CYZO ONLINE > カルチャーの記事一覧 > 野手力が勝敗を支配した2010年代後半の真実
ゴジキの野球戦術ちゃんねる

日本プロ野球史に刻まれた「最強打線」 野手力が勝敗を支配した2010年代後半――西武×ソフトバンク×広島の真実

文=
日本プロ野球史に刻まれた「最強打線」 野手力が勝敗を支配した2010年代後半――西武×ソフトバンク×広島の真実の画像1
2年連続の日本一を成し遂げた2018年の福岡ソフトバンクホークス。チームスローガンは「もう1頂(いっちょ)!」。(写真:Getty Imagesより)

■この原稿のポイント
・強力な野手陣を活かした2010年代後半の3球団
・鍵は野手力を積み上げた編成と戦略
・長丁場のペナントレースは投手より野手が重要

 日本プロ野球の歴史には、見る者を熱狂させた「最強打線」の時代が存在する。球団史上初の連覇を成し遂げた2017年の広島東洋カープ、防御率最下位から打ち勝った2018年の埼玉西武ライオンズ、そして投手陣の苦境を圧倒的本塁打数で救った2018年の福岡ソフトバンクホークスだ。

 彼らが見せた驚異的な得点力の裏側には、単なる個の力だけではない、戦略的なチームビルディングと「野手力」の累積という冷徹なまでに合理的な根拠があった。143試合という長丁場を制するために、本当に必要な戦力とは何か?

 記憶と記録に刻まれた最強チームたちの軌跡から、現代野球の勝利の方程式を紐解く。

「スター不在」の読売ジャイアンツ

指標が示す21世紀No.1の破壊力を見せた2017年の広島東洋カープ

 2017年の広島東洋カープは、球団史上最高どころか、日本プロ野球史における「最強打線」のひとつとしてその名を刻んだ。1試合平均5.15得点、リーグ平均との差は+1.17点という驚異的な数字を叩き出し、21世紀以降の伝説とされる2003年のダイエーや2005年のロッテに比肩、あるいは時代背景を考慮すればそれをも凌駕する破壊力を示したのである。

 その強さの源泉は、守備負担の大きい「センターライン」の打撃力にあった。捕手の會澤翼、遊撃手の田中広輔、中堅手の丸佳浩が、それぞれのポジションでリーグ最高クラスの打撃成績をマーク。これに若き主砲・鈴木誠也の覚醒が加わり、打線の核が盤石となった。さらに特筆すべきは、長年の課題であった三塁手という弱点を、安部友裕と西川龍馬の台頭によって解消した点だ。ベテランの新井貴浩やエルドレッド、勝負強い松山竜平やバティスタといった層の厚い控え陣も、相手投手に一息つく暇を与えなかった。

 この圧倒的な攻撃力は、数字だけでなく勝負どころでの「逆転劇」にも表れている。チーム総得点736点、打率・本塁打・盗塁・長打率のすべてでリーグ首位を独占しただけでなく、シーズン88勝のうち、実に半数近い41試合が逆転勝ちであった。「打撃でチーム得点を何点増やしたか」という指標では、歴代1位の177.4を記録。前年のリーグ制覇時の勢いをも上回る進化を遂げ、2位に14.5ゲーム差という圧倒的な差をつけて球団史上初の連覇を成し遂げたのである。

NPB史を塗り替えた792得点を記録した「山賊打線」

 2018年の埼玉西武ライオンズが成し遂げたリーグ制覇は、日本プロ野球の歴史において定石を真っ向から覆した、極めて特異で痛快なドラマであった。

 この年のライオンズを象徴するのが、他球団に恐れられた「山賊打線」である。開幕から一度も首位を譲らずに駆け抜けたその原動力は、NPB史上3位となるシーズン792得点という圧倒的な破壊力にあった。本塁打王に輝いた山川穂高と、二塁手として驚異の127打点を記録した浅村栄斗の中軸は、二人だけで251打点をマーク。そこに前年首位打者の秋山翔吾や、ベテランの域にありながら28本塁打を放った中村剛也らが加わる打線は、下位まで一息つく暇も与えない絶望感を相手投手に与え続けた。

 しかし、その華々しい攻撃力の裏で、チーム防御率4.24、リーグ最多失点、最多失策という苦境に立たされていたのも事実である。普通であれば失速してもおかしくない守備面の不安を、辻発彦監督は「個の能力の最大化」というマネジメントで補った。

 辻監督の采配は、単なる放任主義ではない。象徴的なのは、遊撃手・源田壮亮への指導だ。派手な長距離砲が並ぶ中で、辻監督は源田に「お前はつなぎだ」と説き、状況に応じた打撃の重要性を徹底させた。黄金期を支えた名二塁手である自身の経験を重ね合わせ、自由奔放な大砲たちを「潤滑油」としての源田が繋ぐ。この絶妙なバランスこそが、単なる強打の集団を「勝てるチーム」へと昇華させた。

「投高打低」が叫ばれる昨今の野球界において、2018年の西武が見せた「打ち勝つ美学」は、今なお色あせない。守備の綻びを補って余りある打の暴力と、それを支えた緻密な役割分担。それは、野球というスポーツが持つ本質的な楽しさと、常識を疑うことの大切さを我々に教えてくれる歴史的な1年であった。

山賊打線の影に隠れた「2018年ソフトバンク」もうひとつの最強打線

 2018年の福岡ソフトバンクホークスを振り返る際、キーワードとなるのは進化を遂げた圧倒的破壊力だ。前年の日本一による投手陣の勤続疲労、そして主力の相次ぐ故障という逆風にさらされながらも、「打ち勝つ野球」という明確なスタイルでリーグを席巻した。このような状況で西武に優勝を譲ったものの、シーズン82勝を挙げており、西武が792点というずば抜けた得点数を記録していなければ、優勝していても不思議ではない結果だった。

 最大のトピックは、柳田悠岐のさらなる覚醒だろう。それまでのポテンシャルに頼った荒々しさが影を潜め、フォームの再現性を高めたことで、首位打者とキャリアハイの100打点を記録。名実ともに国内最強打者へと上り詰めた。この柳田を筆頭に、29本塁打のデスパイネ、32本塁打の松田宣浩、さらには自己最多の22本塁打を放った上林誠知など、どこからでも一発が飛び出す打線は、リーグ最多の202本塁打という驚異的な数字を記録した。前後に小技の利く選手を配することで、一発に機動力を絡めた効率的な攻撃を実現した。新加入のグラシアルも限られた出場機会で高い対応力を見せ、層の厚さを証明している。

 チーム防御率が4位に沈むなど、長年チームを支えた投手陣が安定感を欠く苦しい展開ではあったが、それを補って余りある攻撃力と堅実な守備が、シーズン82勝という優勝級の数字を支えた。結果として西武の記録的な得点力の前にリーグ優勝は譲ったものの、投手の苦境を野手が救うその戦いぶりは、まさに王者の地力を見せつけるものだったと言える。

 このチームを見れば分かるように、「野手力」を中核にしたチームビルディングが勝てていた時代だった。長打・出塁・機動力・小技を状況に応じて組み合わせ、守備位置や走塁の価値を再定義し、終盤は継投の逆算で型を持つ。時代が進むごとに発展していったデータも駆使し、勝ち筋を描き、選手への信頼で上書きし、運用の“シクミ”に落とす……。この往復運動が各チームの競争力を底上げした。

なぜペナントレースは「野手」で決まるのか?

 野球といえば投手に注目がいきがちだが、短期決戦はまだしも、ペナントレースは野手のほうが重要と言っていいだろう。ペナントレースで「投手より野手のほうが重要」と言われがちな根拠は、野手の影響が“毎日”積み上がるからだ。NPBは143試合、先発は6人ローテが基本のため、エース級でも登板は年間23〜24試合ほどに限られる。たとえば1登板で6イニング投げる投手が24先発しても144イニングで、チームがシーズンを通して守る約1,287イニング(143試合×9回)のうち、およそ1割強しか直接は担わない。

 一方で、レギュラー野手は130〜140試合にわたってほぼ毎日打席に立ち、同時に守備でも1つのポジションを通年で埋める。打撃面だけ見ても、1つの打順はチームの総打席のおよそ9分の1を日々引き受けることから、ひとりの野手が残すプラス(またはマイナス)は、試合数分だけ確実に累積していくのだ。

 また、野手は攻撃と守備の両面で点差に作用する。打撃と走塁で得点を増やし、守備で失点を減らすことができ、捕手に至っては配球や投手リードを通じて投手力そのものにも間接的に影響する。さらに、投手は故障リスクや年ごとの成績変動が野手より大きく、シーズンのみならず複数年も考慮した長丁場では「毎日計算できる戦力」を多く確保することが勝ち星の安定につながる。そのため、打線や守備に“穴”があると、それは1年あたり143試合分の機会で繰り返し表面化し、合計のマイナスが膨らみやすいのだ。

阪神タイガースに「黄金期」は訪れるのか

(文=ゴジキ)

日本プロ野球史に刻まれた「最強打線」 野手力が勝敗を支配した2010年代後半――西武×ソフトバンク×広島の真実の画像2

ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

公式TikTok

公式facebook

X:@godziki_55

Instagram:@godziki_55

ゴジキ
最終更新:2026/01/29 12:00