『御上先生』松坂桃李の実はすごい「体の使い方」とは? 演技のプロが解説
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各所で高い評価を受けている日曜劇場『御上先生』(TBS系/日曜午後9時)。視聴率でも今期民放ドラマの中では独走状態となっており、教師役を好演する松坂桃李の評判もさらにうなぎ上りだ。
松坂の主演映画『新聞記者』(2019)で「第43回日本アカデミー賞」優秀脚本賞を受賞した詩森ろば氏が脚本を手掛ける同作は、文科省のエリート官僚・御上孝(松坂)が受験を控える高校3年生の担任教師となり、日本教育に蔓延る腐った権力へ立ち向かう大逆転教育再生ストーリー。
俳優陣には吉岡里帆、岡田将生、及川光博、常盤貴子、北村一輝、さらに生徒役として奥平大兼、蒔田彩珠、窪塚愛流らが名を連ねる。
松坂の演技の魅力や『御上先生』が支持される理由について、舞台企画制作や俳優のマネジメントと育成を行うプロダクション「THEATER LAB TOKYO」の代表を務める演出家で俳優の秋草瑠衣子氏に解説してもらった。
松坂桃李の“体の使い方”を演技講師が解説
『御上先生』で松坂さんが生徒や教師に対して理詰めするシーン、かっこいいですよね。そう見えるのは、彼の好感度の高さも影響していると思います。
クセのないストレートな声だからこそ、すっと耳に入ってくるし、爽やかかつどこか“良い人”な雰囲気をまとっているので、少しくらい嫌味な理屈を言っていたとしても、見ている人は「裏には何か良いことを隠しているに違いない」とポジティブな裏読みをしがちなのです。
また、私が同作で注目していただきたいと思った松坂さんの演技は、姿勢や手の動きといった身体性。第1話の冒頭、文部科学省でダンボールに荷物を詰めているシーンを例に説明します。
このシーンは、御上先生という人物を視聴者に初めて印象付ける大切なシーンです。この時の松坂さんの歩く姿勢から荷造りをしている姿勢まで、シーンを通してずっと背筋が真っ直ぐ伸びていて、体の軸がブレていません。そして、荷造りをしている手元の動きにまったく無駄がないのです。余計な目線も動かしません。理詰めのせりふだけでなく、こういった“無駄のない体の使い方”で御上先生という人物を表現しているのだと思います。
私が過去に見た松坂さんで印象的だったのは、2021年に放送されたNHK連続ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』で主演をされた時の演技。
同作で松坂さんが演じた元局アナの広報マン“神崎真”は御上先生とは真逆で、好感度を気にするあまり一見意味があるようで実際は中身がスカスカの「何か言ってるけど何も言ってない」話しかしないという役でした。
その時のフワフワ、キョロキョロして人の目を気にする人物像が面白くて印象的だったので、今回の役柄とのギャップに驚きました。
『御上先生』がこんなにも支持される理由とは?
現代の時代の流れ的に熱血教師は流行らない、若者に支持されない時代になったと思います。 昭和のように、尾崎豊的な若さからくる情熱や力での反抗ではなく、「熱意だけじゃどうにもならない」「コンプラに違反してる」など、それこそ理詰めで反抗する学生が増えたのではないでしょうか。
日曜劇場と同じくTBSの『金八先生』シリーズは、昭和から平成まで人気を博しましたが、当時とは思春期の若者が感じる“生きづらさ”も少し変わってきたのかもしれません。平成の熱血教師は「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ」と歌っていましたが、その状況はもしかすると令和になってさらに強くなっているのかもしれないですね。
それを思うと、『御上先生』の“学校にも問題はあるが問題の本質はもっと大きなところ、国や政治にある”というのも、現代的な切り口だと感じます。現代の日本で求められている教師像は、情熱や気合いで共感してくれる教師よりも、言いたいことも言えないはずのこんな世の中で、冷静にぐうの音も出ないほど納得するしかない理屈で言いたいことを言ってくれる教師なのかもしれません。