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ジャッキー・チェン主演『シャドウズ・エッジ』 長い低迷期から脱出、いま激熱な香港映画

ジャッキー・チェン主演『シャドウズ・エッジ』 長い低迷期から脱出、いま激熱な香港映画の画像1
ジャッキー・チェン(写真:Getty Imagesより)

 2025年は、香港映画に始まり香港映画に終わったといってもいい――とまで言う人が現れるほど、上映中のアクション映画『シャドウズ・エッジ』(2025、12月12日日本公開)が熱狂を呼んでいる。

ジリ貧テレビ局が仕掛けるバラエティ×劇場版

 中国では公開1カ月で興行収入12億元(約265億円)を突破、4週連続興収1位をマーク。日本での上映館数は110館ほど決して多くはないが、映画レビューサイト「Filmarks」では5点満点中4.2点(12月24日時点)と高評価を獲得。Xでも〈おかしくなるくらい面白かった!〉〈「とにかく面白いから見て!」と勧めたくなる作品〉など賞賛の嵐だ。

 中国と香港で共同制作された本作は、ジャッキー・チェン(71)演じる警察のエキスパート部隊“最後の切り札”「黄徳忠(ホワン・ダージョン)」が、レオン・カーフェイ(67)扮する警察から20年間逃げ続けている“伝説の犯罪者”「シャドウ」と、彼が率いるサイバー犯罪者を追跡するアクション映画だ。

 警察VS.元暗殺者というクセのある“老獪(ろうかい)”、もといジジイたちによる高度な騙し合いは見応え抜群で、また若手スターの活躍も注目ポイント。紅一点、見事な格闘シーンを披露したチャン・ツィフォン(24)や、初の悪役に挑んだK-POPグループ・SEVENTEENのジュン(29)によるアクションシーンは疾走感に溢れ、ストーリーを盛り上げる。

「入城50回以上」の猛者も ファンを虜にした『トワウォ』

 2025年、ジャッキーの出演作が日本で公開されたのは『ベスト・キッド:レジェンズ』に続いて2作目、2026年1月にもジャッキーが初めて本人役を務めたコメディアドベンチャー『パンダプラン』(2024)の公開を控えるなど、ここにきてジャッキー祭り状態だ。

 ところで香港映画といえば、2025年1月17日に日本公開された『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024)が大きな話題となった。同作は上映館数80程度の小規模スタートながら、芸術的なセットやアクションの凄さ、個性豊かなキャラクターたちが織りなす人情ドラマなど、見どころの多さに何度も通う(ファンは“入城”とカウント)人が続出、50回以上という猛者もいたほどで、興収は5.7億円を記録。さまざまな雑誌で特集が組まれたほか、2025年7月4日放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京)では、「返還から28年”香港はいま”」として、『トワイライト・ウォリアーズ』の聖地巡礼ツアーが日本人の人気穴場スポットとして放送された。

 アクションスターとして1980年代に一時代を築いたジャッキー、そして香港映画が、今、旋風を巻き起こしている背景には何があるのか。

深みのある演技派へ “師匠ポジション”で存在感

 映画評論家・前田有一氏は、急にジャッキーの出演作が目立つように見える理由として、2つのポイントを指摘する。1点目は「コロナ禍で延期されたプロジェクトの公開が続いていること」。そして2点目が「ジャッキーがキャリアを重ね、作品の幅が広がってきていること」だ。

「もともと体を張ったスタントで名を馳せたジャッキーですが、最近は演技面で魅せる役で存在感を示すようになってきました。体力的な事情もあるでしょうけど、最近は若手を前に立たせ、自分はそれを支える側にまわる役をよく目にします。まさに『ベスト・キッド:レジェンズ』がそうでした。北京生まれの若手俳優ベン・ウォンに主役を託し、自身はカンフーの師匠役として出演しています」(前田氏、以下同)

 本作でもジャッキーは、チャン・ツィフォン演じる何秋果(ホー・チウグオ)の師匠ポジション。追跡部隊のホープ・何秋果を厳しく指導しながらも、時折深い愛情を滲ませる演技の深みは、キャリアを積んだレジェンドならではのものだ。

不遇のハリウッド時代、転機はリメイク版『ベスト・キッド』

 前田氏は、ジャッキーが“師匠役”を求められるようになったキッカケとして、『ベスト・キッド』(2010)を挙げる。

「1984年にオリジナル版が公開された米カラテ映画『ベスト・キッド』のリメイクで、師匠役を引き受け、大きな評価を得たことが大きな分かれ道。以降は“もともと第一線で活躍していた人物”を演じる機会が増えました。『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017)では、表の顔はチャイニーズ・レストランの経営者ですが、実は過去にアメリカの特殊部隊に所属していた凄腕の工作員。キャリア50周年の記念作品『ライド・オン』(2023)では、再起をはかるスタントマンを演じました」

 前面で大立ち回りをしていたジャッキーが、ある意味“影”での存在意義を見出したともいえそうだが、それまでの道のりは波乱万丈で、知られざる挫折もあった。前田氏が解説する。

「ジャッキーは体を張ったガチスタントで、1960年代から1990年代にかけて香港映画のトップスターに上り詰めながら、『バトルクリーク・ブロー』(1980)でハリウッドにも進出。ただ当時、ハリウッドでアジア人のアクションスターは、いわば“キワモノ”扱いでした。本人としては俳優としての幅を広げる意欲で世界に挑んだのに、ハリウッドでのヒット作は『ラッシュアワー』シリーズ(1998〜2007)、リメイク版『ベスト・キッド』ぐらい。『シャンハイ・ヌーン』(2000)もなんとか世界興収9900万ドル(約154億円=現在)でしたが、それ以降、徐々にアメリカでの露出が減っていきます」

 どんな俳優でも「代表作」と言える作品との出会いは運命としかいいようがないが、前田氏は、ジャッキーが「世界全体でウケる作品に恵まれなかった」ことを指摘する。欧米でウケても中国でウケない、あるいはその逆。ジャッキーはヒットメーカーに見えてその実、思うようにいかない時代が長かったのだ。

返還以降、“暗黒期”が長かった香港映画界

 ジャッキーがハリウッドで奮闘する間に、香港では激動の歴史が動いていた。1997年の『香港返還』である。

「まだ香港がイギリス領だった頃、身一つで巨敵に立ち向かう役の数々で人気を誇ったジャッキーは、香港人にとって“自由の象徴”でもありました。それが1997年の香港返還を機に、外敵と戦うプロパガンダ的な中国映画への出演が増え、立ち位置が少し変わっていきます」

 同時に、この頃から香港映画も“暗黒期”に突入する。

「香港返還は、現地の映画界にとっても大事件でした。多くの香港映画人が大陸の映画業界に引き抜かれたり、自分の意志で海外へと渡ったりしたことが香港映画衰退につながったのは事実です。ジャッキーはすでにアメリカ進出済みでしたが、香港返還で帰るべき香港映画界が衰退し、またアメリカで思うような映画に出られていなかったこともあって、返還以後は他の多くの香港映画人と同様、大陸の映画に軸足を移していきました」

 政府の行事に関わる中国のスターは多いが、ジャッキーは露出の数が突出。1990年代には北京に豪邸を購入、香港の民主化運動についても批判的な言動を繰り返した。香港からは『故郷を裏切るのか!』といった反発ムードもあったという。

中国市場が、世界に追いついてきた

 そうこうするうちに中国が世界的な成長市場として注目され始めた。和田隆著『映画ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)によると、中国の映画市場は2000年以降拡大を続け、コロナ禍の2020年に世界1位に躍り出ると、2021年も1位をキープ。その反動で2022年の興収は前年比-36%、2023年は+83%と盛り返すも、2024年にはまた-23%と数字の動きはあるものの、少なくとも10年ほど前の中国映画市場は、ジャッキーにとってチャンスだった。

「少し前になりますが、アメリカの経済誌『フォーブス』によれば、2015年時点でジャッキーの収入は5000万ドル(約78億円=現在)で、トム・クルーズより1000万ドル以上も稼いでいる計算だったそうです。なにしろ、彼は事業収入がすごい。不動産、飲食店経営、そして映画制作会社にも携わり、資産は4億ドルともいわれる大富豪。もはやこれ以上稼ぎたいわけではなくて、野望は“世界全体でウケる”こと。それを叶えるのに、中国がジャッキーにとって“ちょうどよく”なってきたのでしょう。成長市場としても、自分との親和性という意味においても」

“香港映画界”に復活の兆し

 長い低迷期から脱出しつつある香港映画界にとって、往年の香港映画の魅力を支えた人材がまだ現役であることも追い風となる。

「裏社会や犯罪を題材とした“香港ノワール”といった人気ジャンルが確立する中で『トワウォ』が大ヒット。というのも『トワウォ』は、邦画『るろうに剣心』シリーズのアクション監督も手がけた谷垣健治さんが携わっているんですよね。谷垣さんは無一文で香港に行き、まさにジャッキーのアクションを現地で見て学んできた方。制作にジャッキーや香港映画のDNAが入っているので、その熱量を感じたファンにとっては、『待ってました!』という喜びは大きかったと思います」

 ジャッキー・チェン、ブルース・リーら香港アクションスターの“血”を受け継ぎ、次の世代へ橋渡しをしたいという熱い思いは、『スタントマン 武替道』(2024)にもあらわれている。『トワウォ』のプロデューサー、アンガス・チャンが製作を務める同作の内容は、伝説のアクション監督率いる映画制作チームが、コンプラ重視の現代で、“あの頃”のような命懸けのスタントシーンに挑むという物語だ。

 キャリアを重ね、時代の変化ともうまく重なって、また新たな俳優人生を歩んでいるジャッキー。かと思えば、2026年1月23日日本公開の『パンダプラン』では初の本人役に挑み、体当たりでガラスを破壊したり、全力のワイヤーアクションを披露したり。まだまだ第一線の立ち回りを見せ、香港映画といえばカロリーの高いアクションでしょ! というイメージを今なお牽引する。激動の時代を生き抜いてきた俳優がもつ強さと、制作に受け継がれるDNAをスクリーンで堪能できる幸せを噛み締めたい。

東宝一強時代と増大する“懸念”

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/01/10 18:00