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25年『鬼滅』『国宝』『コナン』興収100億超ヒット連発の東宝一強時代、そして26年以降に増大する“懸念”

25年『鬼滅』『国宝』『コナン』興収100億超ヒット連発の東宝一強時代、そして26年以降に増大する“懸念”の画像1
映画『国宝』の主演・横浜流星と吉沢亮(写真:GettyImagesより)

 改めて2025年の邦画業界を振り返ると、東宝がとにかく絶好調だった。そして新年。どうしても前年との比較が気になるなかで、東宝の強さがもたらす影響、あるいは“反動”はないものかを考えたい。

『鬼滅』『国宝』での壮大な“サブリミナル”

 エポックメイキングな出来事として、何といっても『国宝』(2025年6月6日公開)が興行収入183.5億円(同12月28日時点、以下同)を記録し、『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003、173.5億円)が22年間守ってきた実写邦画No.1の座を塗り替えたのには日本中が沸いた。また、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(7月18日公開、387.1億円)は日本映画史上最速となる46日間で興収300億円を突破し、年をまたいでなお上映中で、現状1位の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020、407.5億円)超えも射程圏内だ。

 その他興収100億円を突破した作品には『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』(2025年4月18日公開)があり、『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』(同9月19日公開)も12月30日と年内に大台超えを達成。2025年に興収100億円を突破した4作品すべてが東宝作品、また邦画の興収ランキングではトップ10のうち9作品を東宝が占めた。

 もはや“東宝一強”とも言える圧倒的な強さは、なぜ生まれたのか。そして、日本の映画界にどんな影響を及ぼすのか。業界事情に詳しい映画評論家・前田有一氏に話を聞いた。

歴代最高を8カ月で更新

 国内の映画業界全体の年間興行成績は例年1月に発表され、今はまだ集計段階だが、前田氏は2025年の成績について「過去最高の2019年(2611.8億円)を上回る可能性が高い」と見る。数字を牽引するのは、やはり東宝の勢いだ。

 東宝が2025年9月9日に発表した「映画営業部門 興行成績速報(2025年8月度)」によると、1月から8月までの累計で1129億円(東宝グループ合算)と、歴代最高だった2023年度の数字(1055億円)を8カ月で更新。その後も着実に伸長し、11月時点で1382億円だった。

「全体の年間興行収入のうち、昨年の東宝のシェアは50%を超えるでしょうね。例年だと35%程度なので、東宝にとっても大型のヒット作が連発した“異常事態”だったことはたしかです」(前田氏、以下同)

製作・配給・興行の全工程を握る東宝の強さ

 前田氏によれば、東宝の最大の強みは「垂直統合」にある。垂直統合とは、製品やサービスの提供において、2段階以上の工程を自社のビジネスに統合することを指すマーケティング用語。東宝なら製作・配給・興行と、映画づくりから観客に届けるまでの工程すべてを自社で担う体制が整っている、ということだ。

「特に、自社で運営する映画館(『TOHOシネマズ』)を全国展開していることは大きな強みです。今、全国のスクリーン数が3700ぐらい(2024年12月時点で3675)なところ、東宝は2025年6月時点で705スクリーンを占める。

 そこに自社で作った作品を思うように流すことができる。配給力の強さを活かし、人気作の上映回数を操ることで雪だるま式のヒットを確実にできるわけです」

 情報量が飽和し、今度はそのスピードが問われる現代において、自社で映画館を持つメリットはますます大きな意味をもつ。前田氏は、東宝ならではともいえる「本編前の予告映像による宣伝・集客効果」を挙げる。

「配給作品数が増加傾向にある一方で、シネコンは稼働率を重視するので、映画界はどんどん“初週勝負”になっています。初週に観客の入りが悪いと、映画館はあっという間に上映回数を減らす。次に上映する作品が待っているし、単純に客が入らないものをかけるより、ヒットしているものをかけたほうが儲かるためです。初週勝負で大事になるのは、いかに公開前に客の心をつかんでおくか。その点、ヒット作に自社作品の予告編をかけられるのは大きな強みです」

『鬼滅の刃』のような動員数が多い映画に、次なる自社作品の予告を流すことで、潜在層の興味・関心を確保できるわけだ。映画館の座席という不可抗力の場で見せられる予告編が、他にはない宣伝効果を持つことは想像に難くない。

 自社が儲かれば、当然次の作品の予算を増やせるというメリットも生まれる。

「儲かれば、作品づくりに巨額のお金がかけられるようになる。制作陣も、お金があって宣伝もしてくれるとなると、東宝を選びたくなるでしょう。余裕が生まれれば、次世代を育てるような取り組みもできる。ヒット作が次のヒットを呼ぶ循環が生まれます」

東宝一強時代に懸念される「市場支配」

 一方で映画業界全体を俯瞰すれば、あまりにも東宝一強の事態は、良いことばかりではないと前田氏は言う。

「『垂直統合』戦略となると、大手が利益を独占することになるのは明白です。独占禁止法の観点から、アメリカの映画業界では、最近まで映画会社が興行も担うのは禁じられていたほど(※)です」

※1920年代から1950年代までハリウッドの映画産業は、映画会社が自社制作の作品を直営の映画館で興行することで、事実上の寡占状態を作り出していたため、米政府は、こうした市場支配を禁止(1948年『パラマウント判決』)。ただしサブスクが台頭し、市場のあり方が変わったことで、2020年前後に見直されている。

消えゆく映画の“多様性”

 強い配給力と強い流通力により、東宝が他社を圧倒する裏では、多様性が失われる懸念が無視できない。前述した「稼働率」にも通じる話だ。

「手堅いヒットで儲けを狙うとなると、万人受けするアニメやアクションなど、ジャンルが偏りやすくなります。本来映画館は、映画だからこそ描ける尖った内容を上映できるのが魅力の一つでもあった。だからこそR18、R15+といった指定が作られているんですね。製作時に動員数が見込める企画ばかりが優先されると、観客側も無難な作品に慣れ、安心感を求める空気が醸成されてゆく。結果として、映画館で上映されるラインナップが均質化する」

 存亡の危機に瀕するのがミニシアターだ。

「そうなると、独立系の“いい映画を選んでかける”ような映画館の経営は、厳しくなります。東京はまだしも、地方はもはや“メジャー作品”以外映画館で見られなくなる可能性も出てきます」

 人材の流出も免れない。

「映画会社から大コケしないものが求められ、クリエイティブの主導権が失われることで、窮屈さを感じる監督は出てくるでしょう。実際、今は配信系の方が自由で、『モテキ』(2011)や『バクマン。』(2015)などで知られる大根仁さんはネトフリ(Netflix)で『地面師たち』(2024)というヒットを生みました。セックスシーンや暴力描写などにも踏み込み、大きな話題化に成功。その結果が評価され、2024年にはNetflixと5年間の専属契約を結んでいます」

「時代が求める価値」を読む強さ

 東宝は、映画館の在り方さえも変えてきた。2010年代以降の東宝は「体験価値」を重視し、映画館をレジャー施設、イベントスポット化という価値観を当たり前にした。例えば2010年には、洋画大手が先行していた3D映画を本格展開。2015年には、シーンに合わせて座席が動いたり、煙や水などの特殊効果が楽しめたりする4DXシステムを国内で初めて導入した。

 前田氏は、東宝がここまで強くなった秘訣に「時代に合った価値創出に、先陣を切って取り組んできた企業体質」を挙げる。時代をプロデュースすることに長けるのだ。

「昔から松竹や東映が“監督の会社”とか“役者の会社”と言われるのに対して、東宝は“プロデューサーの会社”で、企画力や宣伝力を武器にしてきた会社。マーケティング力があり、IPやアニメなどの“稼げる”ものにいち早く目をつけ、育ててきたのが東宝です。その時代の人々の導線を読むのがうまい。

 日本の映画の歴史を見ると、東宝は1950年代半ばに『七人の侍』や『ゴジラ』(ともに1954)などの大作ヒットで、それまで強かった松竹を抜き、業界トップとなりました。1960年代にテレビが普及すると、東宝は怪獣映画に力を入れて、テレビ世代の子供たちという客層を開拓。テレビ局とタッグを組むという新しい手法で、『踊る大捜査線THE MOVIE』シリーズをメガヒットさせたのもその一例です」

2026年は映画界にとって“激動の一年”になるか

 結局のところ東宝の強さは、“時代が求める価値”をビジネスとして成功させてきたことにある。

「東宝は不動産も強いので、経営基盤が盤石。息の長いアニメやIPもたくさん保有しています。元々アニメといえば、ドラゴンボールやプリキュアを持つ東映が強かったのですが、新しいものが育っていませんし、『週刊少年ジャンプ』(集英社)系の人気漫画も、資金や拡散力がある東宝が刈り取ってゆく。“儲かる”IPが、どんどん東宝に集まっているのが現状です」

 さらに2026年からは、米映画会社ワーナー・ブラザースが扱う洋画作品の国内配給を東宝が手がけることになる。

「『ハリーポッター』シリーズや『マインクラフト』といった海外の人気IPを管轄することになり、場合によっては東宝が洋画を救う形も大いにありえます。ただネトフリがワーナーを買収することで両社が合意しており、業界地図がどう動くかは未知数。2026年は激動の一年になりそうです」

 2026年、東宝は『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』(2月26日)、『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』(4月10日)、『キングダム(仮)』(夏)、『踊る大捜査線 N.E.W.』(秋)など数々の人気シリーズ作の公開を予定。なおも“東宝一強”時代が続きそうだが、メジャーでないところにも自分の心に刺さる作品はあるかもしれない、ということは忘れないようにしたい。

圧倒的1位をキープした『踊る大捜査線2』

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/01/05 22:00