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『金ロー』を独自視点からチェックする!【85】

毒を失ったティム・バートン監督作『ダンボ』 “異形の天才”は自己模倣から復活できるか?

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映画『ダンボ』[AmazonDVDコレクション]

 空飛ぶ子象のダンボは、ディズニーの救世主として知られています。巨額を投じた大作アニメ『ファンタジア』(1940年)が興行的に失敗し、倒産の危機に陥っていたディズニー社を救ったのが、上映時間64分とコンパクトにまとまった劇場アニメ『ダンボ』(1941年)でした。

キキが飛べなくなった理由

 ダンボのキャラクターのかわいらしさもあって、興収面でも大成功。ディズニーの人気キャラクター路線は、ここから始まることになりました。ディズニー社にとって、ガネーシャ級にありがたいキャラをCGで復活させたのが、ティム・バートン監督の実写映画『ダンボ』(2019年)です。

 サーカスを舞台に、はみ出し者が活躍するというティム・バートン監督らしい内容なのですが、正直なところ実写版『ダンボ』からはワクワク感が伝わってきません。興収も日本では10億円と寂しい結果で終わっています。

 なぜ、ティム・バートン監督の実写版『ダンボ』は奮わなかったのか? 5月15日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で本編ノーカット&初放映される『ダンボ』を題材に、近年のティム・バートン監督が低迷している事情を考えてみたいと思います。

ダンボの世話をする家族の物語

 物語をざっとおさらいしましょう。第一次世界大戦が終わり、かつてサーカス団のスターだった曲芸馬乗り師のホルト(コリン・ファレル)が帰ってきました。しかし、ホルトは戦争で左腕を失い、馬に乗ることができません。ホルトの帰りを待っていた娘のミリー、息子のジョーと、象の世話をすることになります。

 身重だったインド象のジャンボが出産します。生まれたのは異様に耳の大きな子象でした。みんなの笑いものになる子象でしたが、ミリーとジョーは「ダンボ」と呼び、愛情を注ぎます。母親をスペイン風邪で失っていたミリーとジョーは、ジャンボと引き離されたダンボの世話を焼くことに熱中します。

 やがて、ダンボは大きな耳を使って、空を飛べることが分かります。落ち目だったサーカス団は、ダンボのおかげで大賑わいに。そんなダンボの人気に目をつけたのが、大物興行師のヴァンデヴァー(マイケル・キートン)でした。

 ヴァンデヴァーに誘われ、サーカス団はNYの巨大娯楽施設「ドリームランド」のショーに参加します。ところが、ヴァンデヴァーはお金儲けしか頭になく、母親象のジャンボを殺処分しようとします。ビジネス優先か、動物愛護か。ホルトたちは決断を迫られます。

ディズニーブランドの中で消えていった毒気や個性

 ティム・バートン監督はもともとはディズニー社のアニメーターとしてキャリアをスタートさせています。若くして特異なビジュアルセンスで認められ、ディズニー社を出ると『ビートルジュース』(1988年)などの実写ファンタジーで人気を博します。

 世間になじめない変人たちを主人公にしたティム・バートン監督作品の人気がピークに達したのが、『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)でしょう。『チャリチョコ』が世界的な大ヒット作になったことで、ティム・バートン監督は古巣のディズニーで『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)を撮ることになります。

 興行的には成功した『アリス・イン・ワンダーランド』ですが、ティム・バートン監督の輝きは次第に失われていきます。ディズニーという大企業のブランドの中で、彼ならではの毒気や個性は消えてしまったのです。

 ディズニーがティム・バートンを取り込んだのか、それともティム・バートンがすっかり大人になったのか。そうしたディズニーの「誰が見ても安心して楽しめる」というブランドの枠組で製作されたのが、実写版『ダンボ』でした。

改変された「ピンクの象」たちの行進

 ティム・バートン監督がすっかり「毒」を失ったことを痛感させるエピソードがあります。

 オリジナル版の『ダンボ』には子象のダンボがシャンパンを飲み、酔っ払って、ピンクの象たちが行進するという幻覚を見る有名なシーンがあるのですが、およそ子ども向けとは言えない描写となっています。アルコール依存症者が離脱症状時に見る「大名行列」を思わせるヤバさが、ピンクの象たちの行進にはあります。

 アニメ版『ダンボ』が公開されたのは太平洋戦争が始まる前年の1941年です。ざわついた社会背景もあったのかもしれませんが、子どもはこうした予定調和的でないハプニング性の強いシーンが大好きです。

 しかし、実写版『ダンボ』からはそうしたヤバ味を感じさせるシーンは消え、コントロールされたピンクの象たちが登場します。面白くもなんともありません。

大手スタジオに振り回された過去

 なぜ、ティム・バートン監督から「毒」が消えたのか? それは、彼が映画スタジオには逆らえないことを身に染みて知っているからです。

 今回、ディズニーヴィランを演じているマイケル・キートンですが、ティム・バートン監督の『ビートルジュース』に主演し、続く『バットマン』(1989年)では主人公のバットマンに扮しています。サーカスの団長役のダニー・デヴィートと共演した『バットマン リターンズ』(1992年)は、異形の者同士の闘いを描いた大傑作です。

 しかし、『バットマン』『バットマン リターンズ』が当たったことで、ティム・バートン監督は、さらなる大作『スーパーマン・リヴズ』の企画をワーナー社から依頼されます。社会のはみ出しものを撮り続けてきたティム・バートン監督は、完全無欠のスーパーヒーロー映画の企画にさんざん振り回されるはめになります。

 ニコラス・ケイジに青いタイツを履かせて、空を飛ばすなんて、ワーナーの企画自体がどうかしていました。ティム・バートン監督はかなりの時間を費やしたものの、企画は流れてしまいます。

 プロデューサーたちに振り回され、疲弊したティム・バートンを慰めるために、盟友ジョニー・デップが持ちかけた企画が『スリーピー・ホロウ』(1999年)でした。このくらいの規模のホラーファンタジーが、本来はいちばん合っている監督なんですよ。

 いちばん売れてる監督に、いちばん売れてる俳優と組ませて、鉄板企画で大ヒットを狙うというハリウッドスタイルに、ティム・バートンはいちばん合わないクリエイターでしょう。

ティム・バートンの復活に欠かせないもの

 ブランド化された大企業であるディズニー社との仕事なら、安定したヒットは約束されています。しかし、同時にディズニーブランドの中で作家性を失うことにもなりかねません。

 実写化された『ダンボ』では、マイケル・キートン演じる大物興行師が一見すると紳士ふうに見えるものの、その正体は金の亡者として描かれています。このキャラはディズニーをはじめとする大手映画会社の重役たちに対する、ティム・バートンの精一杯の当てこすりではないでしょうか。

 さて、『ダーク・シャドウ』(2012年)や『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016年)など近年はすっかり自己模倣に陥っているティム・バートンですが、このまま才能が枯れてしまった存在となってしまうのでしょうか。

 もともとはアニメーターだったので、手描きアニメに戻るのもありではないでしょうか。これからはAIを使った映画の時代になりそうですが、時代に逆行するのもティム・バートンらしくていいと思います。

 Netflixで配信された『ウェンズデー』(2022年~)の第1シーズンでは、ティム・バートンは第1話~第4話を監督しており、なかなか好評を博しています。ウェンズデーを演じたジェナ・オルテガは、ティム・バートン好みなゴスメイクの似合う年少ヒロインでした。

 結局のところ、ティム・バートン監督は『ビートルジュース』のウィノナ・ライダー、『エド・ウッド』(1994年)のリサ・マリーといった“ミューズ”との出会いによって、才能は活性化されるようです。

 いくらお金を積まれても、どうにもならないのが、天才クリエイターのモチベーションってやつみたいですね。

『耳をすませば』二つの悲劇

(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2026/05/15 12:00