ナレーションもBGMもない――YouTubeチャンネル『Alone in Japan』が映し出す日本のひとり暮らし

都内の古びた木造アパートに住むデザイナーや外国人たち。彼らの一見、質素ながらも計算し尽くされたかのようなセンスを感じさせる“洗練された暮らし”を撮影した動画が、いま世界中で注目を集めている。
YouTubeチャンネル『Alone in Japan』は、心地よい生活音(ASMR)とともに、まるで映画のワンシーンのような日常を切り取るスタイルが話題を呼び、インスタグラムのフォロワーは39万人を突破した。
なぜ、人々はこれらの動画に魅了されるのか? 同チャンネルを運営する日置氏に、人気チャンネル立ち上げの背景や独自の美学について聞いた。
日本の風景の「最小単位」は誰かの部屋にある
――インスタグラムを中心に大バズりしている『Alone in Japan』。そのチャンネル運営者は誰なのかと気になっている人も多いはずです。普段の活動から伺ってもよろしいでしょうか。
日置 10年ほど映像制作会社を経営しています。普段は企業映像を制作したり、最近ではSNSの制作・運用を手がけたりする、いわゆる一般的な映像制作会社です。そのなかでも『Alone in Japan』は、完全に自分がやりたくて始めたチャンネルです。
――どういうきっかけで始まったのですか?
日置 もともと日本の風景が好きで、ずっと何らかの形で表現したいという思いがありました。仕事で海外へ行く機会も何度かあり、そのたびに日本には特別な魅力があると再認識したんです。言葉にするのは難しいのですが、食にしても風景にしても文化にしても、人の営みにしても、ほかの国にはない「何か」があると感じました。

――言いたいことはわかる気がします。「クール・ジャパン」とは違う、飾り気のない日本というか……。その「魅力」を伝えるために、今のスタイルのチャンネルに行き着いたのですね。
日置 ただ日本の美しい風景をSNSで発信するだけでは、どこか表層的というか、かえって消費されてしまうような気がしたんです。そこで、別のアプローチを探していたときに、「地域の風景を撮るなら、俯瞰ではなくミクロな視点で見たらどうなるのか?」と考えました。
――それはどういうことですか?
日置 地域には実際に住んでいる人々がいて、さらに細かく見れば、その人の部屋があり、その人の生活があります。それこそが、日本の風景の最小単位なのではないかと思ったんです。その部屋から人が一歩外に出た瞬間に、周囲の地域と結びついていく。その流れを映像にすれば、新しい見せ方ができるかもしれないと思い、2年ほどかけて今の形を完成させました。
「ぼーっと眺める時間」を提供したい

――『Alone In Japan』は環境音や生活音がASMRのようになっているのも特徴的ですよね。
日置 もともと環境音や生活音が好きなんです。音の心地よさと映像を組み合わせていったら、今の形が少しずつできてきた感じですね。やっぱり好きじゃないと続かないので、好きなものをとにかく詰め込んでいます。
――他人の生活を「ただ眺める」というコンセプトも非常に現代的だと感じます。
日置 YouTubeのタイトルには、必ず「ただ眺める、日本のひとり暮らし。」という言葉を入れています。スマートフォンが普及し、誰もが常に情報に触れられる便利な時代ですが、一方で中毒的になり、無意識にストレスを感じている……。そういう人たちが世界中にいるのではないかという仮説を立てました。そんな人たちが思考を休めて、ただぼーっとできる時間を提供したい……。それがこのチャンネルの一番の需要なのではないかと思っています。
――取材先はどうやって選ぶのですか?
日置 基本的には自分の知り合いです。知り合いのさらに知り合いといった数珠つなぎですね。ただ、顔出しでプライベートな空間を撮影させてくれる人がいるのかという不安はありました。
――その中でも、抹茶を立ててソーダで割って飲む外国人男性の動画は、インスタグラムで現在50万件以上の「いいね」を集めています。かなり反響があったのではないでしょうか?
日置 あのリールは想定外で、あんなに反響があるとは思っていなかったんですよね。特に海外の方からの反応が多かったです。
――「こういう生活がしてみたい」と思うのは日本人だけではないのですね。
日置 コメント欄を見て自分なりに解釈した結果、日本のわびさび文化を理解している層と、単に孤独で寂しいと受け取る層とで二極化していると感じました。そういった点が物議を醸し、反響があったのかなと思います。
――「日本でひとり暮らし」という意味では、まさに『Alone in Japan』ですね。撮り方などで注意している点や、こだわっている点はありますか?
日置 日常生活の中でカメラを向けられることは、普通の人にはあまりないですよね。そのため、一番気をつけているのは、普段どおり生活してもらうことです。カメラの前ではどうしても体がこわばったり、不自然になったりしてしまう。日常の空気を壊さないように撮るにはどうしたらいいかという点は、常に意識しています。
――確かに、自然体は難しいですもんね。
日置「100%自然体」はありえないと思っていますが、できる限りそれに近づけたい。そのために、事前にどのように普段のルーティンを過ごしているのかをヒアリングしてから、カメラを回しています。
「いい家、いい車」がゴールだった時代の終焉

――「こういう家に住んでいる人がいい」とか「こういう趣味を持っている人がいい」といった明確な人選はあるのですか?
日置 特定の建物でなければならないというわけではありませんが、古い建物のほうが物語を感じやすいので、無意識にそう選んでいるのかもしれません。
――まあ、タワーマンション住民の生活を見ても視聴者は楽しくないでしょうしね。
日置 あとは、基本的にはひとり暮らしで、空気感がマッチする方ですね。事前に細かく条件を聞いているわけではないのですが、自分の世界や夢を持っている方は多い気がします。一言でいえば「バイブスが合う」という感覚ですね。
――いいマンションに住んで、いい車に乗って、いい酒を飲む……。これまではそれがひとつの「上がり」とされてきましたが、古い木造アパートで好きなものに囲まれながら淡々と過ごす生活に、いまは多くの人が憧れているように感じます。
日置 いわゆる豪華な生活には、もうお腹いっぱいという感覚があるのかもしれません。「そこを目指すことが本当に正解なのか?」という疑問が時代的に出てきている気がします。だからこそ、周りにどう思われても本当に好きなものは好きでいいじゃないか、というスタンスに共感してくれる方がいるのではないでしょうか。自分自身が特にそう思っています。
――今後はどのようにチャンネルを展開していきたいですか?
日置 フォロワー数や登録者数を伸ばすことよりも、この世界観に共感してくれる方が増えていくことが一番うれしいです。本業が忙しく時間が足りないのが悩みですが、まずはコンスタントに毎月作品を届けていきたいですね。今はマネタイズを強く意識しているわけではありませんが、持続するためにも世界観を壊さない形で少しずつつなげていけたらいいなと思っています。

(文=桃沢もちこ 取材・編集=サイゾーオンライン編集部)
Alone in Japan(あろーん・いん・じゃぱん)
2025年にスタートしたYouTubeチャンネル。「ただ眺める、日本の一人暮らし。」をテーマに、誰かの日本での一日を、生活の音や光、時間の流れとともにそのまま切り取り、静かに眺める映像記録。
『Alone in Japan – Letting the Day Drift By』はこちら
https://www.youtube.com/@AloneInJapan-2025
