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『嘘解きレトリック』最終話 異形のミステリーが見せた「月9」へのささやかな着地 実写化の理想形

松本穂香(写真:GettyImagesより)
松本穂香(写真:GettyImagesより)

「フジテレビ月9といえば恋愛ドラマ」というスタンダードもずいぶん前から通用しなくなっていて、昨季の『海のはじまり』では父と娘のお話、昨年冬は『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』では本格サスペンスに挑んでみたりと、いろいろと試してみているようです。

 今クールの『嘘解きレトリック』は昭和初期を舞台としたミステリー。人気コミックを原作に西谷弘、永山耕三、鈴木雅之、河毛俊作という目もくらむような大御所演出家たちが集結していて、力が入っていることは感じられましたが、最終回ではなんともささやかに、いわゆる「月9」に着地しました。

 ニヤついちゃうね。振り返りましょう。

そっちできたかー

 この『嘘解きレトリック』物語は、嘘を聞き分けることができる探偵助手・鹿乃子(松本穂香)と貧乏探偵・左右馬(鈴鹿央士)のコンビが力を合わせて事件を解決するというのが基本的な建付けになっています。

 ドラマでは、いかにも横溝正史だったり江戸川乱歩だったりする殺人事件が発生し、鹿乃子の「嘘解き」と左右馬の推理能力でビシッと事件を解決する回もあれば、鹿乃子がその能力を持ってしまったことに悩み、左右馬や舞台となった九十九夜町の人々に受け入れられていく様子を描いた回もありました。

 ミステリーの最終回といえばドドンとスケールのでかい事件を持ってきて、これまで披露された能力や推理を総動員して解決するというのが定番ですが、『嘘解きレトリック』は、そのテーマである「嘘」そのものにフォーカスして小さな事件を描きました。

 ある日、ひとりの若い女性が左右馬の事務所を訪れます。聞けば、この事務所の大家さんにしばらく寝泊まりしていいといわれたとのこと。左右馬は家賃を滞納していますので断るに断れませんが、女性が名乗った名前も、ここに来た経緯もすべて嘘。その嘘は、もちろん鹿乃子に見抜かれてしまいます。

 人の嘘は、固くこだまして鹿乃子の耳を打ちます。この町に来て、いくつもの嘘を耳にしてきた鹿乃子ですが、この女性が嘘をついている理由はわかりません。しかし、話をしているうちに、どうやら失恋をして町をさまよっていたことを察します。

 やがて、新聞の尋ね人の欄から、左右馬と鹿乃子はこの女性が蘭子(加藤小夏)という名前であることを知ります。蘭子はかつて使用人として働いていた屋敷で、その家の令嬢・鈴乃(兼光ほのか)と姉妹のように仲が良かったこと。屋敷の隣のテーラーで働くようになり、若旦那・柾(福山翔大)といい関係になったこと。鈴乃と柾が結婚することになり、蘭子が家を出てしまったことを聞いた左右馬は、探偵の仕事として蘭子の行方を探すことを承ります。

 とっくに蘭子の居場所を知っている左右馬でしたが、無理に蘭子を家に帰そうとはしません。その事情を聞くと、蘭子はテーラーの若旦那ではなく、令嬢に恋をしていました。結婚が決まり、どうしても祝福できない蘭子。自分に嘘はつけないと左右馬に語りました。

 そんな蘭子に、左右馬は「あなたが嘘をついたのは鈴乃さんの幸せを願えないからじゃなくて、それでも願いたいからなんじゃないですか?」と問いかけます。

 屋敷に戻り「私はお嬢様と柾さんの幸せをずっと願ってる」と嘘をつく蘭子。いま嘘をつくことで、いつか蘭子は本当に2人の幸せを願えるようになるのかもしれません。

 そんな蘭子は、鹿乃子の左右馬への思いを逆に見抜いていました。

「がんばってね、鹿乃子ちゃん」

 そう耳元でささやかれ、慌てて「私は助手として……!」と取り繕おうとしますが、その言葉は鹿乃子自身の耳に、固くこだまして響くのでした。

 ああ、なんて愛らしいハッピーエンドでしょう。ラストのカーテンコールもオシャレでよかったね。

できること、やっていいこと

 脚本としては、ここまで原作に忠実なドラマも珍しいところです。コミックからエピソードを抽出し、話数の順番を入れ替えるだけで1クールの連ドラとして成立させています。

 コミックの実写化という作業は、モノクロのイラスト群をリアルの世界に立ち上げる魔法です。テレビという媒体の力、予算、スタッフィングを駆使すれば、どんな形にだって仕上げることができる。だからこそ、実写化という作業にはやっていいことと悪いことがある、近年、それを関係者やドラマ視聴者全員が痛感する出来事もありました。

 物語の良さはさんざん過去回のレビューで書いてきましたが、その実写化作品としてひとつの成功例を見た気がします。フジテレビが、月9で、総力を挙げてこれを作ってきた。これはドラマの世界を牽引する者としての自覚とプライドのなせる業だったと思います。

 もちろん、原作に忠実に、作為を加えず、ただ演出に注力するという今回のやり方が、必ずしも正解というわけではありません。むしろ、予算や演出力そのものの問題で失敗に終わる確率の方が高いスキームでしょう。

 でも、やられちゃったもんな。多くのドラマ関係者にとって、逃げ道を断ってくる残酷な作品でもあったと思います。やっぱ、大御所は怖いや。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/24 14:32