのではということでしょう。そのうえで、旧キャスト最後となった映画『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』ではそれ以前のシリーズ作へのオマージュを多数盛り込むなど、声優交代に対する制作陣の気遣いが散りばめられました」

 そして令和は、名作アニメのリバイバルブーム。直近でも『うる星やつら』(1981、2022)や『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(1996、2023)など、人気作が相次いで再アニメ化。2024年の『らんま1/2』では1989年版からキャスト続投となったものの、総入れ替えとなるケースも多く、その度に賛否を呼ぶが、「人気の出ないアニメは忘れ去られてしまうため、交代後の声の話題も続かない」とはいしじまえいわ氏。声優の交代話が俎上にのせられるということは、それだけ作品が愛されているということなのだ。

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(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/09/20 18:00