【ファッションから見るマンガに見るファッション】『ドラゴンボール』と『特攻の拓』――80〜90年代の人気マンガは“時代の服装を映す鏡”だった

メンズブランド「RESOUND CLOTHING」を率いるデザイナー・梅本剛史が、カルチャーとファッションの関係を語る本連載。第4回のテーマは、マンガに描かれた“服”。取り上げる作品は80〜90年代に青春を送った人には鉄板の人気作品『ドラゴンボール』(集英社)と『疾風伝説 特攻の拓』(講談社、以下『特攻の拓』)だ。
『ドラゴンボール』に描かれたカラフルでポップな時代感、『特攻の拓』に映し出されたワークとミリタリーの融合――。両作では、連載当時の空気やトレンド、そしてキャラクターの個性までが、登場人物の服装に凝縮されていた。 今回はこの2作品を通して、マンガがどのように“時代のファッションアーカイブ”になっていたのかを紐解いていく。
『ドラゴンボール』に見る80年代ファッションのリアル

まず「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1984年〜1995年に連載され、梅本さんも学生時代に読んでいたという『ドラゴンボール』について。
「序盤はやっぱり80年代風の服が多くて、ブルマとかはスタジャンに短パン、オールインワンの服を着ていたりするスタイルが印象的です。いわゆるボディコンっぽいスタイルも目立ちます。こういうブルマのスタイルは2025年に読むと“今っぽい”とも感じるし、2020年代にも通用するファッションやと思います」
梅本さんがそう語るように、『ドラゴンボール』の登場人物たちは、時代のカルチャーの空気をそのまままとっている。一方で、「悟空や悟飯、ベジータなんかは当時からダサい印象で、今見てもやっぱりダサい(笑)」と梅本さん。
「ダサい人はダサいファッションの描写もリアルでなんです。物語の後半で登場したキャラクターだと、人造人間17号と18号はオシャレな感じだし、トランクスが登場したときは『メッチャ短丈のGジャン着てるな!』と衝撃を受けました。当時はまったく流行っていないスタイルでしたけど、今読むとトレンドっぽいのが面白いですね。あとセンターパートの髪型も韓流っぽくて今見るとオシャレです。トランクスが出てきた時代を考えると、吉田栄作とかの影響もあるのかな? と感じます」
鳥山明の“カラーリングセンス”が生んだ時代性
さらに梅本さんが注目するのが、鳥山明の“色彩感覚”だ。
「フリーザだったら白と紫、悟空の道着ならオレンジとブルー、ベジータの戦闘服は白とベージュとブルー。鳥山明さんは、各キャラクターが明確なイメージカラーを持っていますよね。いったらゴレンジャーと一緒なんですけど、鳥山さんは複数の色を組み合わせるのがメチャクチャ上手い。ファッションデザイナーから見ても脱帽のセンスがあります」
また梅本さんは、鳥山作品が“配色によるブランディング”の先駆けであったとも分析する。
「ファッション業界でも『この色とこの色の組み合わせはあのブランド』みたいな色使いの戦略がありますけど、鳥山さんはそれをキャラクターでやってるんですよね。だからアディダスが白と紫を使ったフリーザコラボのスニーカーを出したりと、『ドラゴンボール』はファッションブランドともコラボしやすい作品になっています。このあたりは紫と緑=初号機とイメージできる『新世紀エヴァンゲリオン』なんかも一緒です」
『特攻の拓』に見るワークとミリタリーの融合

続いて梅本さんが語るのは、『特攻の拓』(1991〜1997年)だ。
暴走族の世界を描いたこの作品にも、当時の社会と若者のリアルなスタイルがそのまま反映されている。
「俺の周りにも中学から勉強せんと、『高校行かずに働くわ』言うて土建屋に入ったヤツがいましたけど、服装とかは『特攻の拓』のキャラクターそのまんま。ドカジャンに作業服で仕事帰りにバイク乗ってました。少しダサい部分も含めて、時代の服装をリアルに写しているんですよね」
さらに特攻服などのアイテムも、ファッションの文脈で分析すると面白いという。
「特攻服って、ミリタリーとワークのかけ合わせなんです。軍服っぽい刺繍とかのデザインと、現場作業服の実用性が混ざっているスタイルなんですよね。学ランももともとミリタリーがルーツですし」
暴走族の服装は“戦う服”と“働く服”の融合であり、彼らの服装は単なる反抗の象徴ではなく、当時の労働文化や社会構造を背景にした“機能と誇り”の表現でもあったのだ。
“群れない個性”に見るスタイルの美学――天羽セロニアス時貞
梅本さん個人としては、特攻服のようなスタイルは「今も昔も好きじゃない(笑)」というが、『特攻の拓』では天羽“セロニアス”時貞のスタイルには惹かれるものがあったという。
「シルバーの髪をおっ立てたギタリストらしいギタリストのキャラクターで、ファッションはムートンコートにVネック、細身デニムにサイドゴアブーツ。僕のブランドでは、今でも似たようなルックを作っています。昔の知り合いには“お前、ブレてへんな”って言われます(笑)」
彼の“群れない個性”にも強く共感したという。
「僕は暴走族の『群れてケンカする』という生き方も、みんなで同じような服を着るスタイルも好きになれませんでしたけど、天羽君は暴走族マンガのなかで『こいつ、1人だけ違う!』と感じるキャラクターでした。この連載の前の回(https://cyzo.jp/culture/post_395382/)で、ビジュアル系全盛期に革パン、タンクトップを貫いていたLUNA SEAのJさんの話もしましたけど、『周りに合わせず自分を貫く人』はやっぱりマンガでもカッコいいです」
結局のところ、時代や流行が変わっても“自分のスタイルを信じる人”は永遠にかっこいい。次回は引き続き「マンガにおけるファッション」をテーマに、『BECK』(講談社)、『無頼男(ブレーメン)』(集英社)といった音楽マンガに描かれた“ロックな服”を読み解いていく。
(構成=古澤誠一郎)
梅本剛史(うめもと・たかふみ)
RESOUND CLOTHINGディレクター&デザイナー。海外メゾンデニムブランドのデザインや、LUNA SEA、DIR EN GREY、AAA、SMAP、Kis-My-Ft2などのアーティストの衣装製作も手がけた経験も持つ。スキャンダルのある芸能人を自身のブランドのモデルに積極起用することでも話題に。
https://resoundclothing.com/
