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「RESOUND CLOTHING」代表デザイナー・梅本剛史のカルチャー✕ファッション考現学

【ファッションから見るマンガ 後編】『BECK』『無頼男-ブレーメン-』は90~00年代のバンドマンの“リアル”をどう描いたか

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梅本剛史氏(写真:KOBA)

 メンズブランド「RESOUND CLOTHING」を率いるデザイナー・梅本剛史が、カルチャーとファッションの関係を語る本連載。今回のテーマは、音楽マンガに描かれた“時代の服装”。 マンガに描かれるファッションは、実は当時の若者文化を映す強力な資料でもあるからだ。今回は90年代後半〜2000年代前半の空気をもっとも濃厚にまとった2作品『BECK』と『無頼男-ブレーメン-』だ。

【ファッションから見るマンガ 前編】

『BECK』に映る、99〜00年代ストリートと音楽シーンの“生々しさ”

 設定や描写が非常にリアルな音楽マンガとして一世を風靡し、アニメや映画化もされた『BECK』(ハロルド作石/講談社)。連載スタートは1999年。サマーソニックが始まり、Hi-STANDARDを筆頭にインディーズバンドの勢いが社会現象となった時代だ。

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BECK(12) (月刊少年マガジンコミックス)

「僕もバンドをやっていたし、『BECK』は音楽仲間もみんな読んでいましたね」と梅本さんは振り返る。

特に梅本さんが共感したのは、キャラクターの“ちょいダサい”服装の描写だ。

「バンドマンってマンガや映画でカッコよく描かれがちですけど、若い頃は服にそんなにお金もかけられない。なので“ちょいダサい”くらいがリアルなんです。その点、『BECK』ではユルめのTシャツとジーパンをベースにした『普通のバンドマン』っぽい服がよく出てくる。『古着とかフリマで賄えそうな服ばかりやな』って感じが逆にリアルでカッコいいんです」

象徴的なのは、Tシャツの下に無地やボーダーのロンTをレイヤードさせたスタイルだ。

「自分がバンドをしていた青春時代にみんなメッチャ着てたなぁ……と懐かしく思います」と梅本さん。加えて、登場人物のスタイルには2000年前後のストリート的感覚がしっかり漂う。

「ラップをしている千葉は、パーマの髪型まで含めて当時のDragon Ashの影響が濃い感じがしますね。ボーカルとラッパーがいる主人公たちのバンド編成も当時の典型的なミクスチャーバンドやし、『ベース=金髪』『ギター=ロン毛』みたいな配置もリアルですね(笑)。作品全体のファッションの雰囲気はドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系/2000年)にも近いものを感じます」

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Dragon Ashボーカル・ギターのKj

『BECK』は、当時のストリート文化と音楽カルチャーが交差した“時代のスナップ写真”的な作品だったわけだ。

『無頼男-ブレーメン-』:パンク×ストリートが全盛だった時代の熱量

もう一作の『無頼男-ブレーメン-』(梅澤春人/集英社)は「週刊少年ジャンプ」で2000〜2001年に連載。BOØWYをタイトルの元ネタにした『BØY』の作者らしく、ロックの美学が前面に押し出された、熱量全開の音楽マンガだ。

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『無頼男―ブレーメン― 』4 (ジャンプコミックスDIGITAL)

「『BECK』より設定が非現実的で、デビューアルバムが世界で2億枚売れたりする話なんですけど(笑)、キャラ全員がアツい雰囲気も含めて、20歳前後でバンドをしていた自分には刺さった作品ですね」

 服装はパンクを軸に、当時のストリート感が強く反映されている。

「主人公は金髪のツンツン頭で、大きめのTシャツや短パンにVANSやラバーソールを合わせるのが定番です。90年代後半〜00年代前半のパンク×ストリートなファッションそのままやし、当時の若者はラバーソールは一足は持ってたと思うんですよね」

『BECK』と近い時期の連載だけに、こちらにも“ロンT+半袖T”のレイヤードが多く登場する。

「Tシャツにシャツを羽織って、上のボタンだけ留める着方もこの時代っぽいですよね。ウォレットチェーンを付けている人が多いところも含めて、細かいところまで当時のリアルが出ています」

 こうしたパンク系ファッションは、流行の波が落ち着いた今でも、根強い支持者が多い。

「ドクターマーチンが売れ続けている一方で、ジョージ・コックスのラバーソールはこの時代からずっと流行ってないですけど、僕も今でも時々履きます。先日お会いした野性爆弾のくっきー!さんはヒョウ柄のラバーソールをカッコよく履きこなしてました」

若い頃に受けたカルチャーの衝撃は、一生ものの“スタイル”になる

 2つの作品を振り返りながら、梅本さんは“青春時代に触れた作品の影響力”についてこう語る。

「若い頃に読んだマンガって、服装やバイク、車までモロに影響受けるじゃないですか。でも大人になると、マンガを楽しんで読むことはあっても、そこから影響を受けることはほとんどない。ファッションも“今の流行やな”ぐらいの距離でしか見られません。でも青春時代にマンガで好きになったものは、流行ってなくても『好きなものは好き』って存在になるんですよね」

『BECK』と『無頼男』に描かれたスタイルの熱は、当時を経験した人にとって永遠に色褪せない。そしてその“心を撃ち抜かれた瞬間”こそが、ファッションを形作る最初の火種になる。

「最近またレイヤード風のTシャツを作ったんですよ。結局あの時代の空気が、今も自分の中に残ってるんでしょうね」と梅本さんは語る。

 青春期に焼き付いたカルチャーは、流行が変わろうとも消えることはない。むしろ時間を経て、より深く自分の核に沈んでいくのだ。

【ファッションから見る音楽 邦楽編】

(構成=古澤誠一郎)

梅本剛史(うめもと・たかふみ)
RESOUND CLOTHINGディレクター&デザイナー。海外メゾンデニムブランドのデザインや、LUNA SEA、DIR EN GREY、AAA、SMAP、Kis-My-Ft2などのアーティストの衣装製作も手がけた経験も持つ。スキャンダルのある芸能人を自身のブランドのモデルに積極起用することでも話題に。
https://resoundclothing.com/

古澤誠一郎(ライター/編集者)

1983年埼玉県入間市生まれ。得意なジャンルは本、音楽、演劇、街歩きなど。『サイゾー』『週刊SPA!』『ダ・ヴィンチニュース』などに執筆中。ライター古澤誠一郎のホームページ

X:@furuseiro

古澤誠一郎(ライター/編集者)
最終更新:2025/11/30 14:00