咲村良子プロレス挑戦記03 華やかに散ったデビュー戦
咲村良子連載コラム第3回
「ヴィランの花道 ~咲き乱れ 散りゆくままに~」
あぁ、ライトが眩しい。流れ星みたいに光が筋になって、次の瞬間には全身に衝撃が響いている。
今日、この景色を何回見たんだろう、あと何回見るんだろう。しんどいな、つかれたな、痛いな。
正面には観客がいたはずなのに担がれてまた天井のライトを見ている。すごく天井が近い。
上も下もわからなくなりながらも気づいたら叫んで立ち上がって向かっていた。
高橋奈七永と咲村良子のふたりだけの世界がそこには間違いなくあって、静寂。
同時に、見ている人々からの声援、気持ちも全部感じて、背中を押される。永遠に続くんじゃないかと思う一瞬が終わった。
そしてプロレス人生が始まった――。
何度も来た後楽園ホールに今日、初めて選手として乗り込んだ。
気分は浮つきながらも沈んでるような複雑な感じ。逃げられない絶望感が私を震わせる。
何したらいいんだろう?
いつコスチュームに着替えたらいいのかな?
雑用もしないと……。
何もわからない。
リングの準備ができて最後の練習。
がむしゃらに受け身を一通りやって、技の確認をしてみる。全然上手くいかない。調子悪いかも……、なんて思いながら楽屋に戻った。
ナーバス、不安、諦め、絶望感が私を襲う。
でも、そんなどうしようもない心境に慣れている自分もいて、「これこれ、本番前のやつだ。久しぶりの感覚やん」と余裕の私もいた。
そのあとはもう気づいたら出番。
入場口のカーテン裏へ。
私は第2試合。第1試合が終わり、いよいよだ。
私の入場曲が初めて後楽園に流れた。
曲のカウントを数えた。あと4カウントで出なきゃ。3、2……1でカーテンを払って観客とカメラの前に出る。
気持ちいい!
大好きなライトとカメラと観客を前にしてアドレナリンとドーパミンが溢れる。
心臓が半分くらいのサイズに潰された感じ。それでもリングに上がると演者としての条件反射でちゃっかり笑顔で一周まわってポーズも決めて、素敵に振り返って自分のコーナーに向かう自分に感心した。
試合中のことは記憶があまりにも散らかってほとんど覚えていない。とにかく必死で、痛くて、しんどくて、悔しくて、負けたくなくて、突っ込むしかできなかった。記憶より感覚だけが鮮明だ。
奈七永さんは、叩いても蹴ってもびくともしなかった。それなのに奈七永さんの一発が私には致命傷のように響く。
一番落ち着いて見られたのは天井のライトだった。
何回見たんだろう。
天井とライトばかりが目に入った。
もうひとつはサードロープ。
あとはずっと奈七永さんを見ていた。試合中ずっと思考が体に追いつかない。全部が頭に届く前に起こっていたようだった。
最後、気がついたらゴングが鳴っていた。私は負けた。
奈七永さんが手を差し出してくれた。その手を取ることが悔しかった。でも、その手があまりにも大きくて優しくて、気がついたら手を取って抱きついていた。
これが私のデビュー戦。咲村良子というプロレスラーが生まれた瞬間だ。
(文=咲村良子)
咲村良子マリーゴールド戦記III
2024年12月26日、ついにグラビアアイドルの咲村良子がプロレスのリングでデビューを果たした。
聖地・後楽園ホールで、相手は「女子プロレス界の人間国宝」と呼ばれる高橋奈七永だ。
今大会はプロレス動画配信サービス「WRESTLE UNIVERSE」の公式YouTubeチャンネルにて完全無料の生中継。ということで、白熱した試合の模様は同チャンネルでぜひ確認してほしい。
とにかく咲村良子の気迫が凄まじかった。
華やかにリングに舞い降りたかと思えば、奇襲一閃、大先輩に向かって渾身のエルボーを喰らわす。そのままドロップキック。怒涛のラッシュ。
だが、さすが人間国宝。
一瞬、面食らったように見せてニヤリと攻勢に出る。シンプルな手刀が、咲村のそれとは違う重々しい音を響かせる。
咲村は苦悶の表情を隠さない。泣き叫ぶように悶え、必死に堪える。
意地を見せるかのように高橋をコーナーに追いつめて渾身の膝蹴り。さらに、全日本女子プロレスで活躍した吉田万里子から直伝されたというクモガラミを決める。
ここで高橋奈七永の雰囲気が変わった。
情熱の戦闘モードに切り替わった高橋は、強烈なショルダータックルで咲村を吹き飛ばす。そこから超高角度のバックドロップをお見舞い。
息も絶え絶えの咲村。逃がすつもりなど毛頭ない高橋。
最後は高橋の拷問固め。咲村良子のデビュー戦は悔しい一敗となった。
試合後、咲村良子は感激の涙を流した。ただの悔し涙ではない。そこには感謝や感動、そして歓喜や充実感、未来に馳せる想い、そうしたポジティブな感情が溢れていたように思う。
「マリーゴールドの顔になること、そしてゆくゆくは日本の女子プロレスの顔になっていく。そんな大きい選手になれるように頑張って行こうと思ってます」
咲村良子はそう力強く語った。
楽な道ではないことはわかっている。厳しい道のりだからこそ歩む価値がある。咲村はそんな風に考えているのだろう。
デビュー戦で華々しく散ったプロレスラー咲村良子。このプロレス挑戦記「ヴィランの花道 ~咲き乱れ 散りゆくままに~」では、ヒールも厭わない覚悟で女子プロレスに挑む彼女を2025年も全力で追っていく。
(文=サイゾーオンライン編集部)