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弱者男性たちの結婚相談所

「MBTI診断は信用していない」――43歳男性が性格重視に至った切ない過去 恋愛コンサルタント「冬になるとマッチングアプリの登録者数が増える」

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川田直人さん(仮名・43歳)は、若い頃、仕事に就けなかったこともあり、恋愛をする気力が湧かなかった。(写真:Getty Imagesより/写真はイメージです)

「結婚したいのに結婚できない」――。そう考える男性は少なくない。

 別に女性を蔑視しているわけでもない。酒で失敗したこともなければ、見た目が極端に悪いわけでもない。それでも、“普通の人生”を歩めないのはなぜなのか?

 この疑問を抱える中年男性たちに、自らの半生を振り返ってもらい、「なぜうまくいかないのか」を自己分析してもらった。

 俺がおかしいのか? それとも、社会がおかしいのか? 弱者男性たちのリアルな婚活事情に迫る。

48歳男性が30代との結婚にこだわる理由

40代こそ学歴や年収ではなく見た目で勝負

「40代の婚活では、最終的に“人としての魅力”があるかどうかが問われます。学歴や年収は今さら変えることはできませんが、努力次第で改善できる点もあります。例えば、髪の毛が薄くないか、太っていないかといった見た目の部分。これらは加点にはならないかもしれませんが、少なくとも減点にはなりません」

 そう語るのは、恋愛・婚活コンサルタントの菊乃さん。

 30代後半から40代前半の婚活は非常にハードルが高く、45歳を超えると結婚できる確率は一気に下がる。40歳を過ぎてから婚活を始める場合、容姿やコミュニケーション能力は、若さ以上に重要な要素となる。

「容姿は大切です。髪が薄いのであればイメージコンサルタントに依頼して見た目改善に挑戦、太っているならダイエットをするといった対策はできますよね。最終的には“見た目”が良くて、“コミュニケーション能力”のある人が有利になります。実際、学生時代に野球・サッカー・バスケなど団体競技を経験した人は、結婚が早い傾向があります」(同)

 だが、全員が当てはまるわけではない。

 川田直人さん(仮名・43歳)は、がっしりとした体格で顔立ちも整っており、決してモテなさそうには見えない。彼の仕事は「放課後デイサービス」という障害のある子どもたちを放課後に預かる施設で、主に送迎やケアを担当している。

 しかし、現在の職に就くまでには、紆余曲折を経てきた。大学卒業後、就職氷河期の影響で就職に失敗し、しばらくフリーターとして生活。その後、手に職をつけようとシステムエンジニアを目指し、ある職場に就職するも、そこは極めてブラックな環境だった。

「“働きながら学べる”という触れ込みでしたが、月給は4万円。派遣先のさらに下請けのような立場で、かなり中抜きされていました。派遣法で禁止されている“二重派遣”のような形でしたが、『請負契約』という名目で合法っぽく見せかけていたんです。僕も『勉強させてもらっている』という気持ちで従っていましたが、不満は大きかったです」

 勤め先からは「毎月30万円以上支払っているのだから、“学ぶ姿勢”ではなく、しっかり働いてほしい」と何度も釘を刺された。しかし、実際に川田さんに支払われていたのは中抜きされたわずかな金額であり、その待遇でフルタイム勤務を強いられるのは、労働基準法違反でしかなかった。

「当時はホリエモン(堀江貴文)のような成功者が注目されていて、“SEで一発当てよう”という空気があったんです。自分も夢をかけたのですが、この給料では生活が成り立たず……。最終的に辞めて、厨房機器の営業職に転職しましたが、それも長くは続きませんでした。実家暮らしだったのでなんとか生活はできましたが、日々を生きるだけで精一杯で、恋愛をする余裕などありませんでした」

まるで「元カレの代わり」をさせられている

 川田さんは、まったくモテない学生生活を送ってきたわけではない。顔立ちははっきりとした縄文系で、むしろ魅力的な存在として周囲に映っていただろう。

「高校時代はラグビー部で、部活一筋でした。当時はラグビーをやっている人が少なかったので、他校の助っ人として参加することも多く、それが楽しかったんです。そして、高校3年のときに彼女ができました。もともと彼女は別のチームメイトと付き合っていたのですが、別れたあとに僕にアプローチしてきたんです」

 ぐいぐいと積極的な女性だったが、悪い気はしなかった。「好きだ」ときちんと告白されたため、「試しに付き合ってみよう」と思い、交際が始まった。

「でも、なんとなく気持ちが乗らなかったんです。相手の雰囲気もどこかぎこちなくて、まるで元カレの代わりをさせられているような窮屈さを感じていました。『お互いに本気じゃないのなら、別れよう』という話になり、交際は終わりました」

 大学進学後も、恋人ができることはなかった。派手に遊ぶこともなく、真面目に過ごしていた。

「今思えば、頭が固かったんです。恋人がいて楽しそうにしている人たちをうらやましいと感じてはいましたが、自分から行動することはなかった。しゃぶしゃぶ屋でアルバイトしていましたが、恋愛には無縁の生活でした」

 男女が自然に関係を持つような“宅飲み”のような場面も一度もなく、飲み会があっても「明日講義があるから」と早々に帰宅する生活を続けていた。

「『誰が誰を好きだ』とか、三角関係のような恋愛模様が職場にはあったと思います。でも、僕はそういうゴタゴタが面倒で、『あまり深入りしないでおこう』と自ら距離を取っていました。結局、ひとりの時間が好きだったんです」

 それよりも、大学を卒業しても就職できていない。焦燥感に駆られた川田さんは福祉系の専門学校に通い始めた。

「そこで彼女ができたんです。卒業後は病院の介護職に就いたのですが、仕事が多忙すぎて、週に一度も会えないような生活でした。激務のなか、次第に鬱気味になってしまい、彼女から『私のこと、本当に好きなの?』と問われて、『正直、よくわからない』と答えてしまいました。それが原因で別れることになります」

 その後、病院を辞め、次に選んだのは老人ホームでの介護職。現場では男女の関係が生まれることも少なくない。

「自然といい雰囲気になった女性がいて、体の関係もありました。でも、どうやらその子には彼氏がいたようなんです。積極的に男性にアプローチするタイプの女性で、僕はそのうちのひとりに過ぎなかったのかもしれません。結局、なあなあな関係のまま自然消滅し、後に結婚の報告が来ました。でも、相手は当時の彼氏ではない別の男性でした」

結婚したい気持ちはあるが「シングルマザー」は無理

 なんとも自分勝手な女性と出会ってしまった川田さん。貴重な結婚適齢期をその恋愛に費やした結果、そこから10年以上、女性との関係は途絶えてしまったという。

「たまにマッチングアプリを利用しています。同世代か、少し年下の女性を中心に探しているのですが、シングルマザーの方が多くて、『ちょっと付き合うのは難しいかな……』と思ってしまうんです。それに、若い女性にアプローチしても、人気が集中しているので、マッチしても次につながらないことが多いですね」

 利用しているマッチングアプリには、「MBTI」という性格診断テストを入力する項目があり、相性の良い相手をマッチングさせる仕組みもある。

「でも、あまり信用していません。自分のことを正確に理解している人なんて、少ないと思うので……。今後、僕の性格と本当に合う人に出会えるのか、正直わからないですね」

 マッチングアプリはいつでも使えるように、月額会員を解約せずに継続している。その甲斐あって、ここ数年の間に“いい感じ”になった女性もいたそうだ。

「好意は感じていたのですが、『そこまでタイプじゃないな……』と思ってしまって、なかなか関係を深められなかったんです。逆に『すごく好みだな』と思った女性には脈がなくて……。年に数回はマッチングアプリを使って人に会うようにしていますが、昔のように“結婚したい一心で相手を探す”という気持ちはもう薄れてしまいました」

 川田さんには兄が2人おり、どちらも結婚して子どもがいる。そのため、親からのプレッシャーは特にないという。

「自由にさせてもらっているという自覚はあります。最近は甥っ子や姪っ子に『おじちゃんはなんで結婚しないの?』と聞かれるくらいですね」

 結婚を意識していた時期もあったが、「仕事が安定していない」という理由で真剣に恋人を見つけるチャンスを逃してしまった。今思えば、仕事のことは気にせず、恋人探しに勤しんでいればよかったのかもしれない。

「今は40代になって、ようやく仕事も安定してきました。経済的には結婚しても大丈夫だと思うんです。でも、一番の結婚適齢期だった時期に仕事がなかったのが、運の尽き。職場の同世代はみんな結婚しています。子どもも成長して、『学資保険がどうだ』とか『教育費がこれくらいかかる』とか話している。そういう話を聞くと、“ああ、みんな僕よりずっと先を歩いているな”と感じます。でも、不思議と羨ましいとは思わないんです」

 そう言いながらも、川田さんは現在もマッチングアプリの月額課金を続けている。「それならいっそ解約すればいいのに」とも思ってしまうが、前出の菊乃さんはこう語る。

「夏は“別にパートナーがいなくてもいいや”と思う人が多いのですが、寒くなると人肌恋しくなるのか、冬になるとマッチングアプリの登録者数が増えるんです。恋愛関連のウェブ記事のPV数も冬になると急増します」

 この記事もまさに、その恩恵にあやかろうとしているわけだが、もしかしたら人間の中にそうした“季節的な本能”があるのかもしれない。

「それと、正月やゴールデンウィーク明けも利用者が増える傾向があります。長期休暇をひとりで過ごすと、パートナーが欲しくなるのでしょうね。でも、本来ならば“長期休暇を一緒に過ごす相手”を探すためには、休暇が来る前に動かないと意味がありません」(同)

 川田さんは「もう半ば結婚は諦めている」と語るが、定期的にアプリを覗いてしまうのは、心のどこかで“誰かと寄り添いたい”という気持ちが残っているからなのかもしれない。

 結婚という形でなくてもいい。川田さんが心から安らげるパートナーに出会えることを願う。

恋愛コンサルタント菊乃さんのオフィシャルブログ
https://ameblo.jp/koakuma-mt/

マッチングアプリが変えた恋愛の価値観

(取材・文=山崎尚哉)

山崎尚哉

1992年3月生まれ、神奈川県鎌倉市出身。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆するほか、南阿佐ヶ谷でTALKING BOXという配信スタジオを運営中。テクノユニット・人生逆噴射の作曲担当で別名DJ.YMZK。

X:@yamazaki_naoya

山崎尚哉
最終更新:2025/11/11 12:00