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弱者男性たちの結婚相談所

「子どもを作って“苗字”を残さなければならない」――48歳男性が30代との結婚にこだわる理由 恋愛コンサルタント「“認識のズレ”がある男性は想像以上に多い」

「子どもを作って“苗字”を残さなければならない」――48歳男性が30代との結婚にこだわる理由 恋愛コンサルタント「“認識のズレ”がある男性は想像以上に多い」の画像1
平明典さん(仮名・48歳)は、母方の苗字を継ぐために子どもを望んでいるが、50歳が目前に迫っている。(写真:Getty Imagesより/写真はイメージです)

「結婚したいのに結婚できない」――。そう考える男性は少なくない。

 別に女性を蔑視しているわけでもない。酒で失敗したこともなければ、見た目が極端に悪いわけでもない。それでも、“普通の人生”を歩めないのはなぜなのか?

 この疑問を抱える中年男性たちに、自らの半生を振り返ってもらい、「なぜうまくいかないのか」を自己分析してもらった。

 俺がおかしいのか? それとも、社会がおかしいのか? 弱者男性たちのリアルな婚活事情に迫る。

マッチングアプリが変えた恋愛の価値観

「10歳、20歳年上が好きな女性もいる」は幻想……目を覚ませ!

「男性は女性経験が少ないと、異性との距離の詰め方がおかしくなります。社会における“自分の男性としての価値”がわからなくなるため、いつまでも若い子を求めたがるのです。両親やその世代を見ていると、夫のほうが年上の夫婦が多かったことから、“自分も若い子と結婚できるはず”と思い込みやすい傾向があります」

 そう語るのは、恋愛・婚活コンサルタントの菊乃さん。

 マッチングアプリやお見合い、街コンなど、日本の婚活ビジネスは年々市場規模を拡大しており、まさに“婚活ブーム”ともいえる状況だ。

 それにもかかわらず、晩婚化や独身層の増加には歯止めがかからない。30代まではまだ良いが、40代を超えると、男女ともに状況は一気に厳しくなる。

 菊乃さんのもとには、思わず同情してしまいたくなるような相談も寄せられるが、一方で、耳を疑うような発言をする人もいる。

「40代の男性は『年上が好きな女性もいるでしょ?』とよく言うものです。でも、それってせいぜい“3歳年上”くらいの話です。10歳、20歳年上を好む人は、ほとんどいません。自分に都合よく事実を解釈する人は、なかなか結婚までたどり着けないと思います」(同)

 一体なぜ、そんな考えに至ってしまうのか……。悩める中年男性たちに、まずは自己分析してもらおう。

「僕は三兄弟の三男だったんですが、生まれたときから苗字が兄貴たちと違っていました」

 そう語るのは、愛媛県出身の平明典さん(仮名・48歳)。メガネをかけた、えらの張った顔立ちで、少しふくよかな体格。温和な表情が印象的で、人に安心感を与える雰囲気を持っている。

「兄貴は山下(仮名)、僕は平。物心ついた頃には『なんで苗字がみんなと違うんだろう?』と不思議に思っていました。そこで、両親に理由を聞いたところ、母方の苗字が平で、『後継がいないので、このまま消滅させるのは嫌』ということでした。僕だけ母のお兄さん、つまり独身の伯父さんの養子にされたようでした」

 平さんはシステムエンジニアとして働いており、主な業務はシステムにエラーが発生していないかを監視すること。自らプログラムを組むのではなく、エラーを検知した際に修復作業を行う役割だ。

 就職氷河期世代ではあるが、その影響はあまり受けずに営業職に就職。しかし、会社との相性が合わず転職を決意し、最終的にIT企業に入社することができたという。

 高校生の頃から、親の影響で「パソコン通信」で遊ぶようになり、その後インターネットが普及。ホームページを作ったり掲示板で交流したりと、自然とパソコンに詳しくなっていたそうだ。

 家族構成は、父・母・三兄弟に加え、伯父を含めた6人暮らし。山下家の5人と平家の2人が同じ家に住む、いわば二世帯住宅だった。

「2つ上と4つ上の兄貴は、どちらも優秀でした。でも僕は、勉強も運動も苦手で……。三男ということもあり、親からは放任されていたというか、成績が悪くてもあまり関心を持たれていない感じでした。だから、勉強もせずにひたすらゲームばかりしていましたね。ファミコンを買ってもらって、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』を延々とプレイしていました。三兄弟だから取り合いになるかと思ったのですが、兄貴ふたりはアウトドア派で、外で遊ぶことが多くてゲームにはあまり興味がなかったので、僕がひとりでファミコンを独占できていたんです」

一目惚れした先輩が人前でまさかの……!?

 それ以降、平さんはひたすらゲームにのめり込んでいった。友達もゲームが好きなインドア派ばかりだったという。

「高校生になって、ぼんやりと『将来何をしたいのかな』と考え始めたとき、漠然と『俳優になりたい』と思うようになったんです。兄ふたりへのコンプレックスが大きかったので、なにか派手なことをして注目を浴びたかったのかもしれません。そこで、演劇部の新入生歓迎会を見に行ったんです。そこに、2年生の先輩にめちゃくちゃ美人な方がいて、一目惚れしてしまいました。それで入部を決意して、本気で演劇をやることにしたんです」

 こうして一念発起した平さんは、毎日のように同級生や先輩たちと集まり、レンタルビデオ店で借りた映画を観て演技の研究をするなど、充実した学生生活を送った。

「高校2年になって、先輩たちが卒業公演をやることになったんです。でも、先輩たちは後輩を驚かせようとしたのか、練習の様子もあまり見せず、公演内容も教えてくれませんでした。当日は学校の多目的ホールで公演があるというので観に行ったのですが、『これであの先輩ともお別れか……。好きだという気持ち、伝えたほうがいいのかな』と悩みながら観ていたんです」

 しかし、クライマックスで思わぬ衝撃を受ける。

「僕の大好きな先輩が、男の先輩と劇中でキスしたんです……。実際には唇を近づけて、キスしているように見せただけかもしれません。でも、まだ若かった僕には、それがすごくショックで……。今思えば、そのふたりは実際に付き合っていたのかもしれません。でも、それすら知りたくないくらい、衝撃的な失恋でした」

 恋焦がれた先輩が演劇部を去ったことで、平さんの心も完全に演技から離れてしまい、そのまま退部を決意した。

「もう田舎が嫌になりました。そこから『東京に出て俺は変わるんだ! だから絶対に東京の大学に受からなきゃいけない』と決意して、死に物狂いで勉強して、なんとか合格しました」

 それは、兄ふたりにコンプレックスを抱いてきた平さんにとって、初めての大きな成功体験だった。そして、上京の準備へと移る。

「親は『大学の寮でいいじゃないか』と言ってきましたが、パソコンも持っていきたいし、彼女や友達を家に呼んで遊びたかったんです。『夢のキャンパスライフ』を謳歌するつもりだったので、両親に頼み込んで普通のアパートを借りてもらいました」

 しかし、想像とは裏腹に、平さんは大学に入ってもまったくモテず、彼女もできなかった。もともと対人関係が苦手だったこともあり、東京の大学の「キラキラした雰囲気」にはなじめなかったようだ。

「講義にはきちんと出て、勉強して単位を取って、それ以外の時間はバイトかゲーム……。周りはチャラチャラした男子たちが女子を取っ替え引っ替えしているようで、『あの枠にはなりたくてもなれないな』という挫折感を味わいました。『ここには居場所がない』と思って、お笑いライブに通うようになり、外の世界に少しずつ目を向けていきました」

 内向的に見えて、実は意外と行動的だった平さん。そうした活動の結果、28歳のときに、人生で初めての彼女ができる。

「知り合いのツテで合コンパーティーを開いてもらったときに、『ビビビッ!』とくる女性と出会ったんです。お互いにお笑い好きで意気投合して、僕から『お付き合いしましょう』と告白して交際が始まりました」

 今まで一度も交際経験がなかった平さんは、年齢的なこともあり、「初めて付き合う人と結婚するぞ!」と心に決めていた。

「でも、9カ月しか続きませんでした……。よく“女性が男性を射止めたかったら胃袋を掴め”と言うじゃないですか。ああいうふうに、僕も女性の心を掴むようなことができていたかというと、自信はありません。結婚を考えていたからこそ、彼女が僕の想定を超えた行動をすると、無理に直させようとしたり、『こういう人でいてほしい!』という理想を押し付けてしまったんです」

若い女性に話しかけられただけで好きになっちゃう

 その後、失恋のショックでしばらく恋愛をする気になれなかった。しかし、気がつけば40代に差しかかり、焦りを感じた平さんは、雑誌で見かけた婚活パーティーやイベントに足を運ぶようになった。

「結婚相談所に登録して、マッチした女性がいました。中国出身の方で、コンサルタントを交えてお見合いをすることに。現場には通訳の方もいて、4人で会話しました。彼女は40歳くらいで、僕とほぼ同年代でした。とても良い人だったのですが、中学生の子どもがいて、中国に住む両親に預けているとのこと。もしこのまま交際が進んで国際結婚となった場合、いろいろと複雑な問題が出てきそうだと感じ、残念ながらお断りしました」

 こうして、平さんは気が向いた時に婚活パーティーへ参加する生活を続けていたが、なかなか「この人だ」と思える相手には巡り会えなかった。しかし、45歳のときに良い出会いが訪れる。

「久々に“彼女”という存在ができました。37歳の女性で、そこそこかわいらしい方でした。婚活パーティーでの出会いだったので、当然“結婚を前提にしたお付き合い”だと思っていたのですが……。彼女も年齢的に出産に不安を抱えていて、子どもができるかどうかも分かりませんでした」

 もっと、ほかに良い人がいるのではないか……? せっかくできた彼女にもかかわらず、平さんはそんな気持ちを拭いきれなかったという。

「だから、積極的にデートに誘うこともできませんでした。今思えば、彼女のことをちゃんと見ていなかったと思います。ちょうど仕事でやりたいことが出てきて、そちらを優先してしまい、距離を縮めることができませんでした。結局、彼女に『ほかに好きな人ができたので別れましょう』と振られてしまいました。その後も少し連絡を取り合っていたのですが、彼女はその男性と結婚することになり、疎遠になりました。今思えば、僕とその彼は“同時進行”だったのかもしれません」

 その後も定期的に婚活パーティーに参加しているが、「グッとくる」女性にはなかなか出会えないという。

「つい、理想が高くなってしまうんです。というのも、僕は子どもを作って“苗字”を後世に残さなければならない立場だからです。せっかく母方の伯父の姓を継いだのに、僕の代で絶やしてしまうわけにはいかない……。『どうしたものか』と、いつも考えています」

 子どもを希望している平さんは、10歳以上年下の30代女性をターゲットにしているが、当然、理想通りの出会いは難しい。

「この前参加した婚活パーティーで、知り合った女性から連絡があり、うれしくて会いに行ったのですが、案の定マルチ商法の勧誘でした。こういうことがあると、本当にガックリきます。それでも、僕はまだ結婚を諦めていません。平という苗字を残すためにできることはしたいと思っています。最悪、連れ子や養子をもらってもいいと考えています」

 できれば「若い女性」と出会いたい……。そんな思いを抱えながら、平さんは今もなお、婚活パーティーへ通い続けている。

 しかし、前出の菊乃さんは、こう警鐘を鳴らす。

「以前、40代男性から『職場の20代女子を好きになってしまいました。どうすればいいでしょうか』という相談を受けたことがあります。そのとき私、『下手なことをするとセクハラになりかねないので、軽はずみな行動は絶対にしないでください』と伝えました。若い女性がニコニコ話しかけてくれるからといって、自分に好意があると勘違いする男性は少なくありません。でも、実際は“上司だから丁寧に接しているだけ”です。ガールズバーやキャバクラも、あくまで“お金を払っているからこそ丁寧な接客をしてくれている”にすぎません。そうした“認識のズレ”がある男性は、想像以上に多いんです」

 現在48歳の平さん。仮に50歳で子どもが生まれたとしても、その子が成人する頃には70歳……。現実的に考えると、“子ども”ではなく、“人生を共にできるパートナー”との出会いに目を向けるべきなのではないか。

 平さんの意識が変わらない限り、良いパートナーとも巡り会えないのではないかと感じてしまった。

恋愛コンサルタント菊乃さんのオフィシャルブログ
https://ameblo.jp/koakuma-mt/

指原莉乃のブレない恋愛観

(取材・文=山崎尚哉)

山崎尚哉

1992年3月生まれ、神奈川県鎌倉市出身。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆するほか、南阿佐ヶ谷でTALKING BOXという配信スタジオを運営中。テクノユニット・人生逆噴射の作曲担当で別名DJ.YMZK。

X:@yamazaki_naoya

山崎尚哉
最終更新:2025/11/04 22:00