完全新作が“逆輸入”で日本凱旋!! 平成の名作ギャグアニメ『おぼっちゃまくん』が大国インドでバズったワケ
昨年12月に愛知県名古屋市で誕生した『あいち・なごや インターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)』でひと際目を引いたプログラムのひとつが、インド版『おぼっちゃまくん』のジャパンプレミアだ。なんでこのタイミングで続編? しかもなぜインドで? ……と次々に沸いてくる疑問を直接ぶつけて解消するべく、現地でトークイベントにも登壇したテレビ朝日・国際ビジネス開発部の隅田麻衣子さん、シンエイ動画の岡野孝規プロデューサーを直撃した。

『おぼっちゃまくん』
小学生のバイブル『月刊コロコロコミック』(小学館)で86年から8年以上にわたって連載された漫画家・小林よしのりの出世作。全24巻。89年1月スタートのアニメ版も、毎週土曜19時半という、いまでは考えられない超ゴールデンタイムで約3年半にわたって放送され、平成初期の小学生のあいだに空前の“茶魔語ブーム”を巻き起こした。今年は連載開始から40年の節目でもある。

茶魔の活躍が 閉塞した日常の希望に
──まずは素朴な疑問なのですが、なぜこのタイミングで、しかもインドで、平成初期のギャグアニメ『おぼっちゃまくん』がリブートすることになったのでしょう?
隅田麻衣子さん(以下、隅田) やっぱりコロナ禍というのが、要因としてはいちばん大きかったですね。実はインドでは、2012年にも旧シリーズの放映を一度しているのですが、そのときは今回ほど人気も出なかったんです。それが一転、テレビが唯一の娯楽みたいな状態になっていたコロナ禍の2021年に再放映されたことで、爆発的に火がつきまして……。
ご存じのように、インドは世界でも有数の厳しいロックダウンが行われた国。当時は学校自体も1年以上にわたって休校になったようで。そういうなかで、期せずしてインドの子どもたちの心をつかんだのが、テレビから流れてきた『おぼっちゃまくん』だった。茶魔たちのあのハチャメチャぶりが、友達にもなかなか会えない子どもたちの鬱屈した日常を明るく照らしたんですね。
──なるほど。コロナ禍の日本で『鬼滅の刃』が大ヒットしたのと同じような現象が、インドでは『おぼっちゃまくん』で起きた、と。そんな予期せぬ大バズりが「新作を観たい」という現地のニーズにも繋がったわけですね。
隅田 そうですね。あとこれは、『おぼっちゃまくん』だけに限ったことではないんですが、インドでは、ひとつの作品を月曜からも金曜まで毎日、それも同じエピソードを1日に何度も再放送する、みたいな放送形態がわりとスタンダードだったりもするので、話数の消費が日本とは比べものにならないくらい早いんです。なので、かなり早い段階から「続きが見たい」「それもいますぐ欲しい」という状態にはなっていまして。ただ、日本で作ってからの提供だとタイミング的にも間に合わない。そういうこともあって、「ならば試しに現地でつくってしまおう」という今回の流れができたんです。
──確かにそれだと現地ニーズとのタイムラグも最小限に抑えられます。とはいえ、今回の“インド版”を拝見すると、茶魔たちは変わらず『田園調布学園』に通っていますし、背景なども日本のまま。ローカライズはほとんどされていませんよね?
岡野孝規プロデューサー(以下、岡野) 今回に関しても、シナリオはすべて小林先生監修のもと、こちらで作っているので、当初はインドから転校生がやってくる、とか、茶魔たちがインドに行って、御坊家と同じくらいお金持ちのマハラジャに会う、みたいな展開も考えてはいたんです。
でもインド側が欲しているのは、あくまで「続き」。「これまでと同じ世界観でやってほしい」というのは、実は先方の強い要望でもあったんです。なので、インドらしさ、みたいな部分は取り立てて強調せず、社会の授業でインドの勉強をする、みたいなシーンを少し入れるぐらいに止めています。

時代に合わせ 茶魔語もアップデート
──ちなみに、日本の小学生たちのあいだに一大ブームを巻き起こした“茶魔語”は、ベースがダジャレ。現地のヒンディー語などに翻訳をされてしまうと、そういった日本語ならではの言葉遊びのおもしろさ、みたいな部分は当然、失われてしまいますよね?
隅田 インドのほうが日本より検閲は厳しいので、たとえば「ともだちんこ」は「ふんどしの友」と訳されていたり……。基本的には、意味を汲んだうえで、絵から連想されるおもしろい言葉に置き換える形を取っています。絵の時点でヨーグルトを持っちゃっている「おはヨーグルト」なんかだと、牛乳をこして作るヨーグルトのようなインドの発酵乳製品「カード」に置き換えて、「グッドモーニングカード」といった具合ですね。
岡野 こんなことを言うのはなんですけど、僕らからしても茶魔語ってかなり大きな要素だと思っていたので、「なんで人気が出たんだろ?」と不思議に思うところもあったんです。でも、絵のおもしろさや雰囲気だけでも、子どもにはちゃんと伝わっている。実際、僕らも現地に行って、作品のもつ力をあらためて肌で感じましたしね。
──聞くところによると、今回の続編では「ともだちんこ」に替わる、新ギャグも登場しているとか。茶魔語を乱発して大人に怒られていたリアルタイム世代からすると、「ともだちんこ」あっての『おぼっちゃまくん』という気がしなくもないですが……。
隅田 そこは岡野さんをはじめとしたシンエイ動画さんサイド、やすみ哲夫監督なんかにも入っていただいて、かなり議論を重ねたところではあるんですけどね。最終的には小林先生も交えたキックオフミーティングをまえに「21世紀のグローバル時代に『ともだちんこ』はやはりマズいだろう」と、やすみ監督がおっしゃったこともあって、小林先生が1円玉をお友達の額に貼る「フレンドリッチ」という新ギャグを自ら考案。「ともだちんこ」に代わって新たに採用されることになりました。
岡野 「ちんこ」とか「ウンチ」といった言葉をぜんぶ封印しちゃったわけじゃないんですけど、僕らのほうも手探りだったぶん、少しビビっちゃったところはあったかもしれないですね(笑)。ちなみに続編には、小林先生が自らプロットも書いてくださった「フレンドリッチ」誕生にまつわるエピソードも。それを観ていただければ、込められた先生の思いや哲学みたいなものも、きっと感じていただけるとは思います。
──インドは、かつての日本が経験したような高度経済成長の真っ只中。15歳未満の子ども人口だけでも、約3.6億人というまさに「これから」の国ですからね。そういう部分でも、作者として伝えたいメッセージがきっとあったんでしょうね。
隅田 まさに。先生ご自身も「資本主義へのアンチテーゼとして、わしはコレを描いたんじゃ」とおっしゃっていましたからね(笑)。そもそも原作コミックからして、クレイジーリッチなハチャメチャばかりを描いているわけでは全然ないですし、その根底には家族愛や友情といったヒューマニズムがちゃんとある。40年前の作品である『おぼっちゃまくん』がこれほど受け入れられたのも、国としてすごく勢いがあって、でもそこには明確な格差もあって……という、いまのインドのメンタリティに、あの頃のそういうものがマッチしたからだとも思いますしね。

現地では『つるピカハゲ丸』も大人気!?
──「二匹目のドジョウ」じゃないですけど、『おぼっちゃまくん』のような形での続編の現地制作なども、今後は選択肢には入ってくる感じですか?
岡野 今回も監修で入っていただいたやすみ監督も、「これだけで終わらせるのはもったいない」と、現地スタジオのポテンシャルをすごく買われていたので、せっかく培ったノウハウを活かせる次なる手だてを、僕らとしてもいろいろ模索しているところです。今回はあくまで続編ということで、こちらの様式にできるだけ寄せてもらいましたけど、IT大国であり、映画大国でもあるインドの技術力はすでに世界有数。表現の可能性は、まだまだ計り知れませんからね。
あとこれは、僕が勝手に言っているだけですけど、同時期のコロコロ作品で向こうでもすでに人気がある『つるピカハゲ丸』(原作:のむらしんぼ/88〜89年放送)の続編なんかは、個人的にもやれたらいいな、と。いまや日本ではかなりハードルが高くなっちゃっているああいう子ども向けギャグアニメも、いまのインドでならおそらくやれる。監督も同じやすみさんだったりしますしね。
隅田 “つるせこファミリー”の「セコさ」も、いまのインドの人たちにはノリ的にすごく合うみたいで、「続編を」という声は、実はけっこうあるんです。現地に行くと「ハゲマール、ハゲマール」とふつうに浸透していて、わりとビックリしますからね(笑)。
──テレビ朝日&シンエイ動画と言えば、やはり『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』。とりわけ、昨年の劇場版『クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』はインドが舞台のお話でもありましたし、今後の展開が楽しみです。
隅田 ほんの数年前までは「子どもが観るもの」という感じだったインドでのアニメーションの位置づけも、コロナ禍を経て、ずいぶん変わってきまして、くだんの『クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』も、昨年9月に初めてインドで劇場公開。おかげさまでヒットもさせていただくことができました。
この20年でインドでもテレビでアニメを観る、という文化が根づいてきて、なかには野原しんのすけが、「同じインドの子」だと思っている子もいるぐらい、日本のアニメも日常には浸透している。私たちとしては、そうやって好きになってもらえた作品の世界観をどんどん広げていけるような仕掛けを、今後も考えていきたいと思っています。
──今回は貴重なお話をありガチョウございました。インド版の日本での放送はまだ未定とのこと。逆輸入でのリバイバルヒットも、いまから気体しとりましゅ!
(取材・文=鈴木長月)
<インフォメーション>
インド版『おぼっちゃまくん』
インドのキッズ専門チャンネル『SONY YAY!』で、2025年春から放送がスタートしたオール新作・全26話の新シリーズ。制作はテレビ朝日が100%出資し、シナリオ作成と監修を日本のシンエイ動画が、アニメーション制作を現地のスタジオ『Green Gold Animation』がそれぞれ手がける。
あいち・なごや インターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)
2025年12月12日〜17日開催
https://aniaff.com