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『おむすび』第61回 米田結「なぜ言ってくれなかった?」という他責思考の残酷さ

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 手元に資料がないので正確ではないかもしれないけれども、俳優の陣内孝則が初監督を務めた映画『ROCKERS』(03)というロックバンドを描いた作品で、印象的なシーンがあったんです。

 バンドのリーダー・ジン(中村俊介)とギターのタニ(玉木宏)がラーメン屋で向かい合っているんですが、タニは目の病気があって、もうすぐ失明するという状態なんですね。そのタニが、初めてジンに自分の目のことを告白する場面です。

 タニの言葉を聞いたジンはテーブルを叩いて「なんで今まで……っ!」と怒鳴るんです。

「なんで今まで、気づいてやれなかったやろか……ダメやなぁ、俺は……」

 うわ、なんて優しいんだ、ジン。いちばんつらいのはタニだし、言い出せなかったのは自分のせいもあったんだろうって、悔し涙をこらえながらラーメン屋の大将に替え玉を頼むんです。20年前のシーンなのに、よく覚えてる。そういえば『ROCKERS』も博多の話でしたね。

 NHK連続テレビ小説『おむすび』第13週は「幸せって何なん?」だそうです。61回目、振り返りましょう。

お医者さんさん、ごめんなさい。

 まずは先週のレビューについて、誤りがあったことを謝罪しなければなりません。登場人物を不当に貶める文章がありました。

 翔也(佐野勇斗)の肩を診たお医者さんに対して、以下のようなことを書いています。

・患者に対して、漫然とケガの状態だけを伝えて不安にさせている。

・インフォームドコンセントが、まるでできてない。

・保存療法と手術のメリット・デメリットを相手が理解できるように伝えて、納得できなければセカンドオピニオンを勧めろ。

 お医者さん、ちゃんとレントゲン写真を見せながら症状を説明していましたね。しかも「右肩関節唇損傷」に加えて「右肩腱板損傷」という診断書も出している。手術の必要性についても説明していたし、予後についても変に回りくどい言い方をせず、率直に伝えていました。

 ちゃんと仕事してた、お医者さんごめん!

 なぜこういう勘違いが起こったかというと、これまでの『おむすび』における説明不足やジャンルへの理解の浅さから「どうせちゃんと説明してないんだろ」とナメてしまったことも事実ではありますが、それ以上に、翔也が「投げていた」からなんです。

 結(橋本環奈)をキャッチボールに誘った翔也は、ヘロヘロのボールを投げながら、「もう投げられない」と言います。そう言いながら、10メートルくらい投げている。

 これ、肩をやったピッチャーにとって、「投げられる」か「投げられない」かでいえば「投げられる」状態なんですよね。重度の関節唇損傷と腱板損傷だったら、日常生活だってままならないですよ。ましてや肩を回してボールを投げるなんで動作ができるわけないの。ヘロヘロだろうがなんだろうが10メートルくらいのキャッチボールって、肩を壊した人にとってはそれくらい難しいものです。

 2人にキャッチボールさせたらエモーショナルがシーンが撮れると思ったんでしょう。しかし、そのエモさと引き換えに、また野球への理解の甘さ、浅さが露呈しています。

 綿密な取材でおなじみの『おむすび』ですが、こんなのそこらへんの野球好きのおじさんに聞いたらわかるくらいの情報なんですよ。野球好きなおじさんだったら、伊藤智仁と斉藤和巳がどれだけ突出していて、野球ファンにどれだけ大きな夢を見せてくれて、その後に何が起きたか、忘れるわけないんだから。「肩を壊す」って言葉の重みが身に染みているんだから。

 ともあれ翔也からの告白を受けた結は、「なんで、それ言ってくれんかったん?」と聞きます。ここで思い出したのが、冒頭の『ROCKERS』のシーンです。あのときのジンは優しかったし、結は優しくないんです。

 この人、さっきまでプロポーズだーって浮かれてましたからね。ボールの代わりに指輪を投げてくるかも、とか結が思ってたのは、さすがに翔也にも伝わってますよ。言えるわけないんです。

 このシーンで表現されたのは、結が翔也のことをまったく、一切、ちゃんと見ていなかったという事実です。それと、なぜ言ってくれなかったのかという他責思考ですね。

『おむすび』第9週「支えるって何なん?」で、結は誰かを支えることについて学んでいたはずなんです。相手の状況や気持ちを注意深く観察して、相手が望むこと、相手の役に立つことを真剣に考える。サッチンと無理やり仲直りさせてまでドラマが結に叩き込んだ「支える」という言葉の意味を、もう忘れてるんです。

 主人公がバカなのはいい。学ばない人間であることが御し難いのです。

 翔也のこともちゃんと見られない、大切にできないなら、この人は何が大切なのでしょう。その人物の「もっとも大切なもの」を描くことは、その人物そのものを描くことです。ここが描けていないから、結という人物に共感できない。

 翔也についてはもういいです。なんで医者に早く行かないのかずっと疑問でしたが、どうやら痛覚もないみたいだし、たぶんこれホンモノのカッパなんでしょ。頭のお皿を隠すためにカツラかぶってるのかな。ホンモノのカッパの心中など察せるわけがありません。とりあえず新聞記者の川西くんは今回の星河野球部の管理不行き届きを一部始終記事にした方がいいよ。来年以降、有望な選手が星河に来たら、また悲劇を繰り返すことになる。

心変わりを責めても

 コック長の立川さんは彼氏がケガした結に同情したのか何なのか、新しいレシピの作成を指示してきます。いわく「料理をレシピにしてみたら、味が濃いと俺も思った」。

 レシピにしてみたら、味が濃いと思った。

 ちょっと何を言っているのかわかりません。レシピにしてみたら基準摂取量に比べて塩分が過多であることがわかった、ならわかるけど、「味が濃いと思う」は主観的な感覚でしょう。セリフの使い方が雑なんですよ。まあ心変わりすることは目に見えていたから展開自体はいいんだけど、このへんの論理の飛躍もなぁ。

 糸島編の最後で、アユから「あなたはかわいい服が好きだったから」と言われた結が「そうだった! ギャルやる!」ってなったときにも感じた、行動と動機における因果の薄さが引っかかる部分です。

 それと、この場面で結はメシも食わずに雑用をしているわけですが、ここでも「もっとも大切なもの」をおろそかにしている。どうあれ食事管理はちゃんとしようよ、という栄養士としての職業意識、「おいしいものを食べて悲しいことを忘れよう」という物語のメッセージ、その両方を結という人が蔑ろにしているわけです。

 彼氏も、仕事も、マインドも、全部が疎か。いったいこの人の、何に共感して何を愛せばいいというのか。

 顔か? やっぱ顔なのか?

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/24 14:41