『モンスターズ・ユニバーシティ』が示す「夢は叶うとは限らない」というリアル

「夢を追い求める勇気があれば、すべての夢は叶う」
そんなロマンティックな言葉を残したのが、ディズニー社の創業者であるウォルト・ディズニーです。アニメーター以上に、経営者として才能をより発揮した彼の言葉に基づき、「夢はきっと叶う」というメッセージを謳ったハッピーエンドの作品をディズニー社は次々と送り出してきました。
3月20日(金)の『金曜ロードショー』で放映される『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年)は、ちょっと異色の劇場アニメです。ピクサー製作&ディズニー配給の本作のテーマは「人生は思い描いたようには進まない」という現実味のあるものとなっています。
個性豊かな怪物たちが登場する『モンスターズ・ユニバーシティ』は、なぜディズニーらしかぬテーマの作品になったのかをひも解いてみたいと思います。
大ヒット作『モンスターズ・インク』の前日譚
モンスターズ社で「怖がらせ屋」として働くマイクとサリーの活躍を描いた『モンスターズ・インク』(2001年)は、世界的に大ヒットした3DCGアニメです。日本でも興収93.7億円を記録しています。そのマイクとサリーの出会いとなった大学時代を『モンスターズ・ユニバーシティ』は描いています。前日譚ですね。こちらも日本では89億円の大ヒット作となっています。
しかし、『モンスターズ・インク』のピート・ドクター監督から、『モンスターズ・ユニバーシティ』はダン・スキャンロン監督にバトンタッチ。作風も登場キャラクターの性格も、前作とは違うものとなっています。
続編ではないので、『モンスターズ・インク』を観ていなくても『モンスターズ・ユニバーシティ』の物語を理解することは可能ですが、マイクとサリーが社会人になった『モンスターズ・インク』のオチを知っているのと知らないのとでは、印象が大きく変わることは注意しておきたいポイントです。
校内カーストの最下層とトップとの関係
ひとつ目のモンスターのマイクは、少年期にモンスターズ社を見学し、「怖がらせ屋」になることを将来の夢とします。勉強に勤しみ、モンスターズ大学の「怖がらせ学部」に入学するマイクでした。
モンスターズ大学で出会うことになるのが、毛むくじゃらのモンスターのサリバンことサリーです。『モンスターズ・インク』の怖い外見とは裏腹の優しい性格だったサリーとは違い、代々にわたって「怖がらせ屋」を継いでいることを自慢している、うぬぼれキャラとなっています。
校内カーストで言えば、ガリ勉タイプのマイクと育ちのいいエリート組のサリーは、水と油の関係です。小柄なマイクは「怖がらせ屋」には向いていないというハンデを、学業の優秀さでカバーしようとします。才能豊かなサリーは、勉学に励むマイクを嘲笑するのでした。
学期末の実技テスト中にふたりはトラブルを起こしてしまい、ハードスクラブル学長から「怖がらせ学部」を共に追い出されてしまいます。マイクは「怖がらせ屋としての才能がない」、サリーは「才能があっても技量が伴っていない」がその理由でした。
失われつつある理想の学園生活
汚名返上のチャンスは、大学の名物イベント「怖がらせ大会」に出場し、優勝することです。チームで成績を競うため、マイクは学内の落ちこぼれたちが集まった「ウーズマ・カッパ」の一員として参加。サリーもその仲間となります。
個性豊かな落ちこぼれ集団が結束し、鼻持ちならないエリート集団に勝負を挑むというコメディ映画の定番的な展開となっていきます。大会を経て、マイクとサリーの関係も深まっていくことになります。こうしたバディものの描き方のうまさは、ハリウッド映画ならではの伝統を感じさせます。サリーが「俺は本当は怖がりなんだ」とマイクに打ち明けるシーンにはほろりとさせられます。
多種多様なモンスターたちが集まる学園ドラマとしての面白さが『モンスターズ・ユニバーシティ』にはあります。最近の都内の大学生は地方出身が少なく、親の所得によってグループ分けが進んでいると聞きますが、校内カーストの壁を越え、マイクとサリーが親友になっていくクライマックスがとても魅力的です。
ある意味、現代では失われつつある理想の学園生活を描いたのが『モンスターズ・ユニバーシティ』なのかもしれません。
『モンスターズ・インク』で大革命を起こすマイク
努力家のマイクを主人公にした『モンスターズ・ユニバーシティ』ですが、ダン・スキャンロン監督は本作のテーマは「人生は思いどおりには進まない」だと語っています。どういうことでしょうか?
その答えは前作『モンスターズ・インク』にあります。『モンスターズ・インク』を最後までご覧になった方なら、ご存知でしょう。
モンスターズ社で「怖がらせ屋」になったサリーとマイクは、コンビで活躍しています。人間の子どもたちを怖がらせ、悲鳴を上げさせることで、モンスターの世界はエネルギーを得ています。それゆえ「怖がらせ屋」はモンスター界でリスペクトされる職業となっています。
ところがサリーとマイクは、ある日、好奇心旺盛な人間の女の子・ブーと出会い、悲鳴よりも笑い声のほうが遥かに大きなエネルギーをもたらす事実を発見するのです。
その結果、モンスター界ではエネルギー革命が起き、マイクは人間の子どもたちを笑わせることで、「怖がらせ屋」以上に大活躍するようになるのです。
思いどおりには進まないという人生の醍醐味
つまり、売れっ子「怖がらせ屋」のサリーのアシスタントとして働いていたマイクですが、それよりも自分の才能をより生かせる仕事があることに気づくというのが『モンスターズ・インク』のオチだったのです。
マイクはずっと「怖がらせ屋」に憧れていたことが『モンスターズ・ユニバーシティ』では描かれますが、マイク自身が思い描いていた夢とは異なる現実が『モンスターズ・インク』では待っています。しかし、これこそが人生の醍醐味ではないでしょうか。
映画監督の中には絵コンテを事前に準備する几帳面タイプもいれば、絵コンテに縛られることを嫌って用意しない自由気ままタイプもいます。マイクの場合は、几帳面タイプから自由奔放タイプへと、経験を重ねることで変わっていった監督だと言えるんじゃないでしょうか。
大人になったマイクは、その場の状況に応じて自分の人生と夢を演出することになるのです。
挫折体験が深めるマイクとサリーの関係性
夢はきっと叶う、という言葉はロマンティックで、とても耳障りがいいので、ついついそう信じたくなります。しかし、夢を追い続けて挫折を経験した人のほうが、夢を叶えた人よりもずっと多いというのが現実ではないでしょうか。
その点、『モンスターズ・ユニバーシティ』で描かれた「人生は思いどおりには進まない」というテーマ性は、すごくリアリティーを感じさせます。
限りある人生、いろんなことに挑戦して、自分に適した仕事を最終的に見つけることができれば超ラッキーなんじゃないですかね。全力でトライしていく中で、マイクはサリーという生涯にわたる親友とも出会え、また挫折体験がふたりの仲を深めることにもなるわけです。
夢は必ずしも叶うとは限らない。でも、夢を叶えるために努力した経験は、その人の人格形成の土台になることは間違いないでしょう。人間の世界では、そんな時代のことを「青春」と呼んでいます。
今夜放送の『モンスターズ・ユニバーシティ』は、挫折と友情をめぐる直球ど真ん中の青春ドラマです。
(文=映画ゾンビ・バブ)
