驚異『名探偵コナン』ロケットスタートの裏で“ワリを食う”作品たちと「映画館の飲食物売上」

今年も映画館の『名探偵コナン』シーズンが到来した。第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』が1997年に公開されて以来、春の恒例(2020年のみコロナ禍で1年延期)となっている同シリーズは、2026年『ハイウェイの堕天使』で29作目。2023年『黒鉄の魚影(サブマリン)』で初の興行収入100億円突破(最終興収138.8億円)を果たして以来、興収100億円以上をあげ続けながら、年々その“お祭り感”は熱量を増している。
さて今年は、公開初日(4月10日)午前0時からの「最速上映イベント」が、過去最大規模となる全国25館で開催。チケットが4月6日午前0時に発売開始されると、深夜ながらSNSでは争奪戦の実況や鯖落ち報告で大賑わいをみせ、2時間以内にソールドアウトした。
春の“稼ぎ頭”『コナン』は今年も絶好調
ロケットスタートを切った『ハイウェイの堕天使』は、公開初日時点で観客動員数73.9万人、興収11.3億円を記録。前作『隻眼の残像(フラッシュバック)』(2025)の初日動員69万人、興収10億5000万円を上回る過去最高記録を打ち立て、オープニング(公開3日間)成績では観客動員数231万人、興収35億円を突破した。
確約が見込めるビジネスチャンスとあって、映画館側の気合いの入れ方は半端でない。本作の舞台となった映画館「T・ジョイ横浜」では初日、他作品を1日1〜2回上映に減らしてまで59回という異常な上映回数を確保。全国各地でも1日30〜40回上映する映画館が相次いだ。
一方で、この事態には賛否両論が発生する。収益を上げたい映画館が人気作の上映回数を増やすのは当然の理屈で、観客としても堪能できるチャンスが広く行き渡る。しかしその裏には、圧倒的人気作以外の“枠”が確保されなくなる実態が厳然と存在するためだ。
たとえば、ヒット邦画が豊作だった昨年は、人気洋画ホラーシリーズの続編となる『M3GAN/ミーガン 2.0』がそもそも日本上陸を許されなかったし、『ファイナル・デッドブラッド』(ともに2025)は一旦上陸が見送られた――ファンからの要望を受けるテイで、やっと&たった全国9館のみでの緊急上映。そうでなくても、「見に行こうと思ったら、あっという間に上映時刻が朝や深夜など“隅”に追いやられ、あるいは上映回数が激減していた」という経験をした人は多いのではないか。
映画評論家・前田有一氏は、こうした現況について、「今後は、相当のヒットが確実視できない作品は『配信』で良いというジャッジになりかねない」と指摘し、劇場公開される作品の多様性が失われることを憂えるが、SNSでは、『コナン』パワーに他作品が食い荒らされないためにはどうしたいいかという話題のもと、映画館で飲食物を買うように呼びかける声が拡散している。“その作品が映画館に売上をもたらせば、継続的な上映もあり得る”というのがその理屈で、“飲食物が売れる映画は貴重だと判断されやすい”と、同意する声が連なる。
たしかに映画館の収益において「飲食物」の売上が重要であるのは想像に難くない。一般的に、映画の鑑賞料(チケット代)による映画館の収益は4〜5割ほどで、残りは配給会社の取り分だ。対して売店での飲食販売は、基本的に100%が純粋な売上となる。では、そうした飲食物の売上がどれほど「映画館の収入」そして「作品の継続上映」に影響を与えるのか。元映画業界紙の記者で、『映画ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)著者の和田隆氏に話を聞いた。
シネコンが「飲食物持ち込み禁止」を始めた“思惑”
まず、映画館が飲食物の売上を重視する背景には、「シネコン」との深い関係が無視できない。
大手シネコンでは、館内の売店以外で購入した飲食物の持ち込みは原則禁止。TOHOシネマズ、イオンシネマ、MOVIX(松竹マルチプレックスシアターズ)、109シネマズの公式サイトを見ると、その旨が明記されている。端的にいえば、シネコン側の「自分のところで飲食物を買ってほしい」狙いが透けて見える。
「シネコンの開業時にかかったコストや賃貸料などの採算を取るためには、なるべく売上の一部を配給会社や代理店に持っていかれないものを売りたい。飲食物の持ち込みを禁止することで、映画館にとって利益率のいい飲食物を買ってもらう導線につなげたいわけです」(和田氏、以下同)
映画館のなかでも2000年代以降普及したシネコンは、飲食物が“収入の柱”となる。
「シネコンの場合、系列ごとに同じオリジナル商品の原料を大量に仕入れ、生産できるというメリットがあります。たとえば、単館でしか売らない商品をわざわざ開発しても、コストだけがかかって利益を上げづらい。でも、シネコンチェーンなら全国展開を見据え、安く仕入れ、たくさん作ることができる。効率よく売上を確保できるビジネスとして、力を入れ始めた側面はあると思います」
とはいえ、映画館で販売されているすべての飲食物が完全な独自収益となるわけではない。たとえば上映作品とのコラボ飲食系商品は当然著作権などが絡んでくるため、「配給会社や制作会社、宣伝会社などとの契約内容にもよりますが、収益を分配する。もしくは最初にミニマムギャランティ(MG)を支払う」(和田氏)。今年の『コナン』でいえば、公開時期に合わせて、TOHOシネマズ(一部)で「ターボエンジン付きスケートボード型ポップコーンボックス」(3000円)が販売されている。これが1個売れたとして、3000円がソックリ映画館の懐に入るわけではないということだ。
「映画館側からすると、自分たちのオリジナル商品だけで売り上げを確保できることが理想ではあるものの、人気作品とのコラボ商品は期間&数量限定という側面からも人気があり、売れ行きが良いので、売上を分配することを踏まえても、ドンドン出していきたい商品ではあるでしょう」
実際、『劇場版チェンソーマン レゼ篇』(2025)の公開にあわせて「T・ジョイ」系列で発売された「チェンソーマンヘッド型ポップコーンボックス」(3900円)は、SNS上で即日完売の報告が相次ぐほどの売れ行きをみせた。まだ販売されている映画館を求めて、せっせと駆け回るファンもいたほどだ。
かつての映画館は「飲食物持ち込み自由」だった
今や映画を見る場所といえばミニシアターかシネコンかの二極化だが、そもそも映画館は持ち込みに寛容だった。かつて都内の繁華街には「有楽座」(日比谷、全1572席。1984年に閉館)や「テアトル東京」(銀座、全1248席。1981年に閉館)といった1000人規模の映画館、もしくは小さな名画座があったが、和田氏は「飲食物を持ち込んでも、取り締まるほどの厳格なルールはなかった」と振り返る。「飲食物」で収益をあげるというビジネスモデルは、その発想自体が生まれていなかったともいえる。
その点ミニシアターでは、今なお必ずしも「飲食物持ち込み」が禁止されていない。「シネスイッチ銀座」(銀座)は公式サイトで、匂いや音など他の観客への配慮を促しつつ「飲食物は場内にお持ち込みいただけます」と明記している。また、「早稲田松竹」(高田馬場)はアルコールのみ持ち込みが禁止。もちろん「K2シモキタエキマエシネマ」(下北沢)のように「飲食物の持ち込みはご遠慮ください」と呼びかけているところもある。
「ミニシアターは経営方針がそれぞれ違うので、考え方には個性が出ます。ある程度、持ち込みを許した方がむしろお客さんは来やすいのでは、という方針の劇場もあるでしょう」
結局飲食物購入は、作品のロングランにつながるのか
では、本題。飲食物の売上は、どれほど作品の上映回数に影響するのか。あるいは、しないのか。
「特にシネコンでは、基本的に着席率や稼働率で上映回数が決まるため、飲食物の売れ行きが上がることが、作品単体の上映回数を増やしたり、時期を伸ばしたりすることには結びつきづらい。
というのも、コラボ商品が出ているような人気作に関しては『売上=作品の集客力』が明らかですが、そうではない場合、同時に複数のスクリーンで違う映画をかけているシネコンでは『お客さんがどの作品を見に来たか』を正確に飲食物の売上から把握することはできません。飲食物の購入率が、ロングランにつながるかどうかの判断は非常に難しいでしょう」(※シネコンによっては半券割引サービスなどがあり、そこから半券割引サービス利用率の高い作品を把握することは可能。)
逆にいえば、スクリーン数の少ないミニシアターであれば、判断材料の一つになる可能性はあるということでもある。
「1日に1、2本しか上映されていない映画館の場合は、その回の動員数と物販や飲食物の売れ行きを比べて、『チケット料金以外の収益が見込める作品』だと判断されることはあるかもしれません」
つまり(特にシネコンでは)コラボ商品を除き、飲食物の購入が作品の応援指標になるとは断言できないということだが、映画館という場所を“推す”ことにはなる。ファンが買うコーラ一杯、ポップコーン1バケツには、映画愛が詰まっているのだ。
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)