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【24年秋ドラマ】『わたしの宝物』最終話 たった5人で複雑なドラマを描いた「配置と時制のコントロール」

田中圭(写真:GettyImagesより)
田中圭(写真:GettyImagesより)

 基本的には、ざまぁ見ろと思いながら見てたんだなと今さら気づいてしまいましたドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)も最終話。

 きれいで優しい妻・ミワさん(松本若菜)にあらん限りのモラハラを繰り広げていたヒロキ(田中圭)が、その妻に不倫されたらざまぁ見ろ。不倫に逃げて不本意な子どもができた妻にもざまぁ見ろ。ピュアボーイ気取りでアフリカに学校作るとかキラキラな夢を語りつつ人妻を寝取って死んだ冬月(深澤辰哉)もざまぁ見ろ。マコト(恒松祐里)とリサ(さとうほなみ)はがんばれ、もっとやれ。マスター(沢村一樹)もきれいごとばっか言ってんじゃないよ。そんな気分で見ていたから楽しかったし、そうでも思わなきゃ、みんな状況が不可避すぎて、かわいそすぎて見てらんないというドラマでもありました。

 最終回、みんながいい感じのところに着地して、なんだかむずむずしております。振り返りましょう。

ごほうびのように、贖罪のように

 ヒロキの画策によって動物園に呼び出されたミワ&栞親子と冬月くん。ヒロキはミワに、「栞の本当の父親である冬月と暮らす」という選択肢を提案し、3人はお試しデートをすることになりました。

 栞ちゃんにとっては初めての動物園。もちろん記憶に残るようなことはありませんが、冬月はミワと栞ちゃんにカメラを向けて写真を撮ります。

 ハイチーズ、と言われても、うまく笑えないミワさん。冬月も、この3人で暮らしていくことはどうやら無理だと気づき始めます。

 デートが終わり、最後に栞ちゃんを抱かせてほしいという冬月。自分の遺伝子を継ぐ赤子を胸にミワさんに尋ねます。

「この子は、俺の子?」

 ミワさんに、結論を出すときが訪れました。“托卵”という許されざる選択をしたミワさんは、ゆっくりと顔を上げると「違うよ、栞は、わたしの子」と答えるのでした。

 栞とは二度と会わないという決意をしたヒロキは、その内容の離婚協議書を整え、離婚届を持ってミワさんと栞が暮らすマンションを訪れます。たった半年だったけれど、確かに3人は家族でした。離婚届を書き終えると、ヒロキは奥の寝室でぐずっている栞の顔を見ることもなくマンションを去っていきます。

 いわゆる「不可逆な問題を起こした夫婦を眺める悪趣味な観察記録」だったのは、ここまで。

 ミワさんが離婚届を出しに行くと言っていた年明けの日。ヒロキはミワさんに電話をかけて「今どこ!?」と叫ぶと、仕事を放り出して駆け出します。そして役所に向かうミワさんを捕獲。“托卵”の罪を自分も背負いたいとミワさんに告げ、元サヤに戻りました。

 ヒロキの計らいで融資を受けられることになった冬月は、再びアフリカで学校を作ることに。一度は絶縁したはずのリサを再び仕事に誘うのでした。リサも「考えとく」とか言いながら、まんざらでもない顔をしています。

 最初にミワさんの托卵に気付き、ヒロキにその事実と自分の横恋慕をまとめてぶちまけた諸悪の根源であるマコトも、雑貨屋のバイトの男の子といい感じに。マコトの息子もバイトには懐いているし、こちらも明るい未来を感じさせる結末でした。

 ヒロキ&ミワ夫婦、冬月、リサ、マコト、その5人をしこたま痛めつけてきたドラマは、まるでこの物語を盛り上げたごほうびのように、あるいは痛めつけてしまったことに対する贖罪のように、5人にささやかな幸せをプレゼントして幕を閉じるのでした。

 うーん、むずむずする! 結局、不幸になったのはヒロキにパワハラしてた上司(安井順平)だけじゃんか!

ジャンルは別として

「托卵をする悪女」をテーマにしたメロドラマというジャンルは別にして、5人の主要登場人物の配置と時制をコントロールしながら感情を振り回していく作劇は見事というほかありませんでした。

 少しずつ事件のタイミングをずらしながら、登場人物たちの選択肢を削っていく。自然と、みんなが最悪な判断をせざるを得ない状況を作り上げていく。そうして、誰彼のドロドロとした本音と打算を引き出していく。誤解と偶然を扱う群像劇として、めちゃくちゃよく練られた脚本だったと思います。プロの仕事とはこういうものだと改めて思い知りました。

 それと、田中圭が演じるヒロキが会社で働いているシーンがきちんと描かれていたことも成功の要因だったと思います。どんだけきつい状況でも仕事をしていることで、この人物に生活感、リアリティが現れていました。演じた田中圭のお芝居もずっとすごかった。

 いい仕事には奇跡が宿るものなんだよなと感じます。第1話のレビューにも書きましたが、このドラマが始まったのは10月17日、今年最大のスーパームーンの夜でした。

「悪女になるなら、月夜はおよしよ、素直になりすぎる」

 みんなが素直になるドラマにふさわしい幕開けでしたね。おつかれさまでした!

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/24 16:07