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『金ロー』を独自視点からチェックする!【66】

クリスマス映画の定番『ホーム・アローン』 ハリウッドも日本も元気だった時代の思い出

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 今やすっかりクリスマス映画の定番となっているのが、コメディ映画『ホーム・アローン』(1990年)です。天才子役ともてはやされたマコーレ・カルキンくんは撮影当時9歳でした。今では2児の父親だそうです。カルキンくんの子役時代の姿を見て、もう年の瀬だなぁと感じる人も多いのではないでしょうか。

異質のディズニー映画

 ひとりぼっちで年末年始を迎える人も、家族と過ごす人も、どちらも楽しめる作品ということで、『ホーム・アローン』は『金曜ロードショー』(日本テレビ系)ではすでに8回も放送しています。ストーリーは分かっていても、家族の温かさとクリスマスに起きるささやかな奇跡を描いたエンディングは、世知辛い現実世界を少しだけ忘れさせてくれます。

 それでは、今年最後の『金ロー』となる12月19日(金)放送の『ホーム・アローン』の見どころとに触れつつ、今なお愛され続ける理由を考えてみたいと思います。

大家族でハブられる末っ子の物語

 舞台となるのは米国中西部の大都市・シカゴです。中流階級の大家族・マカリスター家は、フランスのパリでクリスマス休暇を過ごすことに。出発前夜、伯父さん一家も合流し、マカリスター家は大賑わいです。

 末っ子のケビン(マコーレ・カルキン)は甘えん坊のくせに生意気な性格で、一家のはみだし者です。旅行の準備でみんな忙しくしており、誰も自分にかまってくれないので面白くありません。長兄のバズ(デヴィン・ラトレイ)にからかわれたことからトラブルを起こし、母親のケイト(キャサリン・オハラ)に屋根裏部屋でひと晩過ごすように命じられます。「こんな家族 消えちまえ」と毒づくケビンでした。

 翌朝、ケビンが屋根裏部屋から降りてくると家族みんなが消えていました。寝坊した一家はあわてて空港に向い、ケビンのことをすっかり忘れていたのです。自分を邪魔者扱いする家族がいなくなり、ケビンは大喜びです。

 アイスクリームやピザは食べ放題、普段は観させてもらえない犯罪映画を見たりと、ひとり暮らしを満喫するケビンでした。しかし、夜になって現れたのはクリスマス休暇の留守宅を狙った泥棒コンビ(ジョー・ペシ、ダニエル・スターン)でした。幼いケビンは、たった1人で泥棒たちに立ち向かうことになります。

 ケビンは今どき珍しい5人兄妹という設定です。さらに従兄弟たちも加わり、お祭り状態です。細田守監督の人気アニメ『サマーウォーズ』(2009年)でも描かれたような親族が一堂に会する集まりは、日本でも米国でも今では結婚式か葬式くらいでしょう。お正月やお盆には、親戚みんなが集まっていた懐かしい時代を思い起こさせるものがあります。

若い世代も共感する「我が家が一番!」

 ケビンの散らかしっぱなしのミニカー、兄が飼っているタランチュラといった小道具の数々が、物語後半に伏線として見事に回収されていきます。脚本&製作総指揮を務めたジョン・ヒューズは、80’sハリウッドの伝説的クリエイターです。

 ジョン・ヒューズは、地元のシカゴを舞台にした青春映画の数々を残しています。監督作『すてきな片想い』(1984年)や『ブレックファスト・クラブ』(1985年)は、フジテレビ黄金時代のトレンディードラマに多大な影響を与えています。ジョン・ヒューズ作品はハリウッドが元気で、日本も景気がよかった時代を思い出させるものがあるんです。

 世界的な大ヒットとなった要因は、クリス・コロンバス監督の起用も大きいでしょう。コロンバス監督は、これもクリスマス映画として人気のSF映画『グレムリン』(1984年)の脚本家として注目を集め、監督作『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)と『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002年)でも魔法学校のクリスマスを描いています。

 コロンバス監督の作品のほとんどは、子どもたちが大活躍します。「永遠の童心」の持ち主です。日本で言えば、『大怪獣ガメラ』(1965年)や『蛇娘と白髪魔』(1968年)などを撮った湯浅憲明監督みたいなタイプでしょう。湯浅監督も、コロンバス監督も、もっと評価されていい監督だと思いますよ。製作予定の『グレムリン3』は、コロンバス監督作になるらしいので期待したいところです。

 ならず者たちをホームで迎え撃つという展開は、ジョン・ウェイン主演の西部劇『リオ・ブラボー』(1959年)や『ジョン・カーペンターの要塞警察』(1976年)などのアクション作品の系譜に連なるものです。自宅をDIYで要塞化するという設定は、シルベスタ・スタローンが『ランボー ラスト・ブラッド』(2020年)で踏襲しています。

 我が家を守るために、ケビンは知恵と勇気を振り絞って戦います。『ホーム・アローン』で描かれる「我が家が一番!」というモチーフは、今の若い世代も共感するのではないでしょうか。

「シャベル殺人鬼」の意外な正体

 カルキンくんの天才子役ぶりが大いに話題となった『ホーム・アローン』ですが、彼の演技を引き立てた大人の俳優たちの存在も見逃せません。間抜けな泥棒を演じたジョー・ペシですが、マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(1990年)では冷酷極まりないギャングを演じた名優です。

 相棒役のダニエル・スターンは『シティ・スリッカーズ』(1991年)などでも好演し、今は芸能界を引退して、夫婦で農園を営んでいるそうです。どこか憎めない泥棒役に、ぴったりな配役でした。

 隣人のマーリー老人(ロバーツ・ブロッサム)も、怖い大人の代表です。兄のバズから「シャベル殺人鬼」というフェイク情報を吹き込まれたケビンは、寡黙なマーリー老人を恐れています。クリスマスイブ、ケビンは立ち寄った教会で、マーリー老人から「大人になっても怖いものがある」という意外な告白を聞かされることになります。

 コワモテなマーリー老人ですが、息子とケンカして仲違いしたことを悔やんでいます。仲直りしたくても「断られたらと考えると怖い」とケビンに打ち明けます。家族の愛情にいちばん飢えていたのが、マーリー老人だったのです。

 普段はクソ生意気なガキのケビンですが、さびしいイブを過ごす者同士として、マーリー老人に「息子さんに電話すれば」と助言します。

 ひねくれ者のケビンと孤独なマーリー老人の交流シーンを見ると、やはり米国はキリスト教の国なんだなぁと感じずにはいられません。ちなみにパリにいる兄のバズたちが観ているのは、クリスマス映画のかつての定番『素晴らしき哉、人生!』(1946年)です。博愛の精神や隣人愛を、続編『ホーム・アローン2』(1992年)に出演しているトランプ大統領も忘れずにいてほしいものです。

その後のキッズ映画にもたらした教訓

 もうひとり忘れてならないのが、キャサリン・オハラ演じる母親のケイトです。ケビンをうっかり忘れてパリに来てしまったことから、ケイトは「ダメな母親」と自分を責め続けます。ホリデーシーズンで飛行機の席が取れない状況ですが、ケイトは自宅に戻ろうと必死です。ケビンが泥棒相手に戦っている間、ケイトも心の中で息子の無事を祈り続けています。

 一方、ケビンはそれまで怖がっていた地下室に平気で降りられるようになり、洗濯や買い物もひとりできるようになっていきます。目覚ましい成長を見せるケビンですが、母親のケイトが戻ってくると甘えん坊に逆戻りするんですよね。でも、そこがいいんです。ひとりぼっちで闘ったケビンだけに、母の温もりがいっそう身に沁みたのではないでしょうか。

 みなさんもご存知のとおり、『ホーム・アローン』が世界的な大ヒット作になったことから、マコーレ・カルキンくんの両親は膨大に膨れ上がったギャラを巡って、ドロドロの離婚裁判を繰り広げることになります。シリーズ化される『ホーム・アローン』ですが、現実は笑えない状況となっていきました。この教訓があって、コロンバス監督は子役のオーディションでは、両親の人柄も確かめるようにしているそうです。

 気に入らない映画にはさんざん毒を吐いている映画ゾンビですが、年末年始はジョン・ヒューズ脚本やクリス・コロンバス監督のハートウォーミングな作品に触れて、心穏やかに過ごしたいなと思っています。映画館で映画を観るなら、かわいい三頭身キャラで心をえぐる戦争アニメ『ペリリュー 楽園のゲルニカ』ですかね。

『ホーム・アローン2』はクリぼっちに最適

文=映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2025/12/19 12:00