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青春×タイムスリップ、からの感動結末 長野・千曲市舞台の怪作アニメ『Turkey!』はなぜ誕生したのか

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TVアニメ『Turkey!』より

 今や年間300本以上が放送されるTVアニメ。雑誌やWEB漫画発など原作付きの作品がその数を引っ張るなか、オリジナルアニメは貴重だが、2025年、斬新過ぎる設定と仕掛けで密かに注目を集めていたのが『Turkey!』(日本テレビ系)だ。

「是枝監督ならアリ」という“手のひら返し”

 本作はポニーキャニオンと、タツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDの共同原作。放送前の情報は〈長野県千曲市を舞台にした、ボウリング部に所属する女子高生5人の物語〉という以上でも以下でもなく、キービジュアルも青空と入道雲をバックに女子高生たちの姿が描かれるばかり。

 詳細は明かされないながらも、王道ド真ん中の「青春部活動系」なのかな、というにおいをプンプンさせていたが、第1話の終盤、女子たちがボウリングをしている最中、唐突に球が光ると、いきなり戦国時代にタイムスリップ。ボウリングを通じた成長物語かという大方の予想を、斬新な形で裏切った。

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TVアニメ『Turkey!』より

 強烈なインパクトの幕開けには困惑と興奮の声が入り乱れ、Xのトレンド入り。「戦国時代×ボウリング」というぶっ飛んだ組み合わせと全く読めない展開が2話以降も興味を引き続け、「命と命の獲り合い」をボウリングで行うスリリングさや、愛情や友情に涙する感動展開もあり、「ネタかと思ったら名作だった」と、ファンの胸に強烈な印象を残した。

 そうはいっても、千曲市というローカルスポット、戦国時代、女子高生、ボウリング、さらにタイムスリップというかけ合わせには「一体何故そんな企画が…」と疑問も湧くというもの。そこで制作を手がけたポニーキャニオンを直撃、企画の背景を根掘り葉掘り聞いてきた。

なぜ「長野県千曲市」とのタイアップだったのか

 ポニーキャニオンのアニメ・映像事業本部プロデューサー・生﨑孟氏によれば、千曲市に白羽の矢が立ったのは、アニメの制作陣が企画した“条件”に合致したためだという。一体どんな企画で、どんな条件が、千曲に刺さったのか。

 問いをぶつけると、生﨑氏は「制作側から『温泉地×ボウリング×女子高生』をコンセプトにしたオリジナルアニメを作りたいという話があって……」と話す。

 なぜその3つをかけ合わせようと思ったのかと気になるところだが、そう思わせることが興味を呼び起こす第一歩と考えれば、話題になるのも頷ける斬新なアイデア。これはBAKKEN RECORDの大松裕プロデューサーとポニーキャニオンの木下哲哉プロデューサーの話の中から生まれたという。

「舞台となる地のイメージは、『古いボウリング場』『お城の跡』『昭和を感じさせる温泉街』という3つのポイントを備えること。そのうえで東京から行きやすい、歴史的な文脈がある場所を探していたとのことでした。さらに、これまでアニメやドラマの聖地になってないところが理想ではあったようです。」(生﨑氏、以下同)

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ポニーキャニオンのアニメ・映像事業本部プロデューサー・生﨑孟氏

 実はポニーキャニオンは、すでに千曲市と深い関わりがあった。2015年度に同市の観光プロモーション映像制作事業、2016年度には観光パンフレット制作事業で連携。そうした背景もあり、いくつか候補地があがるなか、舞台を千曲と決定するまでに時間はかからなかった。

 余談だが、長野は人口あたりのボウリング場の割合が多い。日本ボウリング場協会の調べによれば、東京は人口約1427万人、ボウリング場が43カ所なのに対し、長野県は人口約196万人に対して同14カ所(2025年12月時点)。人口10万人あたりに換算すれば、東京は0.3カ所に過ぎないが、長野は0.71カ所にのぼる。ちなみに全国平均は0.5カ所で、長野の“ボウリング場偏差値”が全国的にも上位ランクであることがうかがえる。

ボウリングからの戦国時代、という衝撃展開秘話

 一方で、いまやアニメは群雄割拠の時代。ベストセラーの原作や、人気シリーズの続編などが大量に制作されるなか、本作は話題化への仕掛けをこれでもかというほど練り込んだ。第1話で衝撃展開があったことは前述したが、放送開始後に新たなキービジュアルの公開、日髙のり子(63)、皆口裕子(59)、井上喜久子(61)ら豪華ベテラン声優の追加キャストなど、濃い情報を次々に投下。生﨑氏は、初回の反響をどう受け止めていたのか。

「“なにこれ!”という反応など、多くの反響をいただいたことは単純に嬉しく思います。タイムスリップというテーマは、初期プロットの時点からあったものです。ただ“SFや戦国時代”といった題材だけ聞いて、コアなアニメファンにしか興味を持ってもらえないのはもったいない、という思いもあったので、幅広い層にリーチするべく、最初の情報解禁は女子高生やスポーツものというだけにとどめておいて、1話終了後に“ネタバラシ”をする手法を取ったというのが真相です。もちろん放送前のイメージと異なる内容になることに、さまざまな意見を持つ方がいらっしゃるのも当然だとは思いますが、結果として想像を超える方に興味を持っていただけたのは有り難い限りでした」

市と連携、放送前から地元で仕込んだ“ワクワク感”

 さてアニメ制作が決定すると、同社は2022年、千曲市と包括連携協定書を締結。制作を進めるなかで意識したのは、「まず地元の人たちに、自分たちの街を舞台にしたアニメができるということを知ってもらうこと」だったという。当たり前だが、いくら地元が取り上げられようと、アニメに馴染みのない人たちもいる。そうした人たちにとって、少なくとも“知らなかった”という状況にならないようにと、細かな配慮を凝らした。

 放送前のユニークな施策の1つに、「メインキャラクター5人がカラオケに行ったら歌う曲」をコンセプトとしたカバーソングプロジェクト「Side Project!」がある。声優が邦ロックや懐かしのJ-POPを歌うアルバムで、2024年1月に第1弾、同年7月に第2弾が配信。“カラオケに行ったら”とはなかなかニッチな企画にも思えるが、これはまたなぜ……?

「アニメは、放送の3年ぐらい前から制作をスタートします。情報解禁が2年ほど前。つまり本放送までに2年の空白期間ができてしまうことになりますが、その時間にもワクワク感を保ちたい。『Side Project!』は“自分たちが住む街を題材にしたアニメが始まるよ”という空気感を醸成するアイデアの一つで、千曲市で暮らす女子高生のキャラクターたちの日常生活を想像したとき、カラオケは身近な娯楽の一つだろうなと」

 プロモーションでこだわったポイントは、「可視化すること」だ。

「ただの言葉の情報だけでなく、地元の夏祭りに『Turkey!』のボウリング体験ブースを出展したり、ラッピングバスや電車を走らせたり。市役所の入口にはキャラクターたちの等身大パネルも設置しました」

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『Turkey!』のラッピングバス

 本放送前には、首都圏より2カ月も早い先2025年5月に千曲市・上山田文化会館で先行上映会を行った。1日経たないうちに800席の会場が満員になるほどの応募があったといい、生﨑氏は「地元の方にちゃんと受け入れられ、愛されているのが実感できたのは嬉しかった」と振り返る。

果たして「千曲」のPRになっているのか

 ただしご当地作品とはいえ、アニメでは「千曲」というワードがことさらに強調されることはない。「千曲といえばコレ!」といった社会の教科書的情報もあからさまには出されない。SNSには、果たしてこのアニメは千曲のPRになっているのか? と疑問を抱く声も散見される。

「あくまでも目標は、アニメが盛り上がること、そして作品として魅力的なストーリーを描くことです。その過程で、千曲市にとってのプラスも生むことができればいいというスタンスです。千曲の名産や名所をアニメの中でゴリ押ししたいわけではなく、アニメが話題になることで、自動的に舞台である千曲の名も知ってもらえたらいいなという考えです」

 それでは制作陣が描きたかったこと、そして作品内にまぶした“千曲市の魅力”はどこか。

「ストーリーに関しては、時代を超えたキャラクターの成長が肝だと思っています。戦国時代という全く違う価値観と想定外に出会った結果、女子高生の5人がそれぞれ一回り大きく、強くなる。ビジュアル面でいうと、現代パートでは、千曲市の自然豊かな景観を存分に(制作スタジオの)BAKKEN RECORDさんが描いてくれましたし、個人的にはエンディング映像の姨捨駅からの風景や美しい夜空も好きですね。

 歴史的要素としては、キャラクターたちが跳ね回る神社や古戦場なども見どころです。アニメのストーリーを優先して、完璧な“歴史もの”を描いている訳ではないかもしれませんが、現代のビジュアルを描きつつ、過去もきちんとそこに息づいているよ、みたいな空気感は、この作品ならでは、かつ舞台が千曲市でなければならない理由になっていると思います。」

 物語のラストでは、戦国時代と現代の想いをつなぐ、あっと言わせる伏線回収も仕込まれている。そんな千曲市のキャッチコピーは、『人をてらす 人をはぐくむ 人がつながる 月の都』。生﨑氏も言及したが、本編やEDに登場する姨捨は、『古今和歌集』にも詠われたほどの月見の名所。そして月明かりのように一人ひとりを優しく照らし、また人とのつながりを大切に想う風土がある。それを知ってからもう一度『Turkey!』を見れば、また異なる感想を抱けることは必至だろう。

 同社で地域ビジネスのリーダーシップをとる、経営企画部シニアゼネラルディレクターの村多正俊氏は、「このアニメで『千曲市』が少しでも気になって検索してくれたら、もうその人は“関係人口”」だと話す。何もしなかったら生まれなかった動きが、アニメの力によって全国で発生する。人口5万7000人の小さな街が、アニメを通じて人の目にとまり、たしかな記憶を刻んでいる。

「千曲? どこ?」「アニメの舞台になった場所でしょ」――なんていう会話がなされたとしたら、もうすでにその人たちは、千曲ファンの仲間入りなのだ。

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TVアニメ『Turkey!』より

(「ポニーキャニオンが地域活性化に取り組むワケ」に続く)

TVアニメ『Turkey!』
2025年7月から9月まで日本テレビ、BS日テレ、テレビ信州で放送

原案:BAKKEN RECORD、ポニーキャニオン
監督:工藤進
脚本:蛭田直美
キャラクターデザイン・総作画監督:武川愛里
メインアニメーター:那花優統
色彩設計:のぼりはるこ
美術監督:田尻健一
撮影監督:小西庸平
CGディレクター:堀本夏生
編集:及川雪江
音楽:林ゆうき
音楽制作:ポニーキャニオン
プロデューサー:木下哲哉、北林俊哉
アニメーションプロデューサー:大松裕
制作:BAKKEN RECORD
(C)BAKKEN RECORD・PONY CANYON INC. /「Turkey!」製作委員会
※「BAKKEN RECORD」は(株)タツノコプロのレーベル名、登録商標です。

『Turkey!』公式HP:https://turkey-project.com/
『Turkey!』公式Twitter:https://twitter.com/Turkey_PJ

『鬼滅』『国宝』での壮大な“サブリミナル”

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/01/31 22:00