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TBS制作Netflix『九条の大罪』好調スタート、加速する地上波の「ネトフリ下請け化」

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(写真:Getty Imagesより)

 今年WBCがNetflix(以下、ネトフリ)で独占配信されたことは、地上波にとって大きな転換点だった。WBCは、第1回大会の2006年以降、主に地上波で放送。2023年の第5回大会では、決勝戦(日本対アメリカ)が平均世帯視聴率42.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するほどの“ドル箱コンテンツ”だった。それが今大会、日本における独占配信権をネトフリが取得したため、地上波では視聴不能に。試合映像の中継制作を担ったのは日本テレビで、SNSでは〈日テレはネトフリの下請けになったのか〉と揶揄されたものだ。

ディズニー「ファイアボール」から広がった「オタク受け」

 ネトフリをはじめ各種動画配信サービスは、テレビ局にとって自社番組を“二次利用”するためのプラットフォームだった。それが昨今ではドラマや映画、アニメなどのエンタメコンテンツを中心に、すでに立場が“逆転”しつつある。

もう外資に頼るしか… 瀕死のテレビ局

 たとえばキー局・TBSは、数年前からネトフリと手を組んでオリジナル番組を制作。自局では放送せずネトフリで独占公開するのが特徴で、4月2日にはドラマ『九条の大罪』が配信開始した。この“ネトフリ×TBS”作品は、すでに恋愛リアリティ企画『未来日記』(2021〜2022)、脚本家・宮藤官九郎と大石静が共同執筆したオリジナルドラマ『離婚しようよ』(2023)が制作・配信され、同作で第3弾となる。

 大手外資系動画配信サービスのなかでも、とりわけネトフリは桁違いの製作費を投下することで知られる。2026年1月には大手映画配給会社「東宝」とのパートナーシップ強化を発表。2028年から複数年にわたり東宝系の制作スタジオを賃借し、日本における制作拠点を拡張する見通しだ。年間で最大15作を作るなど、制作本数を一気に増やす精力的な姿勢を見せている。

 そうしたネトフリの力を借りようと目論むのが地上波だ。

そもそも日本は、内需市場の規模が中途半端に大きいため、関連商品や広告への二次展開など多角的なIP利用による“総力戦”であたれば“そこそこ”の収益化が可能だった。そのため、グローバルな市場で戦うための視野がなかなか持てないまま現在に至ってしまったといえる。

 しかし配信時代、視聴者にとっても制作者にとっても国境はない。視聴者がアクセスできる作品の供給数が爆発的に多くなるなかでは、当然制作側の競争力が激化する。映画評論家・前田有一氏は、映画界を牽引するハリウッドではすでに「制作費の高騰」が起きていることを指摘した。

「かつては1本あたりの制作費が1億ドル規模でも『超大作』と言われたものですが、今や2億〜3億ドルかけるのが当たり前。(中略)超大作の制作費規模が2億や3億ドル前後と高騰し、それを回収するとなると、北米市場だけでは全く足りない。世界市場で回収する映画を作らなくてはいけなくなりました」(前田有一氏)

 業界が縮小し、海外資本の制作費に立ち向かう体力もない瀕死の地上波。なんとか収益を確保するため、外資のお金を頼り、海外に評価されそうな作品を作ろうと焦っているのがテレビ局の“イマ”だといえる。

立場が逆転した「地上波」と「配信」の関係値

 ネトフリと真っ先に手を組んだ局は、フジテレビだった。2015年6月、地上波で2012年から2014年に放送していた人気恋愛リアリティショー『テラスハウス』の新作と、新オリジナルドラマ『アンダーウェア』の共同製作を発表。日本におけるネトフリのサービス開始(2015年9月2日)と同時に、全世界に向けて配信を開始した。

 その後、NHKが2015年に同局制作番組の提供に合意。翌年にはスペシャルドラマ『東京裁判〜人は戦争を裁けるか〜』全4話を放送日からネトフリで、世界20言語で配信した。2021年にはTBSと日本テレビが、2022年にはテレビ東京とテレビ朝日が提携を開始している。

 ただし、当初はあくまでも「地上波番組の配信」が中心であり、視聴者層の幅を広げる戦略の一種にとどまっていた。動画投稿サービスの台頭、スマホの登場などの複合的な理由からテレビ離れが顕著になっていた折、地上波放送だけでは制作費を回収できない状況がそうさせていたに過ぎない。結果的に「世界に発信する」ことを謳いつつも、本当に海外の視聴者に届いていたとは言い難いのが現実であったろう。

 日本発の番組づくりは、そうした動画配信社よりテレビ局のほうが力がある――と局員たちが思っていたかどうかはさておき、そうこうしているうちにネトフリは『今際の国のアリス』(2020〜2025)や『サンクチュアリ-聖域-』(2023)など、海外にも評価されるオリジナルのヒット作を次々送り出すようになった。

そうなれば、テレビ局はいよいよ崖っぷちだ。お金があり、制作力もある場所のほうが魅力的なのは自明の理で、人材の流出も進む。たとえば2024年からネトフリと5年契約を締結したプロデューサーの磯山晶氏は元TBS局員で、『池袋ウエストゲートパーク』(2000)や『木更津キャッツアイ』(2002)、『不適切にもほどがある!』(2024)などを手掛けてきたヒットメーカー。ほかにも局を辞めて制作会社に転職したり、フリーランスになったりしてネトフリの番組制作に関わろうと目論む人は後を絶たない。

ネトフリに頼れば“いいもの”を作れるのか

 では、カネもヒトも不足する瀕死の地上波が、ネトフリに頼れば“いいもの”を作ることができるのだろうか。元テレビ朝日局員のプロデューサー・鎮目博道氏が、テレビ局の制作体制について解説する。

「今のテレビ局は、とにかく世界で当たるコンテンツを作りたいと焦りに焦っている。理由はシンプルで、いくら日本の市場でヒットしても、大したビジネスにならないからです。現状、スポンサー収入は減少傾向で、テレビ業界の縮小は目に見えている。頭打ち感がある中で、唯一目標とできるのが『海外ウケを狙う』ことです」(鎮目博道氏、以下同)

 電通の調査レポート「2025年 日本の広告費」によると、2025年のテレビメディア広告費は1兆7556億円で、2024年の1兆7605億円と比べ99.7%に微減。2023年が1兆7347億円であることを考慮すると横ばいとみることもできるが、全媒体における構成比は縮小傾向にある(2023年23.7%→2024年22.9%→2025年21.8%)。

「地上波が世界で当たるコンテンツを作れないことは長年の課題です。そもそも作り方として、地上波は日本人の“ツボ”を押すことが大前提。つまり地上波の“ウケ”とは、イコール“日本人が共感できるもの”と言い換えることができます。ただそれが世界の人の“ツボ”にハマるかどうかは、また別の話ですよね。

 世界で当たるコンテンツの作り方を学ぶためには、制作会社としてある意味ネトフリの“下”に入るのが手っ取り早い。ネトフリからしても、日本向けの番組制作ノウハウをもつテレビ局が制作に加わるのはメリットがある。うまく協力すれば、新しいヒットコンテンツが作れるかもしれないということで、両サイドの利害が一致してきたわけです」

 海外ウケに精通していると言われるネトフリも、まず眼差しているのは国内市場だ。ネトフリのコンテンツ部門ディレクターの高橋信一氏(高の正式表記は「はしごだか」)は、2024年7月に開催された日経クロストレンドFORUM2024のオンライン講演において、「日本チームとしては、まず日本の皆様に楽しんでもらえる作品を作る」ことを優先していると語っている。

問われるテレビ局の存在意義

 今後、テレビ局の存在意義はどうなるのか。

「テレビ局は、制作会社の側面と電波事業者としての側面があります。後者の魅力が右肩下がりのいま、活路を見出すとしたら面白いコンテンツを制作していく方向性。けど、テレビで当てたものを配信サービスで二次利用したところで、2度は当たらないことにも気づいてきました。テレビがエンタメ供給の“一軍”じゃなくなった現状では、最初から違う場所でコンテンツ作りをしていく道を模索していくしかない。それが映画や配信です」

 前述したドラマ『九条の大罪』はその一例だ。柳楽優弥、松村北斗、町田啓太ら一線級の俳優を揃え、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)や『カルテット』(2017)の土井裕泰監督がメガホンを取るなど気合たっぷり。鎮目氏は「“ドラマのTBS”の本気が見られそう」と期待を寄せるが、だとすれば地上波ではもう「本気」が見られないかというと、同氏はまさかの「地上波はつまらなくていい」と続ける。

「本当に面白いものや、一番作りたいものは地上波ではない、ということを局員たち自身がみんなうっすらわかっている。全力投球するならば、現時点では外資、ネトフリだと。特にドラマではそうなってきていますよね」

 とはいえ、地上波にもアドバンテージはある。

「芸能事務所との関係性が強いですし、宣伝媒体にもなる。ただ制作会社には、いまやゲーム・出版・イベントなどなんでもやれる幅の利く企業がたくさん出てきているので、電波事業がデジタル時代にどこまで大きな武器になるかは、今後の頑張り次第でしょう」

 情報の接触ポイントが日に日に増え、さらにそれらが複合的に交わるライフスタイル時代において、エンタメ業界が課せられているのは多角的なIP展開。カネがあるからといってそれが王者でいつづける保証はどこにもない。鎮目氏は「ネトフリ発のコンテンツも今後競争が激化する」と予見するが、はたして地上波はどこまで食らいつけるのか。

求められる劇場の“ゆるい束縛”

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/04/04 18:00