【24年秋ドラマ】『ライオンの隠れ家』最終話 「障害者と、その家族」を描いて極めて奇跡的なファンタジー
ASDのみならず、障害者を家族に持つことは、その愛情とは別の次元で恒常的な苦痛を伴う。障害者は常に無意識の拘束力、加害性を抱いて生活していて、家族に負担をかけ続けている。
ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)はそういう事実を認めた上で、障害者自身とその家族の自立を描こうとした作品でした。描き切ろうとしたし、この最終回で描き切ったと思います。
前回、なんとなくハッピーエンドでふんわり終わってもよかったと思うんですよね。「これからみんな、少しずつ変わっていくんだね」なんて余韻を残して、前を向いたヒロト(柳楽優弥)とASDのみっくん(坂東龍汰)を映して、ライオン(佐藤大空)がその2人を見上げているみたいな、そんなカットでVaundyくんの歌声に包まれてもよかった。その先に踏み込む形で主人公のヒロトが行方をくらます展開を持ってきたことに、まず感動しちゃうんだよな。やる気だ! ちゃんと見なきゃ! と思っちゃう。
ちゃんと見ました最終話。振り返りましょう。
「お兄ちゃんにも、やりたいことがありますか?」
みっくんのお迎えをほっぽらかして姿を消したヒロトは翌朝、東京・渋谷にいました。そこから原宿を抜けて青山まで歩き、気が付けば10数年前に中退した大学の前に立っていました。
大学を中退したのも、みっくんのためでした。一度はみっくんから離れ、東京でひとり暮らしを謳歌していたヒロトでしたが、両親が亡くなったことで茨城に戻り、それからずっとみっくんのお世話をする生活を送ってきました。
姉の愛生(尾野真千子)とライオンが家に来たことで、みっくんの存在という“拘束”が緩んだと感じたそのとき、すぐに大学に足を向けていたことになります。
みっくんもまた、みっくんなりにヒロトを案じていました。同じハンディキャップを持つ仲間から「自分たちはめんどくさい」存在であると告げられたこともあり、ヒロトに負担をかけていることを自覚し始めます。
そんなみっくんが堤防に描いた絵には、3匹のライオン。おそらくは、みっくんとヒロト、それにライオンを描いたものだったでしょう。その見事なイラストをヒロトたちは絶賛しますが、みっくんは「違います」と言って賛辞を受け入れようとしません。
第1話で、港を歩いていたみっくんが高く空を飛ぶウミネコを見上げて言っていたことがあります。
「どこを飛ぶかはウミネコの自由です。ウミネコだって違う景色見たいときだってあります」
みっくんは3匹のライオンの頭上に、1羽のウミネコを描き足しました。ヒロトとライオンも、ヘタクソなりに絵筆を取って、それぞれのウミネコを描きます。3匹のライオンと、3羽のウミネコ。同じプライド(群れ)の中で、自由に飛ぶ者たち。
その絵を眺めながら、ヒロトは自立を決意します。もう一度、大学に行く。その決意を受け入れたみっくんは、ヒロトに問うのでした。
「お兄ちゃんにも、やりたいことがありますか?」
第7話にも同じセリフがありました。ヒロトは「3人で旅行がしたい」と答えています。それは、みっくんとライオンを佐渡への逃避行へ連れ出すための方便でした。
今、ヒロトは本当にやりたいことを、みっくんに伝えます。本の仕事をして、みっくんの絵をまとめた画集を作りたい。
そのヒロトの「やりたいこと」に背中を押されるように、みっくんも家を出てグループホームに入ることにします。そろそろ自立しなきゃいけないし、何よりヒロトの夢のためにたくさん作品を描かなきゃいけない。
そうして兄弟は、互いに違う景色を見に出かけるのでした。
スーパースペシャルに奇跡的なファンタジー
障害者とその家族を描くドラマとして、この家族は多分に恵まれていました。
みっくんに暴力衝動や自傷衝動がなかったこと、絵の才能があったこと。特に、この絵の才能は稀有なものでした。「ちょっと絵が描ける」と「作品を完成させることができる」の間には、大きな差があります。みっくんが商業ベースで勝負できる作品を完成させる能力を持っていたことが、物語を大いに救っています。
そして「才能がある」ことと「才能を発揮する環境がある」ことにも、また大きな差があります。このドラマに登場する船木さん(平井まさあき)が経営する「プラネットイレブン」という組織が実家から通勤圏内にあったこともまた、奇跡的と言えるでしょう。超いいよね、船木さん。あんな人が近くにいたらって、願ってる人はこの国にたくさんいると思う。
かようにこのハッピーエンドを呼び込んだのは、彼らが作中で望むでもなく、設定の時点ですでに獲得していたスペシャルな環境によるものでした。ドラマは奇跡を見せるものだし、だからこそモチーフの当事者ではない私たちは、これが障害者と家族にとってまったく当然の帰結ではない、あらかじめ授けられた奇跡によってたどり着いた物語であったということを頭の隅に留めておく必要があると感じます。
サスペンスと並行して進んでいたクール前半はすごく歯がゆかったし面倒くさかった作品でしたが、結局のところ押し切られたな。何をおいても、坂東龍汰のお芝居に押し切られた。
面倒くさかったと言いつつ、あの食堂の風呂場で向井理がボディを透明にされてるような展開も、ちょっと期待してたんですけど!
(文=どらまっ子AKIちゃん)