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1勝1分で、なんだか消化不良……侍ジャパン日韓戦の総括! 2026年WBCに向けたMLB基準との決定的ギャップとは?

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1勝1分で、なんだか消化不良……侍ジャパン日韓戦の総括! 2026年WBCに向けたMLB基準との決定的ギャップとは?の画像1
国際大会では何度も日本代表に招集された経験もある井端弘和監督。(写真:Getty Imagesより)

 2025年11月、侍ジャパンは韓国との強化試合2連戦を終えた。

侍ジャパン始動!

 結果は1勝1分。数字だけを見れば平穏だが、内容を紐解けば「不安」と「希望」が同居した、2026年WBCの“予告編”のような2試合だった。

 ピッチクロックへの適応の遅れ、MLB基準のストライクゾーンへの戸惑い、井端弘和監督の国際大会仕様への移行途上……。表面に浮かび上がった課題は少なくない。

課題はピッチクロックへの適応の遅れ

 しかし同時に、この2試合は「本番の主軸はまだ揃っていない」という前提を強く思い出させてもくれる。つまり、MLB組の加入でチームの輪郭は一変するということだ。この連戦は“弱さを暴いた試合”ではなく、“WBC本戦に向けて強化すべき領域を可視化した試合”だった。

 果たして、日本は来たる2026年WBCに向けて何を掴み、何を改善し、どこに希望を見出したのか? その答えが、この2日間に凝縮されていた。

 まず、今回の連戦で最も象徴的だったのは、ピッチクロックへの対応が明らかに遅れているということだ。WBCではMLB流のルール(ピッチコム、ピッチクロック=走者なし15秒/走者あり18秒、牽制2回制限など)が適用される。侍ジャパンは合宿から強化試合を通じて、投手と捕手ともに操作や段取りは概ね習熟。違反は2試合を通じて平良海馬の1回のみという記録面では前進が見られた。

 一方で、投手の投げ急ぎや返球タイミングなど、微調整の余地は残った。実際、大勢や高橋宏斗といった2023WBC組の投球内容を見ると、ピッチクロックを意識しすぎて、パフォーマンスに影響が出ていた投手もいたと考えられる。

 また、第2戦で計9与四死球が出た背景には、大会使用球や球審(MLB審判員)の影響も示唆されており、ストライクゾーンへの“目慣れ”は継続すべきテーマである。韓国側はKBOでのピッチクロック運用経験を活かし、タイム(1打席2回まで)を巧みに使って間合いを調整していた。井端監督も「有効に使っていたので見習っていきたい」と言及している。

 そうすると、これまでの国際大会を振り返ると、日本はどの国よりも準備を徹底しているのではないだろうか。

 プレミア12終了後にはシーズン開幕前に強化試合を行い、さらにシーズン終了後にはWBCを見据えて韓国と強化試合を行っている。大会前には全体キャンプも行う。この準備期間で課題を解消できるかがポイントとなる。

今回のチームは来年の本番メンバーではない

 結論から言えば、来年のWBCに選ばれるメンバーの半分以上は、この2試合に出場していない。選手の大部分は国内組で構成されており、MLB組や主戦級はほぼ不在だった。

 つまり、今回の試合で見えた“弱点”は、来春の戦力そのものの弱点ではない。ここを履き違えると、誤った議論につながる。そのため、ピッチクロックに最も適応しているMLB組の招集が鍵となる。

 2026年大会の侍ジャパンは、大谷翔平、山本由伸、今永昇太、千賀滉大、佐々木朗希、鈴木誠也、吉田正尚など、この層が揃えば、ピッチクロック対応は一気に他国並みの基準になる。

 また、日常的にピッチクロック下で戦うMLB勢(投手・捕手・打者)が、プレー速度の作法とルーティンを共有できるのは大きい。投打会議での事前合意テンプレや、イニングまたぎの段取りなど、秒読みの野球のコツを落とし込める立場にあるのだ。

 しかし、今年ワールドシリーズ連覇を成し遂げたロサンゼルス・ドジャース監督のデーブ・ロバーツ氏は、「個人的なことをいえばWBCには参加しないでほしい。特に投手は大きな負担を背負っている。選手をけがから守るために2026年シーズンに向けて、しっかりと休息をとってほしい」と懸念を示している。

 このような状況では、大谷は野手のみの参加、山本や佐々木は大会途中からの招集もあり得るだろう。2017年大会では、オランダのケンリー・ジャンセンが大会途中から招集され、1イニング、わずか9球で降板した。試合後、オランダ監督のヘンスリー・ミューレン氏は「それが我々がドジャースと交わした約束だった」と語っている。

 ジャンセンは1次・2次ラウンドの参加を辞退し、春季キャンプでの調整が順調に進んだため、予備登録枠を使って準決勝・決勝に出場した。しかし、出場は1試合1イニングのみというドジャース側の条件があったという。

 特に、山本はエースとしての立場であり、来年はサイ・ヤング賞も狙えることから、このような条件が設けられる可能性が非常に高い。また、投手としての大谷もリハビリ明けであることを考慮すれば、登板はない可能性が高い。このあたりの交渉も、WBC連覇に影響する要素となりそうだ。

 ただ、ロバーツ氏は後日の19日に「今シーズン長いシーズンだったので、彼らが決めて出場するとなったらサポートする。投手としては負担になってしまうが、日本のために、彼らが決めることだと思っている」と語った。と語り、状況によっては前向きに考えている。

 それだけではなく、評価が分かれるのが、井端氏の采配である。国際大会仕様のマネジメントとは言い難い部分があったのは確かだ。

 ただし、ここで重要なのは、監督というポジションは大会直前に“化ける”可能性があるという点だ。短期決戦では、勝ち切る継投や打順の最適化、スモールと長打のバランスが生命線となる。

 2017年の小久保裕紀氏も、かつては批判を受けたが、検証と修正を重ねてベスト4に到達した。この検証と修正のサイクルをどれだけ速く回せるかが鍵だ。この成長曲線を描けるか否かが、2026年WBCの勝敗ラインを左右するだろう。

2025年日本シリーズ総括

(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

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ゴジキ
最終更新:2025/11/20 22:00